神曲

LA DIVINA COMMEDIA

天堂

山川丙三郎訳




   第一曲

萬物を動かす者の榮光あまねく宇宙を貫くといへどもそのかゞやきの及ぶこと一部に多く一部に少し 一―三
我は聖光みひかりいと多く受くる天にありて諸※(二の字点、1-2-22)の物を見たりき、されど彼處かしこれてくだる者そを語るすべを知らずまたしかするをえざるなり 四―六
これわれらの智、己が願ひに近きによりていと深く進み、追思もこれにともなふあたはざるによる 七―九
しかはあれ、かの聖なる王國たついてわが記憶に秘藏ひめをさめしかぎりのことゞも、今わが歌の材たらむ 一〇―一二
あゝきアポルロよ、この最後いやはてわざのために願はくは我を汝の徳のうつはとし、汝の愛するアルローロをうくるにふさはしき者たらしめよ 一三―一五
今まではパルナーゾの一のいたゞきにてりしかど、今は二つながら求めて殘りの馬場に入らざるべからず 一六―一八
願はくは汝わが胸に入り、かつてマルシーアをその身のさやより拔き出せる時のごとくに氣息いきけ 一九―二一
あゝいと聖なる威力ちからよ、汝我をたすけ、我をしてわが腦裏にされたる祝福めぐみの國のうすれしかたあらはさしめなば 二二―二四
汝はわが汝のめづる樹のもとにゆきてその葉を冠となすを見む、詩題と汝、我にかくするをえしむればなり 二五―二七
父よ、皇帝チェーザレまたは詩人のほまれのためにまるゝことのいとまれなれば(人の思ひの罪と恥なり) 二八―三〇
ペネオのむすめの葉人をして己にかはかしむるときは、悦び多きデルフォの神に喜びを加へざることあらじ 三一―三三
それ小さき火花にも大いなる焔ともなふ、おそらくは我より後、我にまさる馨ありてぎ、チルラのこたへをうるにいたらむ 三四―三六
世界のともしび多くのことなる處よりのぼりて人間にあらはるれども、四の圈相合して三の十字を成す處より 三七―三九
出づれば、その道まさり、その伴ふ星またまさる、しかしてその己がさがに從ひて世の蝋をとゝのかたすこといよ/\いちじるし 四〇―四二
かしこをあしたこゝをゆふべとなしゝ日は殆どかゝる處よりいで、いまやかの半球みな白く、そのほかは黒かりき 四三―四五
この時我見しに、ベアトリーチェは左に向ひて目を日にとめたり、鷲だにもかくばかりこれを凝視みつめしことあらじ 四六―四八
第二の光線常に第一のそれよりいでゝ再び昇る、そのさま歸るを願ふ異郷の客に異ならず 四九―五一
かくのごとく、彼のす所――目を傳ひてわが心の内に入りたる――よりわが爲す所いで、我は世の常をえて目を日に注げり 五二―五四
元來もとより人の住處すまひとして造られたりしところなれば、こゝにてはわれらの力に餘りつゝかしこにてはわれらが爲すをうること多し 五五―五七
わが目のこれにふるをえしはたゞすこしの間なりしも、そがあたかも火よりいづる熱鐡の如く火花をあたりにちらすを見ざる程ならざりき 五八―六〇
しかして忽ち晝晝に加はり、さながらしかすることをうる者いま一の日輪にて天を飾れるごとく見えたり 六一―六三
ベアトリーチェはその目をひたすら永遠とこしへの輪にそゝぎて立ち、我はわが目を上より移して彼にそゝげり 六四―六六
かれの姿を見るに及び、わがうちあたかもかのグラウコが己を海の神々の侶たらしむるにいたれる草を味へる時の如くになりき 六七―六九
※(二の字点、1-2-22)そも/\超人の事たるこれを言葉にあらはし難し、是故に恩惠めぐみによりてこれがためしべき者この例をもてれりとすべし 七〇―七二
天を統治すべをさむる愛よ、我は汝が最後に造りし我の一部に過ぎざりしか、こは聖火みひかりにて我を擧げし汝の知り給ふ所なり 七三―七五
慕はるゝにより汝が無窮となしゝ運行、汝のとゝのへかつわかつそのうるはしき調しらべをもてわが心を引けるとき 七六―七八
日輪の焔いとひろく天をもやすと見えたり、雨または河といふともかくひろがれるうみはつくらじ 七九―八一
おとくすしきと光の大いなるとは、その原因もとにつき、未だ感じゝことなき程に強き願ひをわが心にもやしたり 八二―八四
是においてか、我を知ることわがごとくなりし淑女、わが亂るゝ魂をしづめんとて、我の未だ問はざるさきに口をひらき 八五―八七
いひけるは。汝あやまれる思ひをもて自ら己をおろかならしむ。是故にこれを棄つれば見ゆるものをも汝は見るをえざるなり 八八―九〇
汝は汝の信ずるごとく今地上にあるにあらず、げに己が處を出でゝする電光いなづまはやしといへども汝のこれに歸るに及ばじ。 九一―九三
わが第一の疑ひはこれらの微笑ほゝゑめる短きことばによりて解けしかど、一のあらたなる疑ひ起りていよ/\いたく我をからめり 九四―九六
我即ちふ。かの大いなる驚異あやしみにつきてはわが心既に足りて安んず、されどいかにしてわれ此等の輕き物體をえてのぼるや、今これをあやしとす 九七―九九
是においてか彼、一の哀憐あはれみ大息といきの後、狂へる子を見る母のごとく、目をわが方にむけて 一〇〇―一〇二
いふ。およそありとしあらゆる物、皆その間に秩序を有す、しかしてこれは、宇宙を神の如くならしむる形式ぞかし 一〇三―一〇五
※(二の字点、1-2-22)の尊く造られし物、永遠とこしへ威能ちから(これを目的めあてとしてかゝるのりは立てられき)の跡をこの中に見る 一〇六―一〇八
わがいふ秩序の中に自然はすべて傾けども、そのぶんことなりて、己が源にいと近きあり然らざるあり 一〇九―一一一
是故にみな己が受けたる本能に導かれつゝ、存在の大海おほうみをわたりて多くの異なるみなとにむかふ 一一二―一一四
火を月の方に送るもこれ、滅ぶる心を動かすも是、地を相寄せて一にするもまた是なり 一一五―一一七
またこの弓は、たゞ了知さとりなきものゝみならず、智あり愛あるものをも射放つ 一一八―一二〇
かく萬有の次第を立つる神の攝理は、いとくめぐる天をつゝむ一の天をば、常にその光によりてしづかならしむ 一二一―一二三
今やかしこに、己が射放つ物をばすべて樂しきまとにむくるつるの力我等を送る、あたかもさだまれる場所におくるごとし 一二四―一二六
されどげに、材もだしてこたへざるため形しば/\技藝の工夫くふうはざるごとく 一二七―一二九
被造物つくられしものまたしば/\この路を離る、そはこれは、かくうながさるれども、もし最初の刺戟僞りの快樂けらくの爲にれて 一三〇―
これを地に向はしむれば、その行方ゆくへを誤る(あたかも雲より火のおつることあるごとく)ことをうればなり ―一三五
わがはかるところ正しくば、汝の登るはとある流れの高山よりふもとに下り行くごとし、何ぞあやしとするに足らんや 一三六―一三八
障礙しやうげを脱しつゝなほ下に止まらば、是かへつて汝における一の不思議にて、地上に靜なることの燃ゆる火における如くなるべし。 一三九―一四一
かくいひて再び顏を天にむけたり 一四二―一四四
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   第二曲

あゝ聽かんとて小舟をぶねに乘りつゝ、歌ひて進むわが船のあとを追ひ來れる人等よ 一―三
立歸りて再び汝等の岸を見よ、沖に浮びいづるなかれ、恐らくは汝等我を見ずしてさまよふにいたるべければなり 四―六
わがわたりゆく水は人いまだ越えしことなし、ミネルヴァ氣息いきき、アポルロ我を導き、九のムーゼ我に北斗を指示す 七―九
また數少きも、天使のかて(世の人これによりて生くれどくにいたらず)にむかひてうなじげし人等よ 一〇―一二
水のおもての再び平らかならざるさきにわが船路ふなぢの跡をたどりつゝ海原うなばら遠く船を進めよ 一三―一五
イアソンが耕人たがやすひととなれるをコルコに渡れる勇士つはもの等の見し時にもまさりて汝等驚きあやしまむ 一六―一八
神隨かんながらの王國を求むる本然永劫えいごふかわきわれらを運び、その速なること殆ど天のめぐるに異ならず 一九―二一
ベアトリーチェは上方うへを、我は彼を見き、しかして矢のつるを離れ、飛び、とゞまるばかりの間に 二二―二四
我はくすしき物ありてわが目をこれにけるところに着きゐたり、是においてかわが心の作用はたらきをすべて知れる淑女 二五―二七
その美しさにおとらざる悦びをあらはしわが方にむかひていふ。われらを第一の星と合せたまひし神に感謝の心をさゝぐべし。 二八―三〇
日に照らさるゝ金剛石のごとくにて、光れる、き、固き、磨ける雲われらを蔽ふと見えたりき 三一―三三
しかしてこの不朽の眞珠は、あたかも水の分れずして光線を受け入るゝごとく、我等を己の内に入れたり 三四―三六
一の量のいかにして他の量をれたりし――體、體の中に入らばこの事なきをえざるなり――やは人知り難し、されば我もし 三七―
肉體なりしならんには、神入相結ぶ次第を顯はすかの至聖者を見んとの願ひ、愈※(二の字点、1-2-22)強くわれらをもやさゞるをえず ―四二
信仰にりて我等が認むる所の物もかしこにては知らるべし、但しあかしせらるゝにあらず、人の信ずる第一の眞理の如くこの物おのづから明らかならむ 四三―四五
我答ふらく。わが淑女よ、我は人間世界より我を移したまへる者に、わが眞心まごゝろを盡して感謝す 四六―四八
されど告げよ、この物體にありて、かの下界の人々にカインの物語をさしむる多くの黒きほしは何ぞや。 四九―五一
彼少しく微笑ほゝゑみて後いふ。官能のかぎの開くをえざる處にて人思ひ誤るとも 五二―五四
げに汝今驚きの矢に刺さるべきにはあらず、諸※(二の字点、1-2-22)の官能にともなふ理性の翼の短きを汝すでに知ればなり 五五―五七
されど汝自らこれをいかに思ふや、我に告げよ。我。こゝにてわれらにさま/″\に見ゆるものは、思ふに體の粗密に由來す。 五八―六〇
彼。もしよく耳をわが反論に傾けなば、汝は必ず汝の思ひの全く虚僞におちいれるを見む 六一―六三
それ第八の天球の汝等に示す光は多し、しかしてこれらはその質と量とにおいて各※(二の字点、1-2-22)あらはるゝ姿を異にす 六四―六六
もし粗密のみこれが原因もとならば、同じ一の力にてたゞわかたれし量を異にしまたはこれを等しうするものすべての光の中にあらむ 六七―六九
力の異なるは諸※(二の字点、1-2-22)の形式の原理の相異なるによらざるをえず、然るに汝の説に從へば、これらは一を除くのほか皆亡び失はるにいたる 七〇―七二
さてまた粗なること、汝のたづぬるかの斑點はんてん原因もとならば、この遊星には、その材の全く乏しき處あるか 七三―七五
さらずば一の肉體があぶらと肉とをわかつごとく、この物もまたそのふみの中にかさぬる紙を異にせむ 七六―七八
もし第一の場合なりせば、こは日蝕の時、光の射貫いぬく(他の粗なる物體に引入れらるゝ時の如く)ことによりて明らかならむ 七九―八一
されどこの事なきがゆゑに、殘るは第二の場合のみ、我もしこれを打消すをえば、汝の思ひの誤れること知らるべし 八二―八四
もしこの粗、穿うがつらぬくにいたらずば、必ず一の極限きはみあり、密こゝにこれをはゞみてそのさらに進むをゆるさじ 八五―八七
しかしてかしこより日の光の反映てりかへすこと、鉛を後方うしろにかくす※(「王+黎」、第3水準1-88-35)はりより色の歸るごとくなるべし 八八―九〇
是においてか汝はいはむ、奧深き方より反映てりかへすがゆゑに、かしこにてはほかの處よりも光暗しと 九一―九三
汝等の學術の流れのもととなるならはしなる經驗は――汝もしこれに徴せば――この異論より汝を解くべし 九四―九六
汝三の鏡をとりて、その二をば等しく汝より離し、殘る一をさらに離してさきの二の間に見えしめ 九七―九九
さてこれらにむかひつゝ、汝のうしろに一の光を置きてこれに三の鏡を照らさせ、その三より汝の方に反映てりかへらせよ 一〇〇―一〇二
さらば汝は、遠き方よりかへる光が、量において及ばざれども、必ず等しくかゞやくを見む 一〇三―一〇五
今や汝の智、あたかも雪の下にある物、暖き光に射られて、はじめの色とつめたさとを 一〇六―
失ふごとくなりたれば、汝の目にきらめきてみゆるばかりに強き光を我は汝にさとらしむべし ―一一一
それいと聖なる平安を保つ天の中に一の物體のめぐるあり、これに包まるゝすべての物の存在はみなこれが力にす 一一二―一一四
その次にあたりてあまたの光ある天は、かの存在を頒ちて、これを己と分たるれども己の中に含まるゝさま/″\の本質に與へ 一一五―一一七
他の諸※(二の字点、1-2-22)の天は、各※(二の字点、1-2-22)異なるさまにより、その目的めあてたねとにむかひて、己がうちなる特性をとゝのふ 一一八―一二〇
かゝればこれらの宇宙の機關は、上より受けて下に及ぼし、次第をひて進むこと、今汝の知るごとし 一二一―一二三
汝よく我を視、汝の求むる眞理にむかひてわがこの處を過ぎ行くさまに心せよ、さらばこの後ひとりにて淺瀬を渡るをうるにいたらむ 一二四―一二六
そも/\諸天の運行とその力とは、あたかも鍛工かぢより鐡槌つちわざのいづるごとく、諸※(二の字点、1-2-22)のたふとき動者うごかすものよりいでざるべからず 一二七―一二九
しかしてかのあまたの光に飾らるゝ天は、これをめぐらす奧深き心より印象かたを受けかつこれをす 一三〇―一三二
また汝等のちりの中なる魂がさま/″\の能力ちからに應じて異なる肢體したいにゆきわたるごとく 一三三―一三五
かの天をつかさどるもの、またその徳をあまたにしてこれを諸※(二の字点、1-2-22)の星に及ぼし、しかして自らいつなることをたもちてめぐる 一三六―一三八
さま/″\の力そのかすたふとき物體(力のこれと結びあふこと生命いのちの汝等におけるが如し)と合して造る混合物まぜものいつならじ 一三九―一四一
悦び多きさがより流れ出づるがゆゑに、このまじれる力、物體の中に輝き、あたかも生くる瞳の中に悦びのかゞやくごとし 一四二―一四四
光と光の間にて異なりと見ゆるものゝ原因もと、げに是にして粗密にあらず、是ぞ即ち形式の原理 一四五―
己が徳に從つてかの明暗を生ずる物なる。 ―一五〇
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   第三曲

さきに愛をもてわが胸をあたゝめし日輪、とのあかしをなして、美しき眞理のたへなる姿を我に示せり 一―三
されば我は、わがはや誤らず疑はざるを自白せんため、物言はんとてほどよくかうべげしかど 四―六
このとき我に現はれし物あり、いとつよくわが心をきてこれを見るにもつぱらならしめ、我をしてわが告白を忘れしむ 七―九
きとほりてくもりなき玻※(「王+黎」、第3水準1-88-35)または清く靜にてしかして底の見えわかぬまで深きにあらざる水にうつれば 一〇―一二
われらのおもかげかすかに見えて、さながら白きひたひの眞珠のたゞちに瞳に入らざるに似たり 一三―一五
我また語るをねがふ多くのかゝる顏を見しかば、人と泉との間に戀をもやしたるその誤りの裏をかへしき 一六―一八
かの顏を見るや、我はこれらを物にうつれる姿なりとし、その所有者もちぬしの誰なるをみんとて直ちに目をめぐらせり 一九―二一
されど何をも見ざりしかば、再びこれを前にめぐらし、うるはしき導者――彼は微笑ほゝゑみ、その聖なる目輝きゐたり――の光に注げり 二二―二四
彼我に曰ふ。汝の思ひのをさなきをみて我のほゝゑむをあやしむなかれ、汝の足はなほいまだ眞理の上にかたく立たず 二五―二七
その常の如く汝をくうにむかはしむ、そも/\汝の見るものは、誓ひを果さゞりしためこゝに逐はれしまことの靈なり 二八―三〇
是故に彼等と語り、聽きて信ぜよ、彼等を安んずるまことの光は、己を離れて彼等の足の迷ふを許さゞればなり。 三一―三三
我は即ち最もせちに語るを求むるさまなりし魂にむかひ、あたかも願ひ深きに過ぎて心亂るゝ人の如く、いひけるは 三四―三六
あゝ生得しやうとくさちある靈よ、味はゝずして知るによしなき甘さをば、永遠とこしへ生命いのちの光によりてあぢはふ者よ 三七―三九
汝の名と汝等の状態ありさまとを告げてわが心をたらはせよ、さらば我悦ばむ。是においてか彼ためらはず、かつ目にゑみをたゝへつゝ 四〇―四二
我等の愛は、その門を正しき願ひの前に閉ぢず、あたかも己が宮人みやびと達のみな己と等しきをねがふ愛に似たり 四三―四五
我は世にて尼なりき、汝もしよく記憶をたどらば、昔にまさるわが美しさも我を汝にかくさずして 四六―四八
汝は我のピッカルダなることを知らむ、これらの聖徒達とともに我こゝに置かれ、いとおそき球の中にてさいはひを受く 四九―五一
さてまたわれらの情は、たゞ聖靈のこゝろかなふものにのみもやさるゝが故に、その立つる秩序によりてとゝのへらるゝことを悦ぶ 五二―五四
しかしてかくいたくおとりて見ゆる分のわれらに與へられたるは、われら誓ひを等閑なほざりにし、かつ缺く處ありしによるなり。 五五―五七
是においてか我彼に。汝等のくすしき姿の中には、何ならむ、いと聖なるものありて輝き、昔のかたち變りたれば 五八―六〇
たゞちに思ひ出るをえざりき、されど汝の我にいへること今我をたすけ我をして汝を認めやすからしむ 六一―六三
ふ告げよ、汝等こゝにてさいはひなる者よ、汝等はさらに高き處に到りてさらに多く見またはさらに多くの友を得るを望むや。 六四―六六
他の魂等とともに彼まづ少しく微笑ほゝゑみて後、初戀の火に燃ゆと見ゆるほど、いとよろこばしげに答ふらく 六七―六九
兄弟よ、愛の徳われらのこゝろしづめ、我等をしてわれらのつ物をのみ望みて他の物にかわくなからしむ 七〇―七二
我等もしさらに高からんことをねがはゞ、われらの願ひは、われらをこゝと定むる者のこゝろに違ふ 七三―七五
もし愛の中にあることこゝにて肝要ならば、また汝もしよくこの愛のさがば、汝はこれらの天にこの事あるをえざるを知らむ 七六―七八
げに常に神の聖意みこゝろの中にとゞまり、これによりて我等のこゝろ一となるは、これこのさいはひなる生のもとなり 七九―八一
されば我等がこの王國の諸天に分れをるさまは、王(我等の思ひを己が思ひにはしむる)の心にかなふ如く全王國の心に適ふ 八二―八四
聖意みこゝろはすなはちわれらの平和、その生み出だし自然の造る凡ての物の流れそゝぐ海ぞかし。 八五―八七
天のいづこも天堂にて、たゞかしこに至上の善の恩惠めぐみの一樣にらざるのみなること是時我に明らかなりき 八八―九〇
されど人もし一の食物くひものに飽き、なほ他に望む食物あれば、此を求めてしかして彼のために謝す 九一―九三
我も姿、ことばによりてまたかくの如くになしぬ、こは彼がいかなるはたを織るにあたりてを終りまで引かざりしやを彼より聞かんとてなりき 九四―九六
彼我にふ。完き生涯とすぐるゝ徳とはひとりの淑女をさらに高き天に擧ぐ、そののりに從ひて衣を※(「巾+白」、第4水準2-8-83)かほおほひつくる者汝等の世にあり 九七―九九
彼等はかくしてかの新郎はなむこ、即ち愛より出るによりて己が心にかなふ誓ひをすべてうけいるゝ者と死に至るまで起臥おきふしともにせんとす 一〇〇―一〇二
かの淑女に從はんため我若うして世をのがれ、身に彼の衣をまとひ、またわが誓ひをその派の道に結びたり 一〇三―一〇五
その後、善よりも惡に親しむ人々、かのうるはしき僧院より我を引放しにき、神知り給ふ、わが生涯のこの後いかになりしやを 一〇六―一〇八
またわが右にて汝に現はれ、われらの天のすべての光にもやさるゝこの一のかゞやきは 一〇九―一一一
わが身の上の物語を己が身の上の事と知る、彼も尼なりき、また同じさまにてそのかうべより聖なる※(「巾+白」、第4水準2-8-83)かしらぎぬかげを奪はる 一一二―一一四
されど己が願ひにそむきまたならはしに背きてげに世にかへれる後にも、未だかつて心の※(「巾+白」、第4水準2-8-83)かほおほひくことなかりき 一一五―一一七
こはソアーヴェの第二の風によりて第三の風即ち最後の威力ちからを生みたるかの大いなるコスタンツァの光なり。 一一八―一二〇
かく我に語りて後、かれはアーヴェ・マリーアを歌ひいで、さてうたひつゝ、深き水に重き物の沈む如く消失きえうせき 一二一―一二三
見ゆるかぎり彼のあとを追ひしわが目は、これを見るをえざるに及び、さらに大いなる願ひの目的めあてにかへり來りて 一二四―一二六
全くベアトリーチェにそゝげり、されど淑女いとつよくわが目にきらめき、視力みるちからはじめこれにへざりしかば 一二七―一二九
わが問これがためにおくれぬ。 一三〇―一三二
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   第四曲

ひとしくへだたり等しくいざなふ二の食物くひものの間にては、自由の人、その一をも齒に觸れざるさきにゑて死すべし 一―三
かくの如く、二匹のたけき狼の慾と慾との間にては一匹のこひつじひとしくこれを恐れて動かず、二匹の鹿の間にては一匹の犬止まらむ 四―六
是故に、二の疑ひにひとしくうながされて、我もだせりとも、こはむをえざるにいづれば、我は己を責めもせじめもせじ 七―九
我は默せり、されどわが願ひとともにわが問は言葉に明らかに現はすよりもはるかに強くわが顏にゑがゝる 一〇―一二
ベアトリーチェはあたかもナブコッドノゾルの怒り(彼を殘忍非道となしたる)をしづめし時に當りてダニエルロのしゝ如くになしき 一三―一五
即ち曰ふ。我は汝が二の願ひに引かるゝにより、汝の思ひむすぼれて言葉に出でざるをさだかに見るなり 一六―一八
あげつらふらく、善き願ひだに殘らんには、何故にわが功徳の量、人の暴虐しへたげのためにるやと 一九―二一
加之しかのみならず、プラトネの教へしごとく、魂、星に歸るとみゆること、また汝に疑ひを起さしむ 二二―二四
この二こそ汝の思ひをひとしくすところのとひなれ、されば我まづ毒多きかたよりいはむ 二五―二七
セラフィーンの中にて神にいと近き者も、モイゼもサムエールもジョヴァンニ(汝いづれを選ぶとも)も、げにマリアさへ 二八―三〇
今汝に現はれし※(二の字点、1-2-22)もろ/\の靈と天をことにして座するにあらず、またその存在の年數としかずこれらと異なるにもあらず 三一―三三
すべての者みな第一の天を――飾る、たゞ永遠とこしへ聖息みいきを感ずるの多少に從ひ、そのうるはしき生に差別けぢめあるのみ 三四―三六
これらのこゝに現はれしは、この球がその分と定められたるゆゑならずしてその天界の最低いとひくきを示さんためなり 三七―三九
汝等の才にむかひてはかくして語らざるをえず、そは汝等の才は、のち智に照らすにいたる物をもたゞ官能の作用はたらきによりてればなり 四〇―四二
是においてか聖書は汝等の能力ちからに準じ、手と足とを神に附して他の意義に用ゐ 四三―四五
聖なる寺院は、ガブリエール、ミケール、及びかのトビアをいやしゝ天使をば人の姿によりて汝等にあらはす 四六―四八
ティメオが魂についてあげつらふところは、こゝにて見ゆる物に似ず、これ彼はそのいふごとく信ずと思はるゝによりてなり 四九―五一
即ち魂が、自然のこれに肉體を司らしめし時、己の星より分れ出たるものなるを信じて、彼はこの物再びかしこに歸るといへり 五二―五四
或は彼の説く所、そのことばの響と異なり、あなどるべからざる意義を有することあらむ 五五―五七
もしそれこれらの天にその影響のほまれそしりも歸る意ならば、その矢いくばくか眞理にあたらむ 五八―六〇
この原理誤りせられてそのかみ殆ど全世界をげ、これをして迷ひのあまりジョーヴェ、メルクリオ、マルテと名づけしむ 六一―六三
汝を惱ますいま一の疑ひは毒少し、そはその邪惡も、汝を導きて我より離すあたはざればなり 六四―六六
われらの正義が人間の目に不正とみゆるは即ち信仰の過程くわていにて異端邪説の過程にあらず 六七―六九
されど汝等の知慧よくこの眞理を穿うがつことをうるがゆゑに、我は汝の望むごとく汝に滿足をえさすべし 七〇―七二
もしあらびとは、ひらるゝ人いさゝかも強ふる人にくみせざる時生ずるものゝいひならば、これらの魂はこれによりて罪をのがるゝことをえじ 七三―七五
そは意志は自ら願ふにあらざれば滅びず、あたかも火が千度ちたび強ひてたわめらるともなほその中なる自然の力を現はす如く爲せばなり 七六―七八
是故に意志の屈するは、その多少を問はず、あらびにこれの從ふなり、しかしてこれらの魂は聖所せいじよに歸るをうるにあたりてかくなしき 七九―八一
鐡架てつきうの上の苦しみにへしロレンツォ、わが手につらかりしムツィオのごとく、彼等の意志まつたかりせば 八二―八四
彼等が自由となるに及び、この意志直ちに彼等をしてその強ひられて離れし路に再びかへらしめしなるべし、されどかく固き意志極めてまれなり 八五―八七
汝よくこれらの言葉を心にとめてさとれるか、さらばこの後汝をしば/\惱ますべかりし疑ひは、はや必ず解けたるならむ 八八―九〇
されど汝の眼前めのまへに今なほ横たはる一の路あり、こはいとかたき路なれば汝ひとりにてはこれを出でざるさきに疲れむ 九一―九三
我あきらかに汝に告げて、さいはひなる魂は常に第一のまことに近くとゞまるがゆゑにいつはるあたはずといへることあり 九四―九六
後汝はコスタンツァがその※(「巾+白」、第4水準2-8-83)かほおほひをばもとの如く慕へる事をピッカルダより聞きたるならむ、さればこれとわが今こゝにいふ事と相反すとみゆ 九七―九九
兄弟よ、人難をまぬがれんため、わが意にそむき、その爲すべきにあらざることをなしゝためしは世に多し 一〇〇―一〇二
アルメオネが父にはれて己が生の母を殺し、孝を失はじとて不孝となりしもその一なり 一〇三―一〇五
かゝる場合については、請ふ思へ、あらび意志とまじりて相共にはたらくがゆゑに、その罪いひのがるゝによしなきことを 一〇六―一〇八
絶對の意志は惡にくみせず、そのこれに與するは、こばみてかへつて尚大いなる苦難なやみにあふを恐るゝことの如何に準ず 一〇九―一一一
さればピッカルダはかく語りて絶對の意志をし、我は他の意志を指す、ふたりのいふところ倶にまことなり。 一一二―一一四
一切の眞理の源なる泉よりいでし聖なる流れかくその波をげ、かくして二の願ひをしづめき 一一五―一一七
我即ち曰ふ。あゝ第一の愛に愛せらるゝ者よ、あゝいと聖なる淑女よ、汝のことば我をうるほし我を暖め、かくして次第に我を生かしむ 一一八―一二〇
されどわが愛深からねば汝の恩惠めぐみに謝するに足らず、願はくは全智全能者これにこたへ給はんことを 一二一―一二三
我よく是を知る、我等の智は、かのまこと(これより外には眞なる物一だになし)に照らされざれば、くことあらじ 一二四―一二六
智のこれに達するや、あたかも洞の中に野獸ののけものいこふ如く、直ちにその中にいこふ、またこはこれに達するをう、然らずばいかなる願ひも空ならむ 一二七―一二九
是故に疑ひは眞理の根より芽の如くに生ず、しかしてこは峰より峰にわれらを促しいたゞきにいたらしむる自然の途なり 一三〇―一三二
淑女よ、この事我を誘ひ我を勵まし、いま一の明らかならざる眞理についてうや/\しく汝に問はしむ 一三三―一三五
請ふ告げよ、人その破れる誓ひの爲、汝等の天秤はかりくるも輕からぬほど他の善をもて汝等にあがなひをなすことをうるや。 一三六―一三八
ベアトリーチェは愛の光のみち/\しいと聖なる目にて我を見き、さればわが視力みるちからこれに勝たれでうしろを見せ 一三九―一四一
我は目をれつゝ殆ど我を失へり。 一四二―一四四
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   第五曲

われ世に比類たぐひなきまで愛の焔に輝きつゝ汝にあらはれ、汝の目の力に勝つとも 一―三
こは全き視力――その認むるに從つて、認めし善に進み入る――より出づるがゆゑにあやしむなかれ 四―六
われあきらかに知る、見らるゝのみにてたえず愛を燃す永遠とこしへの光、はや汝の智の中にかゞやくを 七―九
もし他の物汝等の愛を迷はさば、こはかの光の名殘がその中にし入りて見誤らるゝによるのみ 一〇―一二
汝の知らんと欲するは、はたされざりし誓ひをば人他のつとめによりてつぐのひ、魂をして論爭あらそひまぬがれしむるをうるやいなやといふ事是なり。 一三―一五
ベアトリーチェはかくこのカントをうたひいで、言葉をたざる人のごとく、聖なる教へを續けていふ。 一六―一八
それ神がそのゆたかなる恩惠めぐみにより造りて與へ給へる物にて最もその徳にかなひかつその最も重んじ給ふ至大のたまものは 一九―二一
即ち意志の自由なりき、知慧ある被造物は皆、またかれらに限り、昔これを受け今これを受く 二二―二四
いざ汝して知るべし、人うけがひて神また肯ひかくして誓ひ成るならんには、そのいととほときものなることを 二五―二七
そは神と人との間に契約を結ぶにあたりては、わがいふ如く貴きこの寶犧牲いけにへとなり、かつかくなるも己が作用はたらきによればなり 二八―三〇
されば何物をもてつぐのひとなすことをえむ、捧げし物を善く用ゐんと思ふは是※物ぞうぶつ[#「貝+藏」、38-6]をもて善事を爲さんとねがふなり 三一―三三
汝既に要點を會得ゑとくす、されど聖なる寺院は誓ひよりき、わが汝にあらはしゝ眞理にそむくとみゆるがゆゑに 三四―三六
汝なほ食卓つくゑに向ひてしばらく坐すべし、汝のくらへるかた食物くひものはその消化こなるゝ爲になほ助けをもとむればなり 三七―三九
心を開きて、わが汝に示すものを受け、これをその中に收めよ、聽きてたもたざるは知識をうるの道にあらじ 四〇―四二
それ二の物相合してこの犧牲いけにへの要素を成す、一はその作らるゝもととなるもの一は即ち契約なり 四三―四五
後者は守るにあらざれば消えず、但しこれについては我既にいとさだかに述べたり 四六―四八
是故に希伯來人エブレオびとは、捧ぐる物の如何によりこれをふるをえたれども(汝必ず是を知らん)、なほ献物さゝげものをなさゞるをえざりき 四九―五一
前者即ち汝に材とし知らるゝものは、これを他の材にふとも必ずとがとなるにはあらず 五二―五四
されど黄白二のかぎのめぐるなくば何人もその背にへる荷を、心のまゝにとりかふべからず 五五―五七
かつ取らるゝ物が置かるゝ物をるゝことあたかも六の四における如くならずば、いかに易ふともいたづらなるを信ずべし 五八―六〇
是故に己が價値ねうちによりていと重くいかなる天秤はかりをも引下ひきさぐる物にありては、他のつひえをもてつぐなふことをえざるなり 六一―六三
人よ誓ひを戲事たはぶれごととなす勿れ、これに忠なれ、されどイエプテのその最初の供物くもつにおけるごとく輕々しくこれを立るなかれ 六四―六六
守りてしかしてまされる惡を爲さんより、彼はよろしく我あしかりきといふべきなりき、汝はまたギリシアびとの大將のかくおろかなりしをみむ 六七―六九
さればイフィジェニアはそのみめよきがために泣き、かゝる神事じんじを傳へ聞きたる賢者愚者をしてまた彼の爲に泣かしむ 七〇―七二
基督教徒クリスティアーニよ、おも/\しく身を動かし、いかなる風にも動く羽のごとくなるなかれ、いかなる水も汝等を洗ふと思ふなかれ 七三―七五
汝等に舊約新約あり、寺院の牧者の導くあり、汝等これにて己が救ひを得るに足る 七六―七八
もし邪慾汝等に他のみちすゝめなば、汝等人たれ、おろかなる羊となりて汝等の中の猶太人ジュデーアびとに笑はるゝなかれ 七九―八一
己が母の乳を棄て、思慮こゝろなく、うかれつゝ、好みて自ら己と戰ふこひつじのごとく爲すなかれ。 八二―八四
わがこゝにしるすごとく、ベアトリーチェかく我に、かくていとなつかしき氣色けしきにて、宇宙の最も生氣に富める處にむかへり 八五―八七
その沈默と變貌かはれるすがたとは、わがくなきの智、はや新しき問を起しゐたりしわが智にもだせと命じき 八八―九〇
しかしてあたかもつるのしづかならざる先にまとあたる矢のごとく、われらはせて第二の王國にいたれり 九一―九三
われ見しに、かの天の光の中に入りしとき、わが淑女いたくよろこび、かの星自らそがためいよ/\輝きぬ 九四―九六
星さへ變りてほゝゑみたりせば、己がさがのみによりていかなるさまにも變るをうる我げにいかになりしぞや 九七―九九
しづかなる清き池の中にて、魚もしその餌とみゆる物のそとより入來るをみれば、これがほとりにはせよるごとく 一〇〇―一〇二
千餘の輝われらの方にはせよりき、おの/\いふ。見よわれらの愛をますべきものを。 一〇三―一〇五
しかして各※(二の字点、1-2-22)われらのもとに來るに及び、我は魂が、その放つ光のあざやかなるによりて、あふるゝ悦びをあらはすを見たり 一〇六―一〇八
讀者よ、この物語續かずばその先を知るあたはざる汝の苦しみいかばかりなるやを思へ 一〇九―一一一
さらば汝自ら知らむ、これらのものわが目に明らかに見えし時、彼等よりその状態ありさまを聞かんと思ふわが願ひのいかに深かりしやを 一一二―一一四
あゝ良日よきひもとに生れ、戰ひ未だ終らざるに恩惠めぐみに許されて永遠とこしへの凱旋の諸※(二の字点、1-2-22)寶座くらゐを見るを得る者よ 一一五―一一七
あまねく天に滿つる光にわれらはもやさる、是故にわれらの光をうくるをねがはゞ、汝心のまゝにけ。 一一八―一二〇
信心深きかの靈の一我にかくいへるとき、ベアトリーチェ曰ふ。いへ、いへ、おくするなかれ、かれらを神々の如く信ぜよ。 一二一―一二三
我よく汝が己の光の中にくひて目よりこれを出すをみる、汝笑へば目きらめくによりてなり 一二四―一二六
されど尊き魂よ、我は汝の誰なるやを知らず、また他の光に蔽はれて人間に見えざる天のさちをば何故にうくるやを知らず。 一二七―一二九
さきに我に物言へる光にむかひて我かくいへり、是においてかそのかゞやくこと前よりはるかに強かりき 一三〇―一三二
あたかも日輪が(き水氣の幕その熱に噛盡かみつくさるれば)そのいと強き光に己をかくすごとく 一三三―一三五
かの聖なる姿は、まさる悦びのため己が光の中にかくれ、さてかく全くこもりつゝ、我に答へき 一三六―一三八
次のカントの歌ふごとく 一三九―一四一
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   第六曲

コスタンティーンが鷲をして天の運行にさからはしめし(ラヴィーナをめとれる昔人むかしのひとに附きてこの鷲そのかみこれにしたがへり)時より以來このかた 一―三
二百年餘の間、神の鳥はエウローパの際涯はて、そがさきに出でし山々に近き處にとゞまり 四―六
かしこにてその聖なる翼の陰に世を治めつゝ、手より手に移り、さてかく變りてわが手に達せり 七―九
我は皇帝チェーザレなりき、我はジュスティニアーノなり、今わが感ずる第一の愛の聖旨みむねによりてわれ律法おきての中より過剩あまれるもの無益物えきなきものとを除きたり 一〇―一二
未だこのわざに當らざりしさき、われはクリストにたゞ一のさがあるを信じ、かつかゝる信仰をもてれりとなしき 一三―一五
されど至高の牧者なるアガピート尊者、その言葉をもて我を正しき信仰に導けり 一六―一八
我は彼を信じたり、しかして今我彼の信ずる所をあきらかに見ることあたかも汝が一切の矛盾むじゅんの眞なり僞やなるを見るごとし 一九―二一
われ寺院と歩みを合せて進むに及び、神はその恩惠めぐみにより我を勵ましてこの貴きわざを爲さしむるをよしとし、我は全く身をこれに捧げ 二二―二四
武器をばわがベリサルに委ねたりしに、天の右手めで彼に結ばりて、わが休むべき休徴しるしとなりき 二五―二七
さて我既に第一の問に答へ終りぬ、されどこの答のさがひられ、なほ他の事を加ふ 二八―三〇
こは汝をしていかに深きことわりによりてかのいと聖なる旗に、これを我有わがものとなす者もはたこれにはむかふ者も、ともにさからふやを見しめん爲なり 三一―三三
パルランテがこれに王國を與へんとて死にし時を始めとし、見よいかなる徳のこれをあがむべき物とせしやを 三四―三六
汝知る、この物三百年餘の間アルバにとゞまり、その終り即ち三人みたりの三人とさらにこれがため戰ふ時に及べることを 三七―三九
また知る、この物サビーニの女達の禍ひよりルクレーチアの憂ひに至るまで七王の代に附近あたりの多くの民に勝ちていかなるわざをなしゝやを 四〇―四二
知る、この物秀でしローマ人等の手にありてブレンノ、ピルロ、その他の君主等及び共和の國々と戰ひ、いかなるわざをなしゝやを 四三―四五
(是等の戰ひにトルクァート、己が蓬髮おどろのかみちなみて名を呼ばれたるクインツィオ、及びデーチとファービとはわが悦びていたたふとほまれを得たり) 四六―四八
アンニバーレに從ひて、ポーよ汝の源なるアルペの岩々を越えしアラビアびと等の誇りをくじけるもこの物なりき 四九―五一
この物のもとに、シピオネとポムペオとは年若うして凱旋したり、また汝の郷土にのぞみてそびゆる山にはこの物つらしと見えたりき 五二―五四
後、天が全世界を己の如く晴和のどかならしめんと思ひし時に近き頃、ローマの意に從ひて、チェーザレこれを取りたりき 五五―五七
ヴァーロよりレーノに亘りてこの物の爲しゝことをばイサーラもエーラもセンナも見、ローダノを滿たすすべてのたにもまた見たり 五八―六〇
ラヴェンナを出でゝルビコンを越えし後このものゝ爲しゝ事はいとはやければ、ことばも筆もともなあたはじ 六一―六三
士卒をめぐらしてスパーニアに向ひ、後ドゥラッツオにむかひ、またファルサーリアをちて熱きニーロにも痛みを覺えしむるにいたれり 六四―六六
そが出立ちし處なるアンタンドロとシモエンタ、またかのエットレのやすらふところを再び見、後、身をふるはして禍ひをトロメオに與へ 六七―六九
そこよりイウバのもとひらめき下り、後、汝等の西にめぐりてかしこにポムペオのらつぱを聞けり 七〇―七二
次の旗手と共にこの物の爲しゝことをば、ブルートとカッシオ地獄にあかしす、このものまたモーデナとペルージヤとを憂へしめたり 七三―七五
うれはしきクレオパトラは今もこの物の爲に泣く、彼はその前より逃げつゝ、蛇によりてにはかなるむごき死をげき 七六―七八
かの旗手とともにこの物遠く紅の海邊うみべに進み、彼とともに世界をば、イアーノの神殿みやとざさるゝほどいと安泰やすらかならしめき 七九―八一
されどわが語種かたりぐさなるこの旗が、これに屬する世の王國の全體すべてに亘りて、さきに爲したりし事も後に爲すべかりし事も 八二―八四
さゝやかにかつおぼろに見ゆるにいたらむ、人この物を、目を明らかにし思ひを清うして、第三のチェーザレの手に視なば 八五―八七
そはこの物彼の手にありしとき、我をはげます生くる正義は、己が怒りにむくゆるのほまれをこれに與へたればなり 八八―九〇
いざ汝わが反復語くりかへしごとを聞きてあやしめ、この後この物ティトとともに、昔の罪を罰せんために進めり 九一―九三
またロンゴバルディの齒、聖なる寺院をみしとき、この物の翼の下にて勝ちつゝ、カルロ・マーニオこれを救へり 九四―九六
今や汝は、わがさきに難じし如き人々の何者なるやとすべて汝等の禍ひの本なる彼等の罪のいかなるやとを自らはかり知るをえむ 九七―九九
かれ黄の百合をおほやけの旗にさからはしむればこれ一黨派の爲にこれを己がものとなす、いづれか最も非なるを知らず 一〇〇―一〇二
ギベルリニをして行はしめよ、他の旗のもとにその術を行はしめよ、この旗を正義と離す者何ぞくこれに從ふことあらむ 一〇三―一〇五
またこの新しきカルロをして己がグエルフィと共にこれを倒さず、かれよりも強き獅子より皮を奪ひしその爪を恐れしめよ 一〇六―一〇八
子が父の罪の爲に泣くこと古來例多し、彼をして神その紋所を彼の百合の爲に變へ給ふと信ぜしむるなかれ 一〇九―一一一
さてこの小さき星は、進みて多くのわざを爲しゝ諸※(二の字点、1-2-22)の善き靈にて飾らる、彼等のかく爲しゝは譽と美名よきなをえん爲なりき 一一二―一一四
しかして願ひ斯く路を誤りてかなたに昇れば、上方うへに昇るまことの愛、光を減ぜざるをえじ 一一五―一一七
されどわれらのむくいが功徳と量を等しうすることわれらの悦びの一部を成す、われら彼の此より多からず少からざるを見ればなり 一一八―一二〇
生くる正義はこの事によりてわれらの情をうるはしうし、これをして一たびゆがみて惡に陷るなからしむ 一二一―一二三
さま/″\の聲下界にてうるはしきふしとなるごとく、さま/″\のくらゐわが世にてこの諸※(二の字点、1-2-22)の球の間のうるはしきしらべとゝのふ 一二四―一二六
またこの眞珠の中にはロメオの光の光るあり、彼の美しき大いなるわざは正しくむくいられざりしかど 一二七―一二九
彼を陷れしプロヴェンツァびと等笑ふをえざりき、是故に他人ひとの善行をわが禍ひとなす者は即ち邪道を歩む者なり 一三〇―一三二
ラモンド・ベリンギエーリには四人よたりむすめありて皆王妃となれり、しかしてこは賤しき旗客ロメオの力によりてなりしに 一三三―一三五
のちかれ讒者の言に動かされ、この正しき人(十にて七と五とをえさせし)に清算を求めき 一三六―一三八
是においてか老いて貧しき身をもちて彼去りぬ、世もし一口ひとくち一口と食を乞ひ求めし時のその固き心を知らば 一三九―一四一
(今もいたくむれども)今よりもいたく彼をほむべし。 一四二―一四四
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   第七曲

オザンナ、萬軍の聖なる神、己が光をもてこれらの王國の惠まるゝ火を上より照らしたまふ者。 一―三
二重ふたへの光をかさまとひしかの聖者は、そのふしにあはせてめぐりつゝ、かく歌ふと見えたりき 四―六
しかしてこれもその他の者もみなまた舞ひいで、さていとはやき火花の如く、忽ちへだゝりてわが目にかくれぬ 七―九
われ疑ひをいだき、心の中にいひけるは。いへ、いへ、わが淑女にいへ、彼甘きしづくをもてわがかわきをとゞむるなれば。 一〇―一二
されどたゞ「ベ」と「イーチェ」のみにて我を統治すべをさむるうやまひ我をして睡りに就く人の如く再びわがかうべを垂れしむ 一三―一五
ベアトリーチェはたゞ少時しばし我をかくあらしめし後、火の中にさへ人をさいはひならしむる微笑ほゝゑみをもて我を照らしていひけるは 一六―一八
わがはかるところ(こはあやまることあらじ)によれば、汝思へらく、正しき罰いかにして正しく罰せらるゝをうるやと 一九―二一
されど我は速に汝の心を釋放ときはなつべし、いざ耳を傾けよ、そはわがことば、大いなる教へを汝にさづくべければなり 二二―二四
それかの生れしにあらざる人は、己が益なる意志のくつわへかねて、己を罪しつゝ、己がすべての子孫を罪せり 二五―二七
是においてか人類は、大いなる迷ひの中に、幾世の間、病みて下界にししかば、神のことば遂に世に降るをよしとし 二八―三〇
その永遠とこしへの愛の作用はたらきのみにより、かの己が造主つくりぬしより離れしさがを、かしこに神結かみむすびにて己と合せ給ひたり 三一―三三
いざ汝わが今語るところに心をとめよ、己が造主と結合むすびあへるこの性は、その造られし時の如く純にして善なりしかど 三四―三六
眞理の道とおのが生命いのちに遠ざかり、自ら求めてかの樂園よりはれたりき 三七―三九
是故に合せられたるさがより見れば、十字架のもたらしゝ刑罰は、正しく行はれしこと他にたぐひなし 四〇―四二
されどこれを受けし者、かゝる性をあはせし者の爲人ひととなりより見れば、正しからざることまた他に類なし 四三―四五
されば一の行爲おこなひより樣々さま/″\の事出でぬ、そは一の死、神の聖意みこゝろにも猶太人ジュデーアびとの心にも適ひたればなり、この死の爲に地は震ひ天は開きぬ 四六―四八
今や汝はさとりがたしと思はぬならむ、正しき罰後にいたりて正しき法廷しらすに罰せられきといふを聞くとも 四九―五一
されど我は今汝の心が、思ひより思ひに移りて一の※(「(米/糸)+頁」、第4水準2-84-60)ふしの中にむすぼれ、それより解放ときはなたれんことをばしきりに願ひつゝ待つを見るなり 五二―五四
汝いふ、我よくわが聞けるところをさとる、されど我は神が何故にわれらのあがなひのためこの方法てだてをのみ選び給へるやを知らずと 五五―五七
兄弟よ、智もし愛の焔の中に熟せざればいかなる人もこのさだめ會得ゑとくせじ 五八―六〇
しかはあれ、この目標しるしは多く見られて少しくさとらるゝものなれば、我は何故にかゝる方法てだての最もふさはしかりしやを告ぐべし 六一―六三
それ己より一切のねたみをしりぞくる神の善は、己が中に燃えつゝ、光を放ちてその永遠とこしへの美をあらはす 六四―六六
是より直にしたゝるものはその後滅びじ、これが自ら印をすとき、かた消ゆることなければなり 六七―六九
是より直に降下ふりくだるものは全く自由なり、新しき物の力に服從つきしたがふことなければなり 七〇―七二
かゝるものは最も是にたぐふが故に最も是が心にかなふ、萬物を照らす聖なる焔は最も己に似る物の中に最も強く輝けばなり 七三―七五
しかしてこれらのさちはみな、人たる者の受くるところ、一つ缺くれば、人必ずそのたふとさを失ふ 七六―七八
人の自由を奪ひ、これをして至上の善に似ざらしめ、その光に照らさるること從つて少きにいたらしむるものは罪のみ 七九―八一
もしそれ正しき刑罰を不義の快樂けらくむかはしめつゝ、罪のつくれる空處を滿みたすにあらざれば、人その尊さに歸ることなし 八二―八四
汝等のさがは、その種子たねによりてこと/″\く罪ををかすに及び、樂園とともにこれらの尊き物を失ひ 八五―八七
淺瀬の一を渡らずしては、いかなる道によりても再びこれを得るをえざりき(汝よく思ひをらさばさとるなるべし) 八八―九〇
淺瀬とは、神がたゞその恩惠めぐみによりてゆるし給ふか、または人が自らその愚をあがなふか即ち是なり 九一―九三
いざ汝力のかぎり目をわが詞にちかくよせつゝ、永遠とこしへ思量はからひの淵深く見よ 九四―九六
そも/\人は、その限りあるによりて、あがなひをなす能はざりき、そは後神にしたがひ心をひくうしてくだるとも、さきに逆きて 九七―
上らんとせし高さに應ずるあたはざればなり、人自らあがなふの力なかりしことわりげにこゝに存す ―一〇二
是故に神は己が道――即ちその一かまたは二――をもて、人をその完き生にかへしたまふのほかなかりき 一〇三―一〇五
されど行ふ者の行は、これがいづる心の善をあらはすに從ひ、いよ/\悦ばるゝがゆゑに 一〇六―一〇八
宇宙に印影かたす神の善は、再び汝等を上げんため、己がすべての道によりて行ふを好めり 一〇九―一一一
また最終いやはての夜と最始いやさきの晝との間に、これらの道のいづれによりても、かくたふとくかくおほいなるわざは爲されしことなし爲さるゝことあらじ 一一二―一一四
そは神は人をして再び身をあぐるにふさはしからしめん爲己を與へ給ひ、たゞ自ら赦すにまさ恩惠めぐみをば現し給ひたればなり 一一五―一一七
神の子己をひくうして肉體となり給はざりせば、ほかのいかなる方法てだてといふとも正義に當るに足らざりしなるべし 一一八―一二〇
さて我は今、汝の願ひをすべてよく滿たさんため、さかのぼりて一の事を説き示し、汝をしてわが如くこれを見るをえしめむ 一二一―一二三
汝いふ、我視るに、地水火風及びそのまじりあへるものみな滅び、永くたもたじ 一二四―一二六
しかるにこれらは被造物つくられしものなり――是故にわがいへることまことならばこれらには滅ぶるのうれへあるべきならず――と 一二七―一二九
兄弟よ、諸※(二の字点、1-2-22)の天使と、汝が居る處の純なる國とは、現在いまのごとき完き状態さまにて造られきといふをうれども 一三〇―一三二
汝の名指なざしゝ諸※(二の字点、1-2-22)の元素およびこれより成る物は、造られし力これをとゝのふ 一三三―一三五
造られしはかれらの物質、造られしはかれらをめぐるこの諸※(二の字点、1-2-22)の星のうちのとゝのふる力なり 一三六―一三八
※(二の字点、1-2-22)の聖なる光の輝と※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐりとは、すべての獸及び草木くさきの魂をば、これとなりうべき原質よりひきいだせども 一三九―一四一
至上の慈愛は、たゞちに汝等の生命いのちふき入れ、かつこれをして己を愛せしむるが故に、この物たえずこれを慕ひ求むるにいたる 一四二―一四四
さてまたこのことわりよりさらに推し及ぼして汝は汝等の更生よみがへりを知ることをえむ、もし第一の父母ちゝはゝともに造られし時 一四五―一四七
人の肉體のいかに造られしやを思ひみば
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   第八曲

世は、その危ふかりし頃、美しきチプリーニアが第三のエピチクロをめぐりつゝ痴情の光を放つと信ずるならはしなりき 一―三
さればいにしへの人々その古の迷ひより、いけにへそなへ誓願をかけて彼をあがめしのみならず 四―六
またディオネとクーピドをも崇めて彼をその母とし此をその子とし、かついへり、この子かつてディドの膝の上に坐しきと 七―九
かれらはまた、日輪に或ひはうしろ或ひはまへより秋波しうはをおくる星の名を、わがかく歌の始めにうたふかの女神めがみより取れり 一〇―一二
かの星の中に登れることを我は知らざりしかど、その中にありしことをば、わが淑女のいよ/\美しくなるを見て、かたく信じき 一三―一五
しかして火花焔のうちに見え、聲々のうちにわかたるゝ(一動かず一往來ゆききするときは)ごとく 一六―一八
我はかの光の中に、他の多くの光、輪を成して※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐるを見たり、但し早さに優劣まさりおとりあるはその永劫えいごふの視力の如何によりてなるべし 一九―二一
見ゆる風や見えざる風の、冷やかなる雲よりくだるはやしとも、これらのいと聖なる光が 二二―二四
尊きセラフィーニの中にまづ始まりし舞を棄てつゝ我等に來るを見たらん人には、たゞ靜にて遲しと思はれむ 二五―二七
さて最も先に現はれし者のなかにオザンナ響きぬ、こはいとたへなりければ、我は爾後そののち再び聞かんと願はざることたえてなかりき 二八―三〇
かくてその一われらにいよ/\近づき來り、單獨たゞひとりにていふ。われらみな汝の好む所に從ひ汝を悦ばしめんとす 三一―三三
われらは天上の君達と圓を一にし、※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐりを一にし、かわきを一にしてまはる、汝かつて世にて彼等にいひけらく 三四―三六
汝等了知さとりをもて第三の天を動かす者よと、愛我等に滿つるが故に、汝の心にかなはせんとて少時しばらくしづまるとも我等の悦びることあらじ。 三七―三九
われ目をうや/\しくわが淑女にそゝぎ、その思ひをさだかに知りてわが心を安んじゝ後 四〇―四二
再びこれをかの光――かく大いなることを約しゝ――にむかはせ、せつなる情を言葉にこめつゝ汝等は誰なりや告げよといへり 四三―四五
われ語れる時、新たなる喜び己が喜びに加はれるため、かの光が、その量と質とにおいて、まさりしことげにいかばかりぞや 四六―四八
さてかく變りて我に曰ふ。世はたゞしばし我を宿やどしき、もし時さらに長かりせば、來るべき多くの禍ひは避けられしものを 四九―五一
わが身のまはりに輝き出づるわが喜びは我を汝の目に見えざらしめ、我を隱してあたかも己が絹に卷かるゝ蟲の如くす 五二―五四
汝深く我を愛しき、是またうべなり、我もし下界に長生ながらへたりせば、わが汝にあらはす愛は葉のみにとゞまらざりしなるべし 五五―五七
ローダノがソルガとまじりし後に洗ふ左の岸は、時に及びてわがその君となるを望み 五八―六〇
バーリ、ガエタ及びカートナ際涯はてを占め、トロント、ヴェルデの流れて海に入る處なるアウソーニアのつのもまたしか望みき 六一―六三
はやわがひたひには、ドイツの岸を棄てし後ダヌービオのうるほす國の冠かゞやきゐたり 六四―六六
またエウロに最もわづらはさるゝ灣のほとりパキーノとペロロの間にて、ティフェオの爲ならずそこに生ずる硫黄の爲にけむる 六七―
かの美しきトリナクリアは、カルロとリドルフォのすゑ我よりいでゝその王となるを今も望み待ちしなるべし ―七二
民の心を常に荒立あらだつる虐政パレルモを動かして、死せよ死せよと叫ばしむるにいたらざりせば 七三―七五
またわが兄弟にして豫めこれを見たらんには、カタローニアの慾と貪とをはやくも避けて、その禍ひを自ら受くるにいたらざりしなるべし 七六―七八
そはげに彼にてもあれほかの人にてもあれ、はや荷の重き彼の船にさらに荷を積むなからんため備へを成さゞるをえざればなり 七九―八一
物惜しみせぬさがより出でゝやぶさかなりし彼の性は、貨殖に心專ならざる部下を要せむ。 八二―八四
わが君よ、我は汝のことばの我に注ぐ深き喜びが、一切の善の始まりかつ終る處にて汝に見らるゝことわがこれを見る如しと 八五―
信ずるがゆゑに、その喜びいよ/\深し、我また汝が神を見てしかしてこれをさとるをづ ―九〇
汝我に悦びをえさせぬ、さればまた教へをえさせよ(汝語りて我に疑ひを起さしめたればなり)――にがき物いかにして甘き種より出づるや。 九一―九三
我かく彼に、彼即ち我に。我もし汝に一の眞理を示すをえば、汝は汝のたづぬる事に顏をむくること今背をむくる如くなるべし 九四―九六
汝の昇る王國をあまねくめぐらしかつ悦ばすところの善は、これらの大いなる物體において、己が攝理を力とならしむ 九七―九九
また諸※(二の字点、1-2-22)の自然のみ、おのづから完きこゝろの中にとゝのへらるゝにあらずして、かれらとともにその安寧もまたしかせらる 一〇〇―一〇二
是故にこの弓の射放つものは、みなあらかじめ定められたる目的めあてにむかひて落ち、あたかも己がまとにむけられし物の如し 一〇三―一〇五
もしこの事なかりせば、今汝の過行く天は、そのを技藝に結ばずして破壞にむすぶにいたるべし 一〇六―一〇八
しかしてこはある事ならじ、もし此等の星を動かす諸※(二の字点、1-2-22)の智備はらず、またかく此等を完からしめざりし第一の智に缺處かくるところあるにあらずば 一〇九―一一一
汝この眞理をなほも明かにせんと願ふや。我。いなしからず、我は自然が必要の事に當りて疲るゝ能はざるを知ればなり。 一一二―一一四
彼即ちまた。いざいへ、世の人もし一市民たらずば禍ひなりや。我答ふ。然り、そのことわりは我問はじ。 一一五―一一七
人各※(二の字点、1-2-22)世に住むさまを異にし異なる職務つとめをなすにあらずして市民たることを得るや、汝等の師のしるす所正しくばしからず。 一一八―一二〇
かく彼論じてこゝに及び、さて結びていふ。かゝれば汝等のわざの根も、また異ならざるをえず 一二一―一二三
是故に一人ひとりはソロネ、一人はセルゼ、一人はメルキゼデク、また一人はそらを飛びつゝわが子を失へる者とし生る 一二四―一二六
人なる蝋に印をす諸※(二の字点、1-2-22)の天の力は、善く己がわざを爲せども彼家かのや此家このや差別けじめを立てず 一二七―一二九
是においてかエサウはヤコブとたねを異にし、またクイリーノは人がこれをマルテに歸するにいたれるほど父のいやしき者なりき 一三〇―一三二
もし神の攝理勝たずば、生れしさがは生みたるものと常に同じ道に進まむ 一三三―一三五
汝のうしろにありしもの今前にあり、されど汝と語るわが悦びを汝に知らしめんため、われなほ一の事を加へて汝の表衣うはぎとなさんとす 一三六―一三八
それさがは、命運これにはざれば、あたかも處を得ざる種のごとく、その終りを善くすることなし 一三九―一四一
しかして下界もしその心を自然のうるもとゐにとめてこれに從はゞその民さかえむ 一四二―一四四
しかるに汝等は、劒を腰に帶びんがために生れし者をげて僧とし、のりを説くべき者を王とす 一四五―一四七
是においてか汝等の歩履あゆみ道を離る。 一四八―一五〇
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   第九曲

美しきクレメンツァよ、汝のカルロはわが疑ひを解きし後、我にその子孫のあふべき欺罔たばかりの事を告げたり 一―三
されどまた、默して年をその移るに任せよといひしかば、我は汝等の禍ひの後に正しき歎き來らんといふのほか何をもいふをえざるなり 四―六
さてかの聖なる光の生命いのちは、萬物を足らはす善の滿たす如く己を滿たす日輪にはや再びむかひゐたりき 七―九
あゝ迷へる魂等よ、不信心なる被造物等よ、心をかゝる善にそむけてかうべを空しき物にむくとは 一〇―一二
時に見よ、いま一の光、わが方に進み出で、我を悦ばせんとの願ひを外部そとの輝に現はせり 一三―一五
さきのごとく我に注げるベアトリーチェの目は、うれしくもわが願ひをるゝことをばさだかに我に知らしめき 一六―一八
ふ。あゝさいはひなる靈よ、ふ速にわが望みをかなへ、わが思ふ所汝にうつりて見ゆとのあかしを我にえさせよ。 一九―二一
是においてか未だ我に知られざりしかの光、さきに歌ひゐたる處なる深處ふかみより、あたかも善行を悦ぶ人の如く、續いていふ 二二―二四
よこしまなるイタリアの國の一部、リアルトとブレンタ、ピアーヴァの源との間の地に 二五―二七
いと高しといふにあらねど一の山のそびゆるあり、かつて一の炬火たいまつこゝより下りていたくこの地方を荒しき 二八―三〇
我とこれとは一の根より生れたり、我はクニッツァと呼ばれにき、わがこゝに輝くはこの星の光に勝たれたればなり 三一―三三
されど我今喜びて自らわが命運の原因もとゆるし、心せこれになやまさじ、こは恐らくは世俗の人にさとりがたしと見ゆるならむ 三四―三六
われらの天の中のこの光りて貴きたま、我にいと近き珠の名は今も高く世に聞ゆ、またその滅びざるさきに 三七―三九
この第百年はなほ五度いつたびも重ならむ、見よ人たる者己をすぐるゝ者となし、第二の生をば第一の生に殘さしむべきならざるやを 四〇―四二
さるにターリアメントとアディーチェに圍まるゝ現在いま群集ぐんじゆうこれを思はず、たるれどもなほいじ 四三―四五
されどパードヴァは、その民かたくなにして義にそむくにより、程なく招のほとりにて、かのヴィチェンツァを洗ふ水を變へむ 四六―四八
またシーレとカニアーンの落合ふ處は、或者これを治め、頭を高うして歩めども、彼を捕へんとて人はや網を造りたり 四九―五一
フェルトロもまたその非道の牧者の罪の爲に泣かむ、かつその罪はいと惡くしてマルタに入れられし者にさへたぐひを見ざる程ならむ 五二―五四
己が黨派に忠なることを示さんとてこのやさしき僧の與ふるフェルラーラびとの血は、げにいと大いなる桶ならでは ―五五
これをるゝをえざるべく、オンチャ[#「オンス」の単位記号、63-7]に分けてこれをはからばその人疲れむ、しかしてかゝる贈物おくりもの本國ところ慣習ならはしかなふなるべし ―六〇
※(二の字点、1-2-22)の鏡上方うへにあり、汝等これを寶座ツローニといふ、審判さばきの神そこより我等を照らすがゆゑに我等皆これらの言葉をまこととす。 六一―六三
かくいひてもだし、さきのごとく輪に加はりてめぐりつゝ、心をほかにむくるに似たりき 六四―六六
名高き者とはやわが知りしかの殘りの喜びは、日の光に當る紅玉あかだまの如くわが目に見えたり 六七―六九
上にては悦びによりて、強き光のえらるゝこと、世にて笑のえらるゝ如し、されど下にては心の悲しきにつれて魂黒くそとにあらはる 七〇―七二
我曰ふ。福なる靈よ、神萬物を見給ひ、汝の目神に入る、是故にいかなる願ひも汝にかくるゝことあらじ 七三―七五
もしそれ然らば、六の翼を緇衣となす信心深き火とともに歌ひてとこしへに天を樂します汝の聲 七六―七八
何ぞわが諸※(二の字点、1-2-22)の願ひを滿たさゞる、もしわが汝のうちに入ること汝のわが衷に入るごとくならば、我あに汝の問を待たんや。 七九―八一
このとき彼曰ふ。地を卷く海をのぞきては、水たゝふるたにの中にていと大いなるもの 八二―八四
相容あひいれざる二の岸の間にて、日にさからひて遠く延びゆき、さきに天涯となれる所を子牛線しごせんとなす 八五―八七
我はこの溪のほとり、エブロとマークラ(短き流れによりてゼーノヴァびととトスカーナ人とを分つ)の間に住める者なりき 八八―九〇
そのかみ己が血をもて湊を熱くせしわが故郷ふるさとはブッジェーアと殆ど日出ひので日沒ひのいりを同うす 九一―九三
わが名を知れる人々我をフォルコと呼べり、我今かたをこの天にす、この天我にしゝごとし 九四―九六
そはシケオとクレウザとをしひたげしベロのむすめも、デモフォーンテに欺かれたるロドペーアも、またイオレを心に 九七―
包める頃のアルチーデも、としふさはしかりし間の我より強くは、思ひに燃えざりければなり ―一〇二
しかはあれ、こゝにては我等いず、たゞ笑ふ、こは罪の爲ならで(再び心に浮ばざれば)、定め、とゝのふる力のためなり 一〇三―一〇五
こゝにては我等、かく大いなる御業みわざを飾る技巧を視、天界に下界を治めしむる善を知る 一〇六―一〇八
されどこの球の中に生じゝ汝の願ひこと/″\く滿たされんため、我なほことばがざるべからず 一〇九―一一一
汝はがこの光(あたかも清き水に映ずる日の光の如くわがかたへひらめくところの)の中にあるやを知らんと欲す 一一二―一一四
いざ知るべし、ラアブこのうちにやすらふ、彼われらの組に加はりその印をこれに捺すこと他にたぐひなし 一一五―一一七
人の世界の投ぐる影、とがれるはしとなる處なるこの天は、クリストの凱旋に加はる魂の中彼をば最も先に受けたり 一一八―一二〇
左右のたなごゝろにてたる尊き勝利のしるしとして彼を天の一におくは、げにふさはしき事なりき 一二一―一二三
そは彼ヨスエを聖地――今やこの地殆ど法王の記憶に觸れじ――にたすけてその最初の榮光をこれにえさせたればなり 一二四―一二六
はじめて己が造主つくりぬしそむき、ねたみによりて深き歎きを殘せる者の建てたりし汝のまちは 一二七―一二九
のろひの花を生じて散らす、こは牧者を狼となして、羊、こひつじをさまよはしゝもの 一三〇―一三二
これがために福音と諸※(二の字点、1-2-22)の大いなる師とは棄てられ、人專ら寺院の法規おきてを學ぶことその紙端かみのはしにあらはるゝ如し 一三三―一三五
これにこそ法王もカルディナレもその心をとむるなれ、彼等の思ひはガブリエルロが翼をべし處なるナツァレッテに到らじ 一三六―一三八
されどヴァティカーノ、その他ローマの中の選ばれし地にてピエートロに從へる軍人いくさびと等の墓となりたる所はみな 一三九―一四一
この姦淫より直ちに釋放たるべし。 一四二―一四四
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   第十曲

言ひ難き第一の力は、己が子を、彼と此との永遠とこしへいきなる愛とともにうちまもりつゝ 一―三
心または處にめぐるすべての物をば、いとたへなる次第を立てゝ造れるが故に、これを見る者必ずかの力を味ふ 四―六
讀者よされば目を擧げて我とともに天球にむかひ、一の運行の他と相觸あひふるゝところを望み 七―九
よろこびて師のわざを見よ、師はその心の中に深くこれを愛し、目をこれより離すことなし 一〇―一二
見よ諸※(二の字点、1-2-22)の星をたづさふる一の圈、かれらを呼求むる世を足らはさんとて、なゝめにかしこよりわかれ出づるを 一三―一五
もしかれらの道傾斜なぞへならずば、天の力多くは空しく、下界の活動はたらき殆どみな止まむ 一六―一八
またもし直線とこれとの距離へだゝり今より多きか少きときは、宇宙の秩序は上にも下にも多く缺くべし 一九―二一
いざ讀者よ、未だ疲れざるさきに疾く喜ぶをえんと願はゞ、汝の椅子に殘りて、わが少しく味はしめしことを思ひめぐらせ 二二―二四
我はや汝の前に置きたり、汝今より自らむべし、わが筆のさゝげられたる歌題はわが心をこと/″\くこれに傾けしむればなり 二五―二七
自然のいと大いなるしもべにて、天の力を世界にし、かつ己が光をもてわれらのために時をはかるもの 二八―三〇
わがさきにいへる處と合し、かの螺旋らせん即ちそが日毎ひごとに早く己を現はすそのすぢを傳ひてめぐれり 三一―三三
我この物とともにありき、されど登れることを覺えず、あたかも思ひ始むるまでは思ひの起るを知らざる人の如くなりき 三四―三六
かく一の善よりこれにまさる善に導き、しかして己が爲す事の、時を占むるにいたらざるほどいと早きはベアトリーチェなり 三七―三九
わが入りし日の中にさへ色によらで光によりて現はるゝとは、げにそのものゝ自ら輝くこといかばかりなりけむ 四〇―四二
たとひわれ、才と技巧と練達を呼び求むとも、これを語りて人をして心に描かしむるをえんや、人たゞ信じて自ら視るを願ふべし 四三―四五
またわれらの想像の力低うしてかゝる高さに到らずともあやしむに足らず、そは未だ日よりも上に目の及べることなければなり 四六―四八
尊き父の第四のやからかゝる姿にてかしこにありき、父は氣息いきさまと子を生むさまとを示しつゝ絶えずこれをかしめ給ふ 四九―五一
ベアトリーチェ曰ふ。感謝せよ、恩惠めぐみによりて汝を擧げつゝこの見ゆべき日にいたらんめし諸※(二の字点、1-2-22)の天使の日に感謝せよ。 五二―五四
人の心いかに畏敬の念に傾き、またいかに喜び進みて己を神に棒げんとすとも 五五―五七
これらのことばを聞ける時のわがさまに及ばじ、わが愛こと/″\く神に注がれ、ベアトリーチェはそがために少時しばし忘られき 五八―六〇
されど怒らず、いとうつくしく微笑ほゝゑみたれば、そのゑめる目の耀かゞやきはわが合ひし心をわかちて多くの物にむかはしむ 六一―六三
われ見しに多くの生くるすぐるゝ光、われらを中心となし己を一の輪となしき、その聲のうるはしきこと姿の輝くにまさりたり 六四―六六
空氣みごもり、帶となるべき糸をたもつにいたるとき、われらは※(二の字点、1-2-22)しば/″\ラートナのむすめの亦かくの如く卷かるゝを見る 六七―六九
そも/\天の王宮(かしこより我は歸りぬ)には、いと貴く美しくして王土のそともたらすをえざる寶多し 七〇―七二
これらの光の歌もその一なりき、かしこに飛登るべき羽を備へざる者は、かなたの消息おとづれおふしに求めよ 七三―七五
これらの燃ゆる日輪、かくうたひつゝわれらを三度みたび、動かざる極に近き星のごとくに※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐれる時 七六―七八
かれらはあたかも踊り終らぬ女等が、新しきふしを聞くまで耳傾けつゝ、もだして止まるごとく見えたり 七九―八一
かくてその一の中より聲いでゝ曰ふ。まことの愛をもやしかつ愛するによりて増し加はる恩惠めぐみの光 八二―八四
汝のうちにつよく輝き、後また昇らざる者の降ることなきかのきざはしを傳ひ汝を上方うへに導くがゆゑに 八五―八七
己が壜子とくりの酒を與へて汝のかわきをとゞむることをせざる者は、その自由ならざること、海にそゝがざる水に等し 八八―九〇
汝はこの花圈はなわ(汝を強うして天に登らしむる美しき淑女を圍み、悦びてこれを視る物)がいかなる草木くさきの花に飾らるゝやを知らんとす 九一―九三
我はドメーニコに導かれ、迷はずばよくゆるところなる道を歩む聖なるむれこひつじの一なりき 九四―九六
右にて我にいと近きはわが兄弟たり師たりし者なり、彼はコローニアのアルベルトといひ、我はアクイーノのトマスといへり 九七―九九
このほかすべての者の事を汝かくさだかにせんと思はゞ、わが言葉に續きつゝこの福なる花圈はなわにそひて汝の目を※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐらすべし 一〇〇―一〇二
次の焔はグラツィアーンの笑ひより出づ、彼は天堂においてよみせらるゝほど二の法廷を助けし者なり 一〇三―一〇五
またそのかたへにてわれらの組を飾る焔はピエートロ即ちかの貧しき女にならひ己が寶を聖なる寺院に捧げし者なり 一〇六―一〇八
われらの中の最美物いとうつくしきものなる第五の光は、下界こぞりてその消息おとづれうゝるほどなる戀より吹出づ 一〇九―一一一
そがなかにはいと深き知慧を受けたる尊き心あり、眞もし眞ならば、智においてこれと並ぶべき者興りしことなし 一一二―一一四
またそのかたへなるかの蝋燭の光を見よ、こは肉體の中にありて、天使のさがとそのつとめとをいと深く見し者なりき 一一五―一一七
次のちひさき光のなかには、己がふみをアウグスティーンのもちゐにそなへしかの信仰の保護者ほゝゑむ 一一八―一二〇
さてわが讚詞ほめことばひて汝の心の目を光より光に移さば、汝は既に第八の光にかわきつゝあらむ 一二一―一二三
そがなかには、己がことばを善く聽く人に、虚僞いつはりの世を現はす聖なる魂、一切の善を見るによりて悦ぶ 一二四―一二六
このものゝ追はれて出でし肉體はいまチェルダウロにあり、己は殉教と流鼠りゆうそとよりこの平安に來れるなりき 一二七―一二九
その先に、イシドロ、ベーダ及び想ふこと人たる者の上に出でしリッカルドのいきの、燃えて焔を放つを見よ 一三〇―一三二
またにて我にいと近きは、その深き思ひの中にて、死の來るを遲しと見し一の靈の光なり 一三三―一三五
これぞわらまちにて教へ、ねたまるゝべき眞理をあかしせしシジエーリのとこしへの光なる。 一三六―一三八
かくてあたかも神の新婦はなよめが朝の歌をば新郎はなむこの爲にうたひその愛を得んとて立つ時われらを呼ぶ時辰儀じしんぎの 一三九―一四一
一部他の一部を、きかつ押して音妙おとたへにチン/\と鳴り、神に心向へる靈を愛にてあふれしむるごとく 一四二―一四四
我は榮光の輪のめぐりつゝ、喜び限りなき處ならでは知るあたはざる和合と美とにその聲々をあはすを見たり。 一四五―一四七
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   第十一曲

あゝ人間のおろかなる心勞こゝろづかひよ、汝をして翼をちて下らしむるは、そも/\いかに誤り多き推理ぞや 一―三
一人ひとりは法に一人は醫に走り、ひとりは僧官を追ひ、ひとりは暴力または詭辯きべんによりて治めんとし 四―六
一人ひとりは奪ひ取らんとし、一人は公務に就かんとし、一人は肉の快樂けらくに迷ひてこれに耽り、ひとりは安佚あんいつむさぼれる 七―九
に、我はすべてこれらの物よりかれ、ベアトリーチェとともに、かくはな/″\しく天に迎へ入れられき 一〇―一二
さていづれの靈もかの圈の中、さきにそのありし處に歸れるとき、動かざることあたかも燭臺に立つ蝋燭ろうそくの如くなりき 一三―一五
しかしてさきに我に物言へる光、いよ/\あざやかになりてほゝゑみ、内より聲を出してふ 一六―一八
われ永遠とこしへの光を視て汝の思ひの出來いできたもとを知る、なほかの光に照らされてわれ自ら輝くごとし 一九―二一
汝はさきにわが「よくゆるところ」といひまた「これと並ぶべき者生れしことなし」といへるをあやしみ 二二―
汝の了解さとりふさはしきまで明らかなるゆきわたりたる言葉にてその説示されんことを願ふ、げにこゝにこそつぶさくべき事はあるなれ ―二七
それ被造物つくられしものの目の視きはむる能はざるまでいと深き思量はからひをもて宇宙を治むる神の攝理は 二八―三〇
かの新婦はなよめ――即ち大聲おほごゑによばはりつゝ尊き血をもてこれとえにしを結べる者の新婦――をしてそのいつくしむ者のもとくにあたり 三一―三三
心を安んじかつ彼にいよ/\忠實まめやかならしめんとて、これがためにその左右の導者となるべき二人ふたりの君を定めたり 三四―三六
その一人ひとりは熱情全くセラフィーノのごとく、ひとりは知慧によりてケルビーノの光を地上に放てり 三七―三九
我その一人ひとりの事をいはむ、かれらのわざ目的めあては一なるがゆゑに、いづれにてもひとりをむるはふたりをほむることなればなり 四〇―四二
トゥピーノと、ウバルド尊者に選ばれし丘よりくだる水との間に、とある高山たかやまより、肥沃の坂のるゝあり 四三―四五
(この山よりペルージアは、ポルタ・ソレにて暑さ寒さを受く、また坂の後方うしろにはノチェーラとグアルドと重きくびきの爲に泣く) 四六―四八
この坂の中けはしさのいたく破るゝ處より、一の日輪世に出でたり――あたかもこれがをりふしガンジェより出るごとく 四九―五一
是故にこの處のことをいふ者、もしふさはしくいはんと思はゞ、アーシェージといはずして(ことば足らざれば)東方オリエンテといふべし 五二―五四
昇りて久しからざるに、彼は早くもその大いなる徳をもて地に若干そこばくの勵みを覺えしむ 五五―五七
そは彼若き時、ひとりだに悦びの戸を開きて迎ふる者なき(死を迎へざるごとく)女の爲に父と爭ひ 五八―六〇
而して己が靈の法廷しらすに、父の前にて、これとえにしを結びし後、日毎ひごとに深くこれを愛したればなり 六一―六三
それかのをんなは、最初はじめの夫を失ひてより、千百年餘の間、蔑視さげすまれうとんぜられて、彼の出るにいたるまで招かるゝことあらざりき 六四―六六
かの女が、アミクラーテとともにありて、かの全世界を恐れしめたる者の聲にも驚かざりきといふ風聞うはささへこれに益なく 六七―六九
かの女が、心堅かた膽大きもふとければ、マリアを下に殘しつゝ、クリストとともに十字架にのぼりし事さへこれが益とならざりき 七〇―七二
されどわが物語あまりにおぼろに進まざるため、汝は今、わがこの長きことばの中なる戀人等の、フランチェスコと貧なるを知れ 七三―七五
かれらの和合とそのよろこべる姿とは、愛、驚、及び敬ひを、聖なる思ひの原因もとたらしめき 七六―七八
かゝれば尊きベルナルドは第一にくつをぬぎ、かく大いなる平安をひて走り、走れどもなほおそしとおもへり 七九―八一
あゝ未知のとみ肥沃ひよく財寶たからよ、エジディオ沓をぎ、シルヴェストロ沓をぬぎて共に新郎はなむこに從へり、新婦はなよめいたく心にかなひたるによる 八二―八四
かくてかの父たり師たりし者は己が戀人及びはやいやしきひもを帶とせし家族やからとともに出立いでたてり 八五―八七
またピエートロ・ベルナルドネの子たりし爲にも、くすしくさげすまるべき姿の爲にも、心の怯額おくれさず 八八―九〇
王者の如くインノチェンツィオにそのいかめしきくはだてあかし、己が分派わかれのために彼より最初の印を受けたり 九一―九三
貧しき民の彼――そのいとたへなる生涯はむしろ天の榮光の中に歌はるゝかたよかるべし――に從ふ者増しゝ後 九四―九六
永遠とこしへの靈は、オノリオの手を經て、この法主ほふしゆの聖なる志に第二の冠を戴かしめき 九七―九九
さて彼殉教に渇き、おごるソルダンの目前めのまへにて、クリストとその從者等のことを宣べしも 一〇〇―一〇二
民心熟せず、歸依者きえしやなきを見、空しく止まらんよりはイタリアの草の實をえんとて歸り、その時 一〇三―一〇五
テーヴェロとアルノの間のあらき巖の中にて最後の印をクリストより受け、二年ふたとせの間これを己が身にびき 一〇六―一〇八
彼を選びてかゝるさいはひに到らしめ給ひし者、彼を召し、身をひくうして彼の得たるむくいをば與ふるをよしとし給へる時 一〇九―一一一
正しき嗣子よつぎ等にすゝむるごとく彼その兄弟達に己が最愛の女を薦め、まめやかにこれを愛せと命じ 一一二―一一四
かくして尊き魂は、かの女のふところを離れて己が王國に歸るを願へり、またその肉體の爲に他のひつぎを求めざりき 一一五―一一七
いざ思へ、大海おほうみに浮ぶピエートロの船の行方ゆくへを誤らしめざるにあたりて彼のりよたるにふさはしき人のいかなる者にてありしやを 一一八―一二〇
是ぞわれらの教祖なりける、かゝれば汝は、およそ彼に從ひてその命ずる如く爲す者の者の、良貨よきしろものを積むをさとらむ 一二一―一二三
されど彼のむれは新しき食物くひものをいたく貪り、そがためかなたこなたの山路やまぢに分れ散らざるをえざるにいたれり 一二四―一二六
しかして彼の羊遠く迷ひていよ/\彼を離るれば、いよ/\乳に乏しくなりてをりに歸る 一二七―一二九
げにその中には害を恐れ牧者に近く身を置くものあり、されど少許すこしの布にてかれらの僧衣ころもを造るに足るほどその數少し 一三〇―一三二
さてもしわが言葉かすかならずば、またもし汝心をとめて聽きたらんには、しかしてわが既にいへることを再び心に想ひ起さば 一三三―一三五
汝の願ひの一部は滿つべし、そは汝けづられし木を見、何故に革紐かはひもまとふ者が「迷はずばよくゆるところ」と 一三六―一三八
あげつらふやを知るべければなり。
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   第十二曲

かの福なる焔最終をはりことばをいへるとき、聖なる碾石ひきうすたゞちに※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐりはじめたり 一―三
しかしてその未だ一周ひとめぐりせざるまに、いま一の碾石まろくこれをかこみつゝ、舞をば舞に歌をば歌にあはせたり 四―六
この歌は、かのうるはしき笛よりいで、さながら元のかゞやきうつれる光にまさる如く、われらのムーゼわれらのシレーネにまさる 七―九
イウノネその侍女はしために命ずれば、相並び色も等しき二の弓、やはらかき雲の中に張られ 一〇―一二
そとの弓うちの弓より生る、そのさまかの流離さすらひの女、日の爲に消ゆる霧かとばかり戀の爲に消たる者の言葉に似たり) 一三―一五
世の人々をして、神がノエと立て給ひし契約にもとづき、世界にふたゝび洪水なきをぼくせしむ 一六―一八
かくの如く、これらの不朽の薔薇の二の花圈はなわはわれらの周圍まはりをめぐり、またかくの如く、その外の内の圈と相適あひかなひたり 一九―二一
喜びの舞と尊き大いなるいはひ――光、光と樂しく快くかつ歌ひかつ照しあふ――とが 二二―二四
あたかもその好むところに從つて共に閉ぢ共に開かざるをえざる目の如く、時と意志とを同うしてともに靜になりし後 二五―二七
新しき光の一のなかよりとある聲出で、我をば星を指す針のごとくそなたにむかしめき 二八―三〇
いふ。我を美しうする愛我を促して今一人いまひとりの導者の事を語らしむ――彼の爲に、わが師いまかくたゝへられたり 三一―三三
ひとりのをる處には他もまたしやうぜられ、さきに二人ふたりが心をあはせて戰へる如く、その榮光をもともに輝かすをよろしとす 三四―三六
いと高き價を拂ひて武器を新にしたるクリストの軍隊が、旗のうしろより、遲く、ぢつゝ、まばらになりて進みゐしころ 三七―三九
永遠とこしへに治め給ふみかどは、かのおぼつかなき軍人いくさびと等の爲に、かれらの徳によるにあらでたゞ己が恩惠めぐみによりてそなへをなし 四〇―四二
さきにいはれしごとく二人ふたり勇士ますらをおくりて己が新婦はなよめたすけ給へり、かれらのことばおこなひとにより迷へる人々道に歸りき 四三―四五
若葉をひらきこれをもてエウローパのころもを新ならしめんためさわやかなる西風ゼツヒロの起るところ 四六―四八
浪打際なみうちぎは――日は時として長くはやく進みて後、かの浪のかなたにて萬人よろづのひとの目にかくる――よりいと遠くはあらぬあたりに 四九―五一
さち多きカラロガあり、從ひ從ふる獅子をあらはすかの大いなるたてにまもらる 五二―五四
かしこに、クリストの信仰を慕ふ戀人、味方にやさしく敵につれなき聖なる剛者つはもの生れたり 五五―五七
かれの心はその造られし時、いくる力をもてたゞちに滿たされたりしかば、母に宿やどりゐてこれを豫言者たらしめき 五八―六〇
彼と信仰の間のえにし聖盤サクロフォンテのほとりに結ばれ、かれらかしこにて相互かたみの救ひをその聘物おくりものとなしゝ後 六一―六三
かれに代りてうけがへる女は、かれとその嗣子よつぎ等とより出づるにいたるしきを己が眠れる間に見たり 六四―六六
しかして彼の爲人ひとゝなりことばの形にあらはさんため、靈この處よりくだり、彼は全く主のものなればその意をとりて名となせり 六七―六九
彼即ちドメーニコと呼ばれき、我は彼をば、クリストにえらばれその園にてこれをたすけし農夫にたとへむ 七〇―七二
げに彼はクリストの使つかひまたその弟子なることを示せり、かれに現はれし最初の愛はクリストの與へ給ひし第一のさとしに向ひたればなり 七三―七五
かれの乳母めのとは、かれが屡※(二の字点、1-2-22)目を醒しつゝ默して地に伏し、そのさま我このために生るといふが如きを見たり 七六―七八
あゝ彼の父こそまことにフェリーチェ、かれの母こそ眞にジョヴァンナ(若しこれに世のく如き意義あらば)といふべけれ 七九―八一
人々が今、かのオスティアびとまたはタッデオのあとひつゝ勞して求むる世の爲ならで、まことのマンナの愛の爲に 八二―八四
彼は程なく大いなる師となり、葡萄の園――園丁にはつくりあしくばたゞちに白まむ――をめぐりはじめき 八五―八七
彼が法座(正しき貧者ひんじやを今は普の如くいたはらず、されどこはこれに坐するおとれる者の罪にして法座その物の罪ならじ)に求めしは 八八―九〇
六をえて二三をわかつことにあらず、最初にきたる官をうるのさちにもあらず、また神の貧者に屬する什一にもあらで 九一―九三
汝をかこむ二十四本の草木くさきもとなる種のために、かの迷へる世と戰ふのもとなりしぞかし 九四―九六
かくてかれは教理、意志、及び使徒の任務つとめをもてあたかも激流の、高き脈より押出さるゝごとくに進み 九七―九九
たけく異端邪説の雜木ざつぼくを打ち、さからふ力のいと大いなる處にては打つことまたいと強かりき 一〇〇―一〇二
この後さま/″\の流れ彼より出でたり、カトリックの園これによりてうるほひ、その叢樹こだちいよ/\榮ゆ 一〇三―一〇五
聖なる寺院が自らまもりかつ戰場にその内亂をしづめしとき乘りし車の一の輪げにかくの如くならば 一〇六―一〇八
殘の輪――わが來らざるさきにトムマのいたくたゝへたる――の秀づること必ずや汝にあきらかならむ 一〇九―一一一
されどこの輪の周圍まはりのいと高きところの殘しゝあとを人かへりみず、良酒よきさけのありしところにかび生ず 一一二―一一四
彼の足跡あしあとを踏み傳ひて直く進みしかれの家族やからは全くその方向むきを變へ、指をかゝとの方に投ぐ 一一五―一一七
しかしてかくあしく耕すことのいかなる收穫かりいれに終るやは、程なく知られむ、その時至らばはぐさ穀倉くらを奪はるゝをかこつべければなり 一一八―一二〇
しかはあれ、人もしわれらのふみ一枚ひとひらまた一枚としらべなば、我はありし昔のまゝなりとしるさるゝ紙の今なほあるを見む 一二一―一二三
されどこはカザールまたはアクアスパルタよりならじ、かしこより來りてかの文書かきものたづさはる者或ひはこれを避け或ひはこれをちゞむ 一二四―一二六
さて我はボナヴェントゥラ・ダ・バーニオレジオの生命いのちなり、大いなる職務つとめを果さんためわれ常に世の心勞こゝろづかひあとにせり 一二七―一二九
イルルミナートとアウグスティンこゝにあり、彼等は紐によりて神の友となりたる最初の素足すあしの貧者の中にありき 一三〇―一三二
ウーゴ・ダ・サン・ヴィットレ彼等とともこゝにあり、またピエートロ・マンジァドレ及び世にて十二のまきに輝くピエートロ・イスパーノあり 一三三―一三五
豫言者ナタン、きやうの僧正クリソストモ、アンセルモ、及び第一の學術に手を下すをいとはざりしドナートあり 一三六―一三八
ラバーノこゝにあり、また豫言の靈を授けられたるカーラブリアの僧都ジョヴァッキーノわがかたへにかゞやく 一三九―一四一
フラア・トムマーゾの燃ゆるまこととそのふさはしきことばとは我を動かしてかく大いなる武士ものゝふきそめしめ 一四二―一四四
かつ我とともにこれらの侶を動かしたりき。 一四五―一四七
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   第十三曲

わが今視し物をよくさとらむとねがふ人は、心の中に描きみよ(しかしてわが語る間、その描ける物をかたいはほの如くにたもて) 一―三
空氣いかに密なりともなほこれに勝つばかりいとあざやかなる光にてこゝかしこに天をかす十五の星を 四―六
われらの天のふところをもて夜も晝も足れりとし、ながえをめぐらしつゝかくれぬ北斗を描きみよ 七―九
またかの車軸――第一の輪これがまはりをめぐる――のはしより起る角笛つのぶえの口をゑがきみよ 一〇―一二
即ちこれらのもの己をもてあたかもミノスのむすめが死のつめたさを覺えし時に造れるごとき徴號しるしを二つ天につくり 一三―一五
一はその光を他の一の内に保ち、かつ相共にめぐりつゝ一はさきに一はあとより行くさまを 一六―一八
さらばまこと星宿ほしのやどりと、わが立處たちどをかこみめぐる二重ふたへの舞とをおぼろに認めむ 一九―二一
そはこれがわが世のならひゆること、さながら諸天の中のいときものゝ※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐる早さがキアーナの水の流れにまさる如くなればなり 二二―二四
かしこにかれらの歌へるはバッコにあらずペアーナにあらず、三一みつひとつ言る神のさが、及び一となれる神人かみひと二のさがなりき 二五―二七
歌も舞も終りにいたれば、これらの聖なる光は、その心をわれらにとめつゝ、彼より此と思ひを移すを悦べり 二八―三〇
かの神の貧しき人のしき一生を我に語れる光、相和する聖徒のなかにて、このとき靜寂しづかさを破りて 三一―三三
曰ふ。一の穗碎かれ、その實すでにたくはへらるゝがゆゑに、うるはしき愛我を招きてさらに殘の穗を打たしむ 三四―三六
汝思へらく、己があぢはひのため全世界をしてあたひを拂はしめし女の美しき頬を造らんとて肋骨あばらぼねを拔きし胸にも 三七―三九
槍に刺され、一切の罪の重さにまさるあがなひをそのあとさきになしゝ胸にも 四〇―四二
この二を造れる威能ちからは、凡そ人たる者の受くるをうるかぎりの光をこと/″\そゝぎ入れたるなりと 四三―四五
是故に汝は、さきに我汝に告げて、かの第五の光につゝまるゝさいはひには並ぶ者なしといへるをあやしむ 四六―四八
いざ目を開きてわが答ふるところを望め、さらば汝は汝の思ひとわがことばとが眞理において一となること圓の中心の如きを見む 四九―五一
それ滅びざるものも滅びうるものも、みな愛によりてわれらの主の生みたまふ觀念の耀かゞやきにほかならず 五二―五四
そはかの活光いくるひかり、即ち己が源の光よりいでゝこれを離れずまたこれらと三一に結ばる愛を離れざるもの 五五―五七
自ら永遠とこしへに一となりて殘りつゝ、その恩惠めぐみによりて己が光線を、あたかも鏡にうつす如く、九の物に集むればなり 五八―六〇
さてこの光線こゝより降りて最もおとれる物に及ぶ、しかしてかくわざより業に移るに從ひ力愈※(二の字点、1-2-22)弱く遂には只はかなき苟且かりそめの物をのみ造るにいたる 六一―六三
苟且かりそめの物とは※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐる諸天が種によりまたは種によらずして生ずる所の産物をいふ 六四―六六
またかゝる物の蝋とこの蝋を整ふるものとは一樣にあらず、されば觀念に印せられてその中に輝く光或ひは多く或ひは少し 六七―六九
是においてか類において同じ木も善果よきみ惡果あしきみを結び、汝等もまた才を異にして生るゝにいたる 七〇―七二
蝋もし全く備はり、天の及ぼす力いとつよくば、印の光みなあらはれむ 七三―七五
されど自然は常に乏しき光を與ふ、即ちそのはたらくさまあたかもわざくはしけれど手の震ふ技術家の如し 七六―七八
もしそれ熱愛材をとゝのへ、第一の力のあざやかなる視力を印せば、物みな極めて完全ならむ 七九―八一
さればこそ土は往昔そのかみ生物の極めて完全なるにふさはしく造られ、また處女をとめみごもりしなれ 八二―八四
是故に人たるものゝさががこの二者ふたりの性の如くになれること先にもあらず後にもあらずと汝の思ふを我はよしとす 八五―八七
さて我もしさらに説進まずば、汝はまづ、さらばかの者いかでその此類たぐひを見ずやといはむ 八八―九〇
されどあらはれざる事の明らかに顯はれん爲、彼の何人なりしやを思へ、またその求めよといはれし時彼を動かしてはしめし原因もとを思へ 九一―九三
わがいへるところおぼろなりとも汝なほさだかに知らむ、彼の王者なりし事を、またその知慧を求めしは即ち良王よきわうとならん爲にて
天上の動者うごかすものの數を知らん爲にも、必然と偶然とが必然を造ることありやいなやを知らん爲にも 九七―九九
第一のうごき有無うむを知らん爲にも、はたまた一の直角なき三角形が半圓の内に造らるゝをうるや否やを知らん爲にもあらざりしを 一〇〇―一〇二
是故に汝もしさきにわがいへることゝ此事とを思ひみなば、わがふところの比類たぐひなき智とは王者の深慮ふかきおもんばかりを指すをみむ 一〇三―一〇五
またもし明らかなる目を興りしといふことばにむけなば、こは數多くして良者よきものまれなる王達にのみかゝはるをみむ 一〇六―一〇八
かくわかちてわがことばを受けよ、さらばそは第一の父及びわれらの愛する者についての汝の信仰と並び立つべし 一〇九―一一一
汝この事をもて常に足の鉛とし、汝の見ざるしかいなとにむかひては疲れし人の如くしづかに進め 一一二―一一四
うべなふべき時にてもまたいなむべき時にても、彼と此とを別たずしてしかする者はいみじき愚者にほかならず 一一五―一一七
そは輕々しく事を斷ずれば誤りやすく、情またいで智をほだすにいたればなり 一一八―一二〇
眞理をあさりて、わざを有せざる者は、その歸るや出立つ時とさまを異にす、あにむなしく岸を離れ去るのみならんや 一二一―一二三
パルメニーデ、メリッソ、ブリッソ、そのほか行きつゝ行方ゆくへを知らざりし多くの人々みな世にむかひて明かにこれがあかしをなす 一二四―一二六
サベルリオ、アルリオ及びあたかも劒の如く聖書をうつしてそのなほき顏をゆがめし愚者またしかり 一二七―一二九
されば人々餘りに安んじて事を判じ、さながらはたにある穗をばその熟せざるさきに評價ねぶみする人の如くなるなかれ 一三〇―一三二
そはわれいばらが、冬の間はかたく恐ろしく見ゆれども、後そのこずゑ薔薇しやうびの花をいたゞくを見 一三三―一三五
また船がなほく海を渡りて航路ふなぢを終へつゝ、遂に港の入口に沈むを見しことあればなり 一三六―一三八
ドンナ・ベルタもセル・マルティーノも、一人ひとり盜み一人物をさゝぐるを見て、神の審判さばきかれらにあらはると思ふなかれ 一三九―一四一
恐らくは彼起き此倒るゝことあらむ。 一四二―一四四
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   第十四曲

まるうつはの中なる水、そとまたはうちより打たるれば、その波動中心よりふちにまたは縁より中心に及ぶ 一―三
トムマーゾのたふとき生命いのちもだしゝとき、この事たちまちわが心に浮べり 四―六
こは彼のことばと彼に續いて物言へるベアトリーチェの言とよりこれに似たる事生じゝによる、淑女曰ふ 七―九
いまひとつの眞理をばこの者求めて根に到らざるをえず、されど聲はもとより未だ思ひによりてさへこれを汝等にいはざるなり 一〇―一二
ふ彼に告げよ、汝等靈體を飾る光は、今のごとくとこしへに汝等とともに殘るやいなやを 一三―一五
またもし殘らば、請ふ告げよ、汝等が再び見ゆるにいたる時、その光いかにして汝等の目をそこなはざるをうべきやを。 一六―一八
たとへば輪に舞ふ人々が、悦び増せば、これにうながされ引かれつゝ、相共に聲を高うし、姿に樂しみを現はすごとく 一九―二一
かの二の聖なる圓は、急なるうや/\しき願ひをきゝて、その※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐるさまとたへなるふしとに新なる悦びを現はせり 二二―二四
およそ人の天に生きんとて地に死ぬるを悲しむ者は、永劫の雨のさわやかなるを未だかしこに見ざる者なり 二五―二七
さてかの一と二と三、即ち永遠とこしへに生き、かつとこしへに三と二と一にて治め、限られずして萬物を限り給ふものをば 二八―三〇
かの諸※(二の字点、1-2-22)の靈いづれも三たびうたひたり、そのたへなる調しらべはげにいかなる功徳のむくいとなすにもふさはしかるべし 三一―三三
我また小きかたの圓の中なるいと神々しき光の中に一の柔かき聲を聞たり、マリアに語れる天使の聲もかくやありけむ 三四―三六
その答ふる所にいふ。天堂の樂しみ續くかぎり、我等の愛光を放ちてかゝる衣をわれらのまはりに現はさむ 三七―三九
そのあざやかさは愛の強さに伴ひ、愛の強さは視力みるちからに伴ひ、しかして是またその功徳を超えて受くるところの恩惠めぐみに準ず 四〇―四二
尊くせられきよめられし肉再びわれらに着せらるゝ時、われらの身はその悉く備はるによりて、いよ/\めづべき物となるべし 四三―四五
是故に至上の善が我等にめぐむすべての光、われらに神を視るをえしむる光は増さむ 四六―四八
是においてか視力みるちから増し、これにもやさるゝ愛も増し、愛よりいづる光も増さむ 四九―五一
されど炭が焔を出し、しかして白熱をもてこれに勝ちつゝ己が姿をまもるごとく 五二―五四
この耀――今われらを包む――は、たえず地におほはるゝ肉よりも、そのあらはるゝさま劣るべし 五五―五七
またかく大いなる光と雖、われらを疲れしむる能はじ、そは肉體の諸※(二の字点、1-2-22)の機關強くして、我等を悦ばす力あるすべての物にふればなり。 五八―六〇
いとくいちはやくかの歌の組二ながらアーメンといひ、死にたるからだをうるの願ひをあきらかに示すごとくなりき 六一―六三
またこの願ひは恐らくは彼等自らの爲のみならず、父母ちゝはゝその他彼等が未だ不朽の焔とならざる先に愛しゝ者の爲なりしならむ 六四―六六
時に見よ、一樣にあざやかなる一の光あたりに現はれ、かしこにありし光のかなたにてさながら輝く天涯に似たりき 六七―六九
また日の暮初くれそむる頃、新に天に現はれ出づるものありて、その見ゆるはまことか否かわきがたきごとく 七〇―七二
我はかしこに多くの新しき靈ありて、かの二の輪のそとに一の圓を造りゐたるを見きとおぼえぬ 七三―七五
あゝ聖靈のまこときらめきよ、その不意にしてかつ輝くこといかばかりなりけむ、わが目くらみて堪ふるをえざりき 七六―七八
されどベアトリーチェは、記憶の及ぶあたはざるまでいと美しくかつ微笑ほゝゑみて見えしかば 七九―八一
わが目これより力を受けて再び自ら擧ぐるをえ、我はたゞわが淑女とともにいよいよ尊き救ひに移りゐたるを見たり 八二―八四
わがさらに高く昇れることを定かに知りしは、常よりもあかくみえし星の、燃ゆる笑ひによりてなりき 八五―八七
我わが心を盡し、萬人よろづのひとのひとしく用ゐる言葉にて、この新なる恩惠めぐみふさはしき燔祭はんさいを神にさゝげ 八八―九〇
しかして供物くもつの火未だわが胸の中に盡きざるさきに、我はこの獻物さゝげもの嘉納かなふせられしことを知りたり 九一―九三
そは多くの輝二の光線の中にて我に現はれ、あゝかくかれらを飾るエリオスよとわがいへるほどあざやかにかつ赤かりければなり 九四―九六
たとへば銀河が、大小さま/″\の光をつらねて宇宙の兩極の間に白み、いと賢き者にさへ疑ひをいだかしむるごとく 九七―九九
かの光線は、星座となりつゝ、火星の深處ふかみに、象限しやうげん相結びて圓の中に造るその貴き標識しるしをつくれり 一〇〇―一〇二
さてこゝに到りてわが記憶才に勝つ、そはかの十字架の上にクリストかゞやき給ひしかど我はふさはしきたとへを得るをえざればなり 一〇三―一〇五
されど己が十字架をとりてクリストに從ふ者は、いつかかの光明の中にひらめくクリストを見てわがかくはぶくを責めざるならむ 一〇六―一〇八
けたより桁にまたいたゞきあしとの間に諸※(二の字点、1-2-22)の光動き、相會ふ時にも過ぐるときにもかれらは強くきらめけり 一〇九―一一一
己をまもらんためさとりわざとをもて人々の作る陰を分けつゝをりふしすぢを引く光の中に、長き短き極微の物體 一一二―
或ひはなほく或ひはゆがみ、或ひは疾く或ひは遲く、たえずそのかたちを變へて動くさままたかくの如し ―一一七
またたとへば多くのいとにて調子しらべを合せし琵琶びわや琴が、ふしを知らざる者にさへ、鼓音ひくねたへにきこゆるごとく 一一八―一二〇
かしこにあらはれし諸※(二の字点、1-2-22)の光より一のうるはしきおと十字架の上にあつまり、歌をしえざりし我もこれに心を奪はれき 一二一―一二三
されど我よくそが尊き讚美なるを知りたり、そはちて勝てといふ詞、解せざれどなは聞く人に聞ゆる如く、我に聞えたればなり 一二四―一二六
わが愛これに燃やされしこといかばかりぞや、げに是時にいたるまで、かくうるはしききづなをもて我をつなげるもの一だになし 一二七―一二九
恐らくはわがこのことば、かの美しき目(これを視ればわが願ひ安んず)の與ふる樂をかろんじ、餘りに輕率かるはずみなりと見えむ 一三〇―一三二
されど人もし一切の美をす諸※(二の字点、1-2-22)の生くる印がその高きに從つて愈※(二の字点、1-2-22)強く働く事と、わが未だ彼處かしこにてかの目に向はざりし事とを思はゞ 一三三―一三五
わが辯解いひひらかんため自ら責むるその事をもて我を責めず、かつわがまことを告ぐるを見む、そはかの聖なる樂しみをわれ今除きていへるに非ず 一三六―一三八
これまたその登るに從つていよ/\清くなればなり 一三九―一四一
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   第十五曲

慾を惡意のあらはすごとくまつたき愛をつねにあらはす善意によりて 一―三
かのうるはしき琴はもだし、天の右手めでゆるべてむる聖なるいとはしづまりき 四―六
そも/\これらの靈體は、我をして彼等に請ふの願ひを起さしめんとて皆ひとしくもだしゝなれば、いかで正しきこひに耳を傾けざらんや 七―九
苟且かりそめの物を愛するため自ら永遠とこしへにこの愛を失ふ人のはてしなく歎くにいたるもむべなるかな 一〇―一二
靜なる、清き、晴和のどけそらに、ゆくりなき火しば/\流れて、やすらかなりし目を動かし 一三―一五
位置を變ふる星と見ゆれど、たゞその燃え立ちし處にては失せし星なくかつその永く保たぬごとくに 一六―一八
かの十字架の右のけたより、かしこに輝く星座の中の星一つ馳せ下りてあしにいたれり 一九―二一
またこのたまは下るにあたりてその紐を離れず、光のすぢを傳ひて走り、さながら雪花石アラバストロうしろの火の如く見えき 二二―二四
アンキーゼの魂が淨土エリジオにてわが子を見いとやさしく迎へしさまも(われらのいと大いなるムーザに信をおくべくば)かくやありけむ 二五―二七
あゝわが血族うからよ、あゝ上より注がれし神の恩惠めぐみよ、汝の外誰の爲にかあめの戸の二たび開かれしことやある。 二八―三〇
かの光かく、是に於てか我これに心をとめ、のち目をめぐらしてわが淑女を見れば、わが驚きは二重ふたへとなりぬ 三一―三三
そは我をしてわが目にてわが恩惠めぐみわが天堂の底を認むと思はしむるほどの微笑ほゝゑみその目のうちに燃えゐたればなり 三四―三六
かくてかの靈、聲姿ともにゆかしく、その初のことばに添へて物言へり、されど奧深くしてさとるをえざりき 三七―三九
但しこは彼が、好みて我より隱れしにあらず、むをえざるにいづ、人間のまとよりもその思ふところ高ければなり 四〇―四二
しかしてその熱愛の弓冷えゆき、そがためそのことば人智の的のかたに下るにおよび 四三―四五
わがさとれる第一の事にいふ。むべき哉三一みつひとつにいます者、汝わが子孫をかくねんごろに眷顧かへりみたまふ。 四六―四八
また續いて曰ふ。白きも黒きも變ることなき大いなるふみを讀みてより、樂しくも久しくうゑを覺えしに 四九―五一
子よ汝はこれをこの光(我このうちにて汝に物言ふ)のなかにてしづめぬ、こはかく高く飛ばしめんため羽を汝に着せし淑女の恩惠めぐみによれり 五二―五四
汝信ずらく、汝の思ひは第一の思ひより我に移り、そのさまあたかもいちなる數の知らるゝ時五と六とこれより分れ出るに似たりと 五五―五七
さればこそわが誰なるやまた何故にこの樂しきむれの中にてことによろこばしく見ゆるやを汝は我に問はざるなれ 五八―六〇
汝の信ずる所正し、そは大いなるもちひさきもすべてこの生をくる者は汝の思ひが未だ成らざるさきに現はるゝかの鏡を見ればなり 六一―六三
されど我をして目をさましゐて永遠とこしへに見しめまたうるはしき願ひにかはかしむる聖なる愛のいよ/\げられんため 六四―六六
恐れずはゞからずかつ悦ばしき聲をもて思ひを響かし願ひをひゞかせよ、わが答ははや定まりぬ。 六七―六九
我はベアトリーチェにむかへり、この時淑女わが語らざるにはやくも聞きて、我に一のしるしを與へ、わが願ひの翼を伸ばしき 七〇―七二
我即ち曰ふ。第一の平等者びやうとうじや汝等に現はるゝや、汝等各自おの/\の愛と智とはそのおもさ等しくなりき 七三―七五
これ熱と光とをもて汝等を照らしかつ暖めし日輪が、これにたぐふに足る物なきまでその平等を保つによる 七六―七八
されど人間にありては、汝等のよく知る理由ことわりにもとづき、おもふこととあらはす力とその翼同じからず 七九―八一
是故に人間の我、自らこの不同を感ずるにより、父の如く汝のよろこび迎ふるをたゞ心にて謝するのみ 八二―八四
我誠に汝にふ、この貴き寶を飾る生くる黄玉わうぎよくよ、汝の名を告げてわが願ひを滿たせ。 八五―八七
あゝわが葉よ。汝を待つさへわが喜びなりき、我こそ汝の根なりけれ。彼まづかく我に答へ 八八―九〇
後またひけるは。汝の家族やからの名のもとにて、第一のうてなに山を※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐることはや百年餘もゝとせあまりに及べる者は 九一―九三
我には子汝には曾祖父そうそふなりき、汝すべからく彼の爲にその長き勞苦をば汝のわざによりて短うすべし 九四―九六
それフィオレンツァはその昔の城壁――今もかしこより第三時と第九時との鐘聞ゆ――の内にて平和を保ち、かつひかへかつつつしめり 九七―九九
かしこにくさりも冠もなく、飾れるくつ穿く女も、締むる人よりなほ目立つべき帶もなかりき 一〇〇―一〇二
まだその頃は女子によし生るとも父の恐れとならざりき、その婚期ときその聘禮おくりものいづれものりえざりければなり 一〇三―一〇五
かしこに人の住まざる家なく、しつの内にてらるゝことを教へんとてサルダナパロの來れることもあらざりき 一〇六―一〇八
まだその頃は汝等のウッチェルラトイオもモンテマーロにまさらざりき――今そのさかえのまさるごとく、この後おとろへもまたまさらむ 一〇九―一一一
我はベルリンチオーン・ベルティが革紐かわひもと骨との帶を卷きて出で、またその妻が假粧けさうせずして鏡を離れ來るを見たり 一一二―一一四
またネルリの家長いへをさとヴェッキオの家長いへをさとが皮のみの衣をもて、その妻等が紡錘つむと麻とをもて、心にれりとするを見たり 一一五―一一七
あゝさち多き女等よ、彼等は一人だにその墓につきて恐れず、また未だフランスの故によりてひと臥床ふしどに殘されず 一一八―一二〇
ひとりは目をさめしゐて搖籃ゆりかごを守り、またあやしつゝ、父母ちゝはゝの心をばまづ樂しますことばを用ゐ 一二一―一二三
ひとりは絲をつむぎつゝ、わがの人々と、トロイアびと、フィエソレ、ローマの物語などなしき、チアンゲルラや 一二四―
ラーポ・サルテレルロの如き者その頃ありしならんには、チンチンナートやコルニーリアの今における如く、いとあやしとせられしなるべし ―一二九
かく平穩やすらかにかく美しくまちの人々の住みゐたるなかに、かく頼もしかりし民、かくうるはしかりし客舍に 一三〇―一三二
マリア――唱名の聲高きを開きて――我を加へ給へり、汝等の昔の授洗所にて我は基督教徒クリスティアーノとなり、カッチアグイーダとなりたりき 一三三―一三五
わが兄弟なりし者にモロントとエリゼオとあり、わが妻はポーのたによりわがもとに來れり、汝のうぢかの女より出づ 一三六―一三八
後われ皇帝クルラードにつかへ、その騎士の帶をさづけられしほどいさをによりていと大いなる恩寵めぐみをえたり 一三九―一四一
我彼に從ひて出で、牧者達の過のため汝等の領地をおかす人々の不義の律法おきてと戰ひ 一四二―一四四
かしこにてかのけがれし民の手にかゝりて虚僞いつはりの世――多くの魂これを愛するがゆゑに穢る――より解かれ 一四五―一四七
殉教よりこの平安に移りにき。 一四八―一五〇
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   第十六曲

あゝ人の血統ちすぢのたゞさゝやかなる尊貴たふとさよ、情の衰ふるところなる世に、汝人々をして汝に誇るにいたらしむとも 一―三
かさねてこれをあやしとすることあらじ、そは愛欲のれざるところ即ち天にて我自ら汝に誇りたればなり 四―六
げに汝は短くなりやすき衣のごとし、日に日に補ひ足されずば、時ははさみをもて周圍まはりをめぐらむ 七―九
ローマの第一に許しゝことばしかしてそのやからの中にて最もすたれし語なるヴォイを始めに、我再び語りいづれば 一〇―一二
少しく離れゐたりしベアトリーチェは、ゑみを含み、さながらふみに殘るかのジネーヴラの最初のとがを見てしはぶきし女の如く見えき 一三―一五
ひけらく。ヴォイはわが父なり、汝いたく我をはげまして物言はしめ、また我を高うして我にまさる者とならしむ 一六―一八
いと多くの流れにより嬉しさわが心に滿つれば、心は自らそのやぶれずしてこれにふるをうるを悦ぶ 一九―二一
さればわが愛する遠祖とほつおやよ、ふ我に告げよ、汝の先祖達は誰なりしや、汝わらべなりし時、年は幾何いくばくの數をか示せる 二二―二四
請ふ告げよ、サンジョヴァンニの羊のをりはその頃いかばかり大いなりしや、またその内にて高座かみざに就くにふさはしき民は誰なりしや。 二五―二七
たとへば炭風に吹かれ、燃えて焔を放つごとく、我はかの光のわが媚ぶることばをきゝて輝くを見たり 二八―三〇
しかしてこの物いよ/\美しくわが目に見ゆるに從ひ、いよ/\うるはしきやはらかき聲にて(但し近代ちかきよの言葉を用ゐで) 三一―三三
我に曰ひけるは。アーヴェのいはれし日より、今は聖徒なるわが母、子を生み、宿やどしゝ我を世にいだせる時までに 三四―三六
この火は五百八十囘己が獅子の處にゆき、その足の下にてあらたに燃えたり 三七―三九
またわが先祖達と我とは、汝等の年毎の競技にあづかりて走る者がかのまちの最後の區劃わかちを最初に見る處にて生れき 四〇―四二
わが列祖の事につきては汝これを聞きて足れりとすべし、彼等の誰なりしやまた何處いづこよりこゝに來りしやはむしろ言はざるをむべとす 四三―四五
その頃マルテと洗禮者バッティスタとの間にありて武器をるをえし者は、すべて合せて、今住む者の五一なりき 四六―四八
されど今カムピ、チェルタルド、及びフェギーネとまじれる斯民このたみ、その頃はいと賤しき工匠たくみにいたるまで純なりき 四九―五一
あゝこれらの人々皆隣人となりびとにして、ガルルッツォとトレスピアーノとに汝等の境あらんかた、かれらをれてかのアグリオンの賤男しづのを 五二―
またはシーニアの賤男(公職おおやけのつとめを賣らんとはや目を鋭うする)の惡臭をしうを忍ぶにまさることいかばかりぞや ―五七
もし世の最もおとれる人々、チェーザレとまゝしからず、あたかも母のわが兒におけるごとくこまやかなりせば 五八―六〇
かの今フィレンツェびととなりて兩替しかつ商賣あきなひするひとりの人は、その祖父が物乞へる處なるシミフォンテに歸りしなるべく 六一―六三
モンテムルロは今も昔の伯等きみたちに屬し、チェルキはアーコネの寺領に殘り、ボンデルモンティは恐らくはヴァルディグレーヴェに殘れるなるべし 六四―六六
人々の入亂るゝことは、食に食を重ぬることの肉體における如くにて、常にこのまちの禍ひの始めなりき 六七―六九
めしひの牡牛は盲のこひつじよりもく倒る、ひとつつるぎいつにまさりて切味きれあぢよきことしば/\是あり 七〇―七二
汝もしルーニとウルビサーリアとがはや滅び、キウーシとシニガーリアとがまたそのあとを追ふを見ば 七三―七五
家族やからの消失するを聞くともあやしみいぶかることなからむ、まちさへ絶ゆるにいたるをおもひて 七六―七八
そも/\汝等に屬する物はみな汝等の如くつ、たゞ永く續く物にありては、汝等の生命いのちの短きによりて、この事隱るゝのみ 七九―八一
しかして月天の運行が、たえずなぎさをば、おほふてはまたあらはす如く、命運フィオレンツァをあしらふがゆゑに 八二―八四
美名よきなを時の中に失ふ貴きフィレンツェびとについてわが語るところのこともあやしと思はれざるならむ 八五―八七
我はウーギ、カテルリニ、フィリッピ、グレーチ、オルマンニ、及びアルベリキ等なだゝる市民のはや倒れかゝるを見 八八―九〇
またラ・サンネルラ及びラルカの家長いへをさ、ソルダニエーリ、アルディンギ、及びボスティーキ等のそのふるきがごとく大いなるを見たり 九一―九三
今新なるいと重き罪を積み置く――その重さにてたゞちに船を損ふならむ――かの門のほとりには 九四―九六
ラヴィニアーニ住み居たり、伯爵コンテグイード、及びその後貴きベルリンチオーネの名をげる者皆これより出づ 九七―九九
ラ・プレッサの家長いへをさは既に治むる道を知り、ガリガーイオは黄金裝こがねづくりつかつばとを既にその家にて持てり 一〇〇―一〇二
「ヴァイオ」の柱、サッケッティ、ジユオキ、フィファンティ、バルッチ、ガルリ、及びかの桝目の爲に赤らむ家族やからいづれも既に大なりき 一〇三―一〇五
カルフッチの出でし木の根もまた既に大なりき、シツィイとアルリグッチとは既にたかき座に押されたり 一〇六―一〇八
かの己が傲慢たかぶりの爲遂に滅ぶにいたれる家族やからもわが見し頃はいかなりしぞや、黄金こがねたまはそのすべての偉業をもてフィオレンツァを飾り 一〇九―一一一
汝等の寺院のくごとに相集あひつどひて身をやす人々の父もまたかくなしき 一一二―一一四
逃ぐる者をば龍となりて追ひ、齒や財布を見する者にはこひつじのごとく柔和おとなしきかの僭越のうから 一一五―一一七
既に興れり、されど素姓うぢ賤しかりしかば、ウベルティーン・ドナートはその後舅が彼をばかれらの縁者となしゝを喜ばざりき 一一八―一二〇
カーポンサッコは既にフィエソレを出でゝ市場いちばにくだり、ジウダとインファンガートとは既によき市民となりゐたり 一二一―一二三
今我信じ難くして而してまことなる事を告げむ、ラ・ペーラの家族やからちなみて名づけし門より人かの小さき城壁の内に入りし事即ち是なり 一二四―一二六
トムマーゾの祭によりて名と徳とをたえずあらはすかの大いなる領主バーロネの美しき紋所を分け用ゐる者は、いづれも 一二七―一二九
騎士の位と殊遇とを彼より受けき、たゞへりにてこれを卷くもの今日庶民と相結ぶのみ 一三〇―一三二
グアルテロッティもイムポルトゥーニも既に榮えき、もし彼等に新なる隣人となりびとなかりせば、ボルゴは今愈※(二の字点、1-2-22)よ靜なりしならむ 一三三―一三五
義憤ただしきいかりの爲に汝等を殺し汝等の樂しき生活をち、かくして汝等の嘆を生み出せる家は 一三六―一三八
その所縁ゆかり家族やからともあがめられき、あゝブオンデルモンテよ、汝が人のすゝめをれ、これとえにしを結ぶを避けしはげにいかなるわざはひぞや 一三九―一四一
汝はじめてこのまちに來るにあたり神汝をエーマに與へ給ひたりせば、多くの人々今悲しまで喜べるものを 一四二―一四四
フィオレンツァはその平和終る時、犧牲いけにへをば、橋をまもるかの缺石かけいしに獻げざるをえざりしなりき 一四五―一四七
我はフィオレンツァにこれらの家族やからと他の諸※(二の字点、1-2-22)の家族とありて、歎くべき謂れなきまでそのいと安らかなるを見たり 一四八―一五〇
またこれらの家族やからありて、その民榮えかつ正しかりければ、百合は未ださかさに竿に着けられしことなく 一五一―一五三
分離の爲紅に變ることもなかりき一五四
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   第十七曲

なほ父をして子にむかひてやぶさかならしむる者、人の己をそしるを聞き、事のまことさだかにせんためクリメーネのもとに行きしことあり 一―三
我また彼の如くなりき、而してベアトリーチェも、また先にわがために處を變へしかの聖なるともしびも、わが彼の如くなりしを知りき 四―六
是故に我淑女我に曰ふ。汝の願ひの焔を放て、そが汝の心のかたをあざやかにうけていづるばかりに 七―九
されどこは汝のことばによりてわれらの知識の増さん爲ならず、汝がかわきを告ぐるにれ、人をして汝に飮ますをえしめん爲なり。 一〇―一二
あゝ愛するわが根よ(汝いと高くせられ、あたかも人智が一の三角の内に二の鈍角のれられざるを知るごとく 一三―一五
苟且かりそめの事をその未だ在らざるさきに知るにいたる、これ時の現在いまならぬはなき一の點を視るがゆゑなり) 一六―一八
われヴィルジリオとともにありて、諸※(二の字点、1-2-22)の魂をいやす山に登り、また死の世界にくだれる間に 一九―二一
わが將來ゆくすゑの事につきて諸※(二の字点、1-2-22)のいたましきことばを聞きたり、但し命運我をつとも我よく自らとれにふるをうるを覺ゆ 二二―二四
是故にいかなるわざはひのわが身にせまるやを聞かばわが願ひ滿つべし、これあらかじめ見ゆる矢はその中る力弱ければなり。 二五―二七
さきに我に物言へる光にむかひて我かくいひ、ベアトリーチェの望むごとくわが願ひをあかしたり 二八―三〇
※(二の字点、1-2-22)の罪を取去る神のこひつじ未だ殺されざりし昔、おろかなる民をまどはしゝそのことばの如くおぼろならず 三一―三三
明らかにいひ定かに語りてかの父の愛、己が微笑ほゝゑみの中に隱れかつあらはれつゝ、答ふらく 三四―三六
それ苟且かりそめの事即ち汝等の物質のふみより外に延びざる事はみな永遠とこしへの目に映ず 三七―三九
されど映ずるが爲にこの事必ず起るにあらず、船流れを下りゆけどもそのうつる目の然らしむるにあらざるに似たり 四〇―四二
この永遠の目より汝の行末のわが目に入り來ることあたかも樂器よりうるはしき和合の音の耳に入り來る如し 四三―四五
イッポリートが無情邪險の繼母まゝはゝの爲にアテーネを去れるごとく、汝フィオレンツァを去らざるべからず 四六―四八
日毎ひごとにクリストの賣買うりかひせらるゝ處にてこれを思ひめぐらす者これを願ひかつはや企圖たくみぬ、さればまた直ちにこれを行はむ 四九―五一
しひたげられし人々に世はその常の如く罪を歸すべし、されど刑罰はこれをわかち與ふるものなるまことの爲のあかしとならむ 五二―五四
いと深く愛する物をば汝こと/″\く棄て去らむ、是即ち流罪るざいの弓の第一に射放つ矢なり 五五―五七
他人ひと麺麭パンのいかばかりにが他人ひと階子はしご昇降のぼりくだりのいかばかりつらきやを汝自らためしみむ 五八―六〇
しかして最も重く汝の肩をすものは、汝とともにこのたにに落つる邪惡庸愚の侶なるべし 六一―六三
かれら全く恩を忘れ狂ひたけりて汝にそむかむ、されどかれら(汝にあらず)はこれが爲に程なく顏を赤うせむ 六四―六六
かれらの行爲おこなひは獸の如きそのさがあかしとならむ、されば汝唯一人たゞひとりを一の黨派たらしむるかた汝にとりてかるべし 六七―六九
汝の第一の避所さけどころ第一の旅舍やどりは、聖なる鳥を梯子はしごの上におくかの大いなるロムバルディアびとなさけならむ 七〇―七二
彼汝にむかひて深き好意よしみつが故に、爲す事と求むる事とのうち他の人々の間にてはいと遲きものも汝等二人ふたりの間にては先となるべし 七三―七五
己がいさをの世にあらはるゝにいたるばかりこの強き星の力を生るゝ時に受けたる者をば汝彼のもとに見む 七六―七八
人々未だこの者を知らじ、そはその年若く諸天のこれをめぐれることたゞ九年こゝのとせのみなればなり 七九―八一
されどかのグアスコニアびとが未だ貴きアルリーゴをあざむかざるさきにその徳の光は、かねをもつかれをも心にとめざる事において現はれむ 八二―八四
その諸※(二の字点、1-2-22)はえあるわざはこの後あまねく世に知られ、その敵さへこれについて口をつぐむをえざるにいたらむ 八五―八七
汝彼と彼の恩惠めぐみとを望み待て、彼あるによりて多くの民改まり、貧富かたみに地をへむ 八八―九〇
汝また彼の事を心に記してたづさへ行くべし、されど人に言ふなかれ。かくて彼はまのあたり見る者もなほ信ずまじきことどもを告げ 九一―九三
後加ふらく。子よ、汝が聞きたる事の解説ときあかしは即ち是なり、是ぞ多からぬ年の後方うしろにかくるゝ係蹄わななる 九四―九六
されど汝の隣人となりびと等をねたむなかれ、汝の生命いのちはかれらの邪惡の罰よりも遙に遠き未來に亘るべければなり。 九七―九九
かの聖なる魂もだし、たていとを張りてわが渡したる織物によこいとを入れ終りしことをあらはせる時 一〇〇―一〇二
あたかも疑ひをいだく者が、智あり徳あり愛ある人の教へをねがふごとく、我いひけるは 一〇三―一〇五
わが父よ、我よく時の我に打撃を與へんとてわがかたに急ぎ進むを見る、しかしてこは思慮なき人にいと重く加へらるべき打撃なり 一〇六―一〇八
是故にわれ先見をもて身をかたむるをしとす、さらばたとひ最愛の地を奪はるともその他の地をばわが歌の爲に失ふことなからむ 一〇九―一一一
はてしなき苦しみの世にくだり、またわが淑女の目に擧げられて美しき巓をばわが離れしその山をめぐり 一一二―一一四
後また光より光に移りつゝ天をてわが知るをえたる事を我もし語らば、そは多くの人にとりてあぢはひ甚だからかるべし 一一五―一一七
されど我もし眞理にむかひて卑怯の友たらんには、今を昔と呼ぶ人々の間に生命いのちを失ふの恐れあり。 一一八―一二〇
かのわが寶のほゝゑむ姿を包みし光は、まづ日の光にあたる黄金こがねの鏡のごとくきらめき 一二一―一二三
かくて答ふらく。己が罪または他人ひとの罪の爲に曇れる心は、げに汝のことばはげしと感ぜむ 一二四―一二六
しかはあれ、一切の虚僞いつはりを棄てつゝ、汝の見し事をこと/″\くあらはし、かさある處は人のこれを掻くにまかせよ 一二七―一二九
汝の聲はそのあぢはじめいとはしとも、後消化こなるゝに及び極めて肝要なる滋養やしなひを殘すによりてなり 一三〇―一三二
汝の叫びの爲す所あたかもいと高き巓をいと強くうつ風の如し、是あにほまれのたゞさゝやかなるあかしならんや 一三三―一三五
是故にこれらの天にても、かの山にても、またかの苦患なやみの溪にても、汝に示されしは、名の世に知らるゝ魂のみ 一三六―一三八
そは例を引きてその根知られずあらはれず、あかしして明らかならざれば、人聞くとも心安まらず、信をこれに置かざればなり。 一三九―一四一
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   第十八曲

さいはひなるかの鏡は今たゞ己が思ひを樂しみ、我はわが思ひを味ひつゝ、甘さをもて苦しさを和げゐたりしに 一―三
我を神のみもとに導きゐたる淑女いひけるは。思ひを變へよ、一切のしひたげを輕むるものにわが近きを思ふべし。 四―六
我はわが慰藉なぐさめの慕はしき聲を聞きて身をめぐらせり、されどこの時かの聖なる目の中にいかなる愛をわが見しや、こゝにしるさじ 七―九
これ我自らわがことばたのまざるのみならず、導く者なくばかく遠く記憶にさかのぼあたはざるによりてなり 一〇―一二
かの刹那せつなのことについてわが語るを得るは是のみ、曰く、彼を視るに及びわが情は他の一切の願ひより解かると 一三―一五
ベアトリーチェを直ちに照らせる永遠とこしへの喜びその第二の姿をば美しき目に現はしてわが心をたらはしゐたりしとき 一六―一八
一の微笑ほゝゑみの光をもて我をしたがへつゝ淑女曰ふ。身をめぐらしてしかして聽け、わが目の中にのみ天堂あるにあらざればなり。 一九―二一
情もし魂を悉く占むるばかりに強ければ、目に現はるゝことまゝ世にためしあり 二二―二四
かくの如く、我はわがふりかへりて見し聖なる光の輝の中に、なほしばし我と語るの意あるを認めき 二五―二七
このものいふ。頂によりて生き、常に實を結び、たえて葉を失はぬ木のこの第五座に 二八―三〇
福なる諸※(二の字点、1-2-22)の靈あり、かれらは天に來らざりしさき、いかなるムーザをもますばかり世に名聲きこえ高かりき 三一―三三
是故にかの十字架のけたを見よ、我今名をいはん、さらばその者あたかも雲の中にてそのき火のす如きわざをかしこに爲すべし。 三四―三六
ヨスエの名いはるゝや、我は忽ち一の光の十字架を傳ひて動くを見たり、げにいふなすといづれの先なりしやを知らず 三七―三九
尊きマッカベオの名とともに、我はいま一の光の※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐりつゝ進み出づるを見たり、しかして喜悦よろこびはかの獨樂こまの糸なりき 四〇―四二
またカルロ・マーニョとオルランドとの呼ばれし時にも、我は心をとめて他の二の光を見、宛然さながら己が飛立つ鷹に目の伴ふ如くなりき 四三―四五
後またグイリエルモ、レノアルド、公爵ドウーカゴッティフレーディ、及びルベルト・グイスカールドわが目を引きてかの十字架を傳はしむ 四六―四八
かくて我に物言へる魂、他の光の間に移りまじりつゝ、天の歌人うたびとの中にてもわざのいたくすぐるゝことを我に示せり 四九―五一
われ身をめぐらして右に向ひ、ベアトリーチェによりて、そのことばまたは動作ふるまひあらはるゝわが務を知らんとせしに 五二―五四
姿平常つねにまさり最終をはりの時にもまさるばかり、その目清くたのしげなりき 五五―五七
また善を行ふにあたり心に感ずる喜びのいよ/\大いなるによりて、人己が徳の進むを日毎に自ら知るごとく 五八―六〇
我はかのしき聖業みわざのいよ/\美しくなるを見て、天とともにわが※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐる輪のそのアルコを増しゝを知れり 六一―六三
しかして色白き女が、その顏より羞恥はぢらひの荷をおろせば、たゞつかに變るごとく 六四―六六
われ回顧ふりかへりしときわが見るもの變りゐたり、こは己の内に我をれし温和なる第六の星の白さの爲なりき 六七―六九
我見しに、かのジョーヴェの燈火ともしびの中には愛のきらめきのあるありて、われらの言語ことばをわが目に現はせり 七〇―七二
しかしてたとへば岸より立ちさながら己が食物くひものを見しを祝ふに似たる群鳥むらどりの、相連あひつらなりて忽ち圓を作りまた忽ちほかの形を作る如く 七三―七五
※(二の字点、1-2-22)の聖者はかの諸※(二の字点、1-2-22)の光の中にて飛びつゝ歌ひ、相寄りて忽ちデイ忽ち忽ちエルレの形を作れり 七六―七八
かれらはまづ歌ひつゝ己がふしに合せて動き、さてこれらの文字の一となるや、しばらく止まりてもだしゝなりき 七九―八一
あゝ女神めがみペガーゼアよ(汝才に榮光を與へてその生命いのちを長うす、才が汝の助けによりて諸邑諸國に及ぼす所またかくの如し) 八二―八四
願はくは汝の光をもて我を照らし我をして彼等のかたちをそのわが心にある如く示すをえしめよ、願はくは汝の力をこれらの短き句に現はせ 八五―八七
さてかれらは七の五倍の母字子字となりて顯はれ、我はまた一部一部を、その言顯はしゝ次第に從ひて、心にめたり 八八―九〇
Diligiteディーリギテ iustitiamイウスティティアム 是全畫面の始めのことばなる動詞と名詞にてその終りの語は Quiiudicatisクイーイウディカーチス terramテルラム なりき 九一―九三
かくて第五のことばの中のエムメにいたり、彼等かく並べるまゝ止まりたれば、かしこにては木星宛然さながら金にて飾れる銀と見えたり 九四―九六
我またMの頂の處に他の諸※(二の字点、1-2-22)の光降り、歌ひつゝ――己のもとに彼等を導く善の事ならむ――そこに靜まるを見たり 九七―九九
かくてあたかも燃えたる薪を打てば數しれぬ火花出づる(愚者これによりてうらなひをなす習ひあり)ごとく 一〇〇―一〇二
かしこより千餘の光出で、かれらを燃す日輪の定むるところに從ひて、或者高く或者少しく昇ると見えたり 一〇三―一〇五
しかして各その處にしづまりしとき、我はかの飾れる火が一羽の鷲のかしらくびとを表はすを見たり 一〇六―一〇八
そも/\かしこに畫く者はこれを導く者あるにあらず、彼自ら導く、かれよりぞ巣を作るのもとなる力いづるなる 一〇九―一一一
さて他の聖者のむれ即ち先にエムメにて百合となりて悦ぶ如く見えし者は、少しく動きつゝかの印象かたし終りたり 一一二―一一四
あゝ麗しき星よ、世の正義が汝の飾る天の力にもとづくことを我に明らかならしめしはいかなる珠いかばかり數多き珠ぞや 一一五―一一七
是故に我は汝のうごき汝の力の汝なる聖意みこゝろに祈る、汝の光を害ふ烟の出る處をみそなはし 一一八―一二〇
血と殉教とをもて築きあげし神殿みやの内に賣買うりかひの行はるゝためいま一たび聖怒みいかりを起し給へと 一二一―一二三
あゝわが視る天の軍人いくさびと等よ、惡例あしきためしに傚ひて迷はざるなき地上の人々のために祈れ 一二四―一二六
昔はつるぎをもて戰鬪いくさをする習ひなりしに、今はかの慈悲深き父が誰にもいなみ給はぬ麺麭パンをばこゝかしこより奪ひて戰ふ 一二七―一二九
されど汝、たゞ消さんとてしるす者よ、汝が荒す葡萄園ぶだうばたけの爲に死にたるピエートロとパオロとは今も生くることを思へ 一三〇―一三二
うべ汝は曰はむ、たゞ獨りにて住むを好み、かつ一踊ひとをどりのため教へに殉ずるにいたれる者に我專らわが願ひを据ゑたれば 一三三―一三五
我は漁夫をもポロをも知らずと 一三六―一三八
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   第十九曲

うるはしき樂しみのために悦ぶ魂等が相結びて造りなしゝかの美しきかたちは、翼を開きてわが前に現はる 一―三
かれらはいづれも小さき紅玉あかだまが日輪の燃えて輝く光を受けつゝわが目にこれを反映てりかへらしむる如く見えたり 四―六
しかしてわが今述べんとするところは、聲これを傳へ、墨これをしるしゝことなく、想像もこれをいだきしことなし 七―九
そは我見かつ聞きしに、くちばし物言ひ、その聲の中にはわれらわれらのとのこゝろなるわれわがと響きたればなり 一〇―一二
いふ。正しく慈悲深かりしため、こゝにはわれ今高くせられて、願ひに負けざる榮光をうけ 一三―一五
また地には、かしこの惡しき人々さへむるばかりの――かれらむれどかゞみならはず――わが記念かたみを遺しぬ。 一六―一八
たとへば數多き熾火おきびよりたゞ一の熱のいづるを感ずる如く、數多き愛の造れるかのかたちよりたゞ一の響きいでたり 一九―二一
是においてか我直に。あゝ永遠とこしへの喜びの不斷の花よ、汝等は己がすべてのかをりをたゞ一と我に思はしむ 二二―二四
請ふ語りてわが大いなる斷食だんじきを破れ、地上に食物くひものをえざりしため我久しくゑゐたればなり 二五―二七
我よく是を知る、神の正義天上の他の王國をその鏡となさば、汝等の王國も亦まくへだてゝこれを視じ 二八―三〇
汝等はわが聽かんと思ふ心のいかばかり深きやを知る、また何の疑ひのかく長く我を饑ゑしめしやを知る。 三一―三三
鷹その被物かぶりものらるれば、頭を動かし翼をち、願ひといきほひとを示すごとく 三四―三六
神の恩惠めぐみの讚美にて編めるこの旗章はたじるしは、天に樂しむ者のみ知れる歌をうたひてその悦びをあらはせり 三七―三九
かくていふ。宇宙のはて圓規コムパスをめぐらし、隱るゝ物と顯るゝ物とをあまねくその内にわかちし者は 四〇―四二
己がことばの限りなくまさらざるにいたるほど、その力をば全宇宙に印する能はざりき 四三―四五
しかしてよろづ被造物つくられしものをさなりしかの第一の不遜者ふそんじやが光を待たざるによりてまざる先におとし事よくこれをあかしす 四六―四八
されば彼に劣る一切のさがが、己をもて己を量る無窮の善を受入れんにはうつはあまりに小さき事もまたこれによりて明らかならむ 四九―五一
是故に、萬物の中に滿つる聖意みこゝろの光のたゞ一線ひとすぢならざるをえざる我等の視力は 五二―五四
そのさがとして、己が源を己に見ゆるものよりも遙かかなたに認めざるほど強きにいたらじ 五五―五七
かゝれば汝等の世の享くる視力が無窮の正義に入りゆくさまは、目の海におけるごとし 五八―六〇
目はみぎはより底を見れども沖にてはこれを見じ、されどかしこに底なきにあらず、深きが爲に隱るゝのみ 六一―六三
くもりしらぬ蒼空あをぞらより來るものゝ外光なし、いな闇あり、即ち肉の陰またはその毒なり 六四―六六
生くる正義を汝にかくしこれについてかくしげく汝に問をおこさしめたる隱所かくれどころは、今よく汝の前に開かる 六七―六九
いひけらく、人インドの岸に生れ(かしこにはクリストの事を説く者なく、讀む者も書く者もなし) 七〇―七二
人間の理性の導くかぎり、その思ふ所すところみな善く言行ことばおこなひに罪なけれど 七三―七五
たゞ洗禮バッテスモを受けず信仰に入らずしてぬるあらんに、かゝる人を罰する正義いづこにありや、彼信ぜざるもそのとがはたいづこにありやと 七六―七八
※(二の字点、1-2-22)そも/\汝は何者なれば一布指スパンナの先をも見る能はずして席に着き、千ミーリアのかなたをさばかんと欲するや 七九―八一
聖書汝等の上にあらずば、げに我とともに事を究めんとつとむる者にいたく疑ふの事由いはれはあらむ 八二―八四
あゝ地上の動物よ、おろかなる心よ、それおのづから善なる第一の意志は、己即ち至上の善より未だ離れしことあらじ 八五―八七
凡て物の正しきはこれと和するの如何による、造られし善の中これを己が許に引く物一だになし、この善光を放つがゆゑにかの善生ず。 八八―九〇
餌を雛に與へ終りてこふづる巣の上をめぐり、雛は餌をえてその母を視るごとく 九一―九三
いと多きはからひうながされてかの福なるかたち翼を動かし、また我はわが目を擧げたり 九四―九六
さてめぐりつゝ歌ひ、かつ曰ふ。汝のわが歌をせざる如く、汝等人間は永遠とこしへ審判さばきをげせじ。 九七―九九
ローマびとに世界のあがめをうけしめし徴號しるしをばなほ保ちつゝ、聖靈の光る火しづまりて後 一〇〇―一〇二
かの者またいふ。クリストが木にけられ給ひし時より前にも後にも彼を信ぜざりし人の、この國に登り來れることなし 一〇三―一〇五
されど見よ、クリスト、クリストとよばゝる人にて、審判さばきのときには、クリストを知らざる人よりも遠く彼を離るべき者多し 一〇六―一〇八
かゝる基督教徒クリスティアーニをばエチオピアびと罪に定めむ、こは人二のむれにわかたれ、彼永遠とこしへに富み此貧しからん時なり 一〇九―一一一
汝等の王達の汚辱をすべてしるしゝふみの開かるゝを見る時、ペルシアびと彼等に何をかいふをえざらむ 一一二―一一四
そこにはアルベルトの行爲おこなひの中、ほどなく筆を運ばしむる事見ゆべし、その行爲によりてプラーガの王國の荒らさるゝこと即ち是なり 一一五―一一七
そこにはゐのしゝかれて死すべき者が、貨幣かね模擬まがへを造りつゝ、センナのほとりもたらすところのうれへ見ゆべし 一一八―一二〇
そこにはかのスコットランドびととイギリス人とを狂はし、そのいづれをも己が境の内に止まる能はざらしむる傲慢たかぶりかわきを起す)見ゆべし 一二一―一二三
スパニアの王とボエムメの王(この人かつて徳を知らずまた求めしこともなし)との淫樂いんらく懦弱だじやくの生活と見ゆべし 一二四―一二六
イエルサレムメの跛者あしなへの善は一のにてしるされ、一のエムメはその惡の記號しるしとなりて見ゆべし 一二七―一二九
アンキーゼが長生ながきいのちへし處なる火の島を治むる者の強慾と怯懦けふだと見ゆべし 一三〇―一三二
またかれのいみじき小人なるをさとらせんため、その記録には略字を用ゐて、すこしの場所に多くの事を言現はさむ 一三三―一三五
またいとひいづる家系いへがらと二の冠とを辱めたるその叔父と兄弟との惡しきおこなひは何人にも明らかなるべし 一三六―一三八
またポルトガルロの王とノルヴェジアの王とはかのふみによりて知らるべし、ヴェネージアの貨幣かねを見て禍ひを招けるラシアの王また然り 一三九―一四一
あゝ重ねて虐政を忍ばずばウンガリアは福なる哉、取卷く山をかためとなさばナヴァルラは福なる哉 一四二―一四四
またこの事の契約として、ニコシアとファマゴスタとが今既にその獸――他の獸のかたへを去らざる――の爲に 一四五―一四七
嘆き叫ぶを人皆信ぜよ。
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   第二十曲

全世界を照らすもの、わが半球より、遠くくだりて、晝いたるところに盡くれば 一―三
さきにはこれにのみもやさるゝ天、忽ち多くの光――一の光をうけて輝く――によりて再び己を現はすにいたる 四―六
かゝる天の現象すがたなりき、世界とその導者達との徴號しるしの尊き嘴もだしゝ時、わが心に浮べるものは 七―九
そはかの諸※(二の字点、1-2-22)の生くる光は、みないよ/\強く光りつゝ、わが記憶より逃げやすく消え易き歌をうたひいでたればなり 一〇―一二
あゝ微笑ほゝゑみの衣をまとふうるはしき愛よ、聖なる思ひのいきのみ通へるかの諸※(二の字点、1-2-22)の笛の中に汝はいかにあつく見えしよ 一三―一五
第六の光を飾る諸※(二の字点、1-2-22)の貴きかゞやける珠、そのたへなる天使の歌をちしとき 一六―一八
我は清らかに石より石と傳ひ下りて己が源のゆたかなるを示す流れのとある低語さゝやきを聞くとおぼえき 一九―二一
しかしてたとへば琵琶びわの頸にて、おとその調しらべ篳篥ひちりきの孔にて、入來る風またこれを得るごとく 二二―二四
かの鷲の低語さゝやきは、待つ間もあらず頸を傳ひて――そがうつろなりしごとく――のぼり來れり 二五―二七
さてかしこに聲となり、かしこよりその嘴を過ぎ言葉のかたちを成して出づ、この言葉こそわがこれをしるしゝ心の待ちゐたるものなれ 二八―三〇
我に曰ふ。わが身の一部、即ち物を見、かつ地上の鷲にありてはよく日輪に堪ふるところを今汝心して視るべし 三一―三三
そはわが用ゐて形をとゝなふ諸※(二の字点、1-2-22)の火のうち、目となりてわがかうべが輝く者、かれらの凡ての位のうちの第一を占むればなり 三四―三六
眞中まなかに光りて瞳となるは、聖靈の歌人うたびとまちより邑にかのはこを移しゝ者なり 三七―三九
今彼は、己が歌の徳――己が思ひよりこの歌のいでたるかぎり――をば、これにふさはしきむくいによりて知る 四〇―四二
輪を造りて我眉となる五の火の中、わがくちばしにいと近きは、寡婦やもめをばその子の事にて慰めし者なり 四三―四五
今彼は、クリストに從はざることのいかに貴き價を拂ふにいたるやを知る、そは彼このうるはしき世とそのうらとを親しく味ひたればなり 四六―四八
またわがいへる圓のうちの弓形ゆみがたのぼる處にて彼に續くは、まことくひによりて死を延べし者なり 四九―五一
今彼は、ふさはしき祈り下界にて、今日けふの事を明日あすになすとも、永遠とこしへ審判さばきに變りなきを知る 五二―五四
次なる者は、牧者に讓らんとて(その志善かりしかど結べるしかりき)律法おきて及び我とともに己をギリシアのものとなせり 五五―五七
今彼は、その善行より出でたる惡の、たとひ世を亡ぼすとも、己をそこなはざるを知る 五八―六〇
弓形くだる處に見ゆるはグリエルモといへる者なり、カルロとフェデリーゴと在るが爲に嘆く國彼なきが爲に泣く 六一―六三
今彼は、天のいかばかり正しき王を慕ふやを知り、今もこれをその輝く姿に表はす 六四―六六
トロイアびとリフェオがこの輪の聖なる光の中の第五なるを、誤り多き下界にては誰か信ぜむ 六七―六九
今彼は、神の恩惠めぐみについて世のさとりえざる多くの事を知る、その目も底を認めざれども。 七〇―七二
まづ歌ひつゝ空に漂ふ可憐いとほし雲雀ひばりが、やがて自ら最後をはりふしのうるはしさにで、心足りてもだすごとく 七三―七五
永遠とこしへの悦び(これが願ふところに從ひ萬物皆そのあるごとくなるにいたる)の印せるかたちも心足らへる如く見えき 七六―七八
しかしてかしこにては我のわが疑ひにおけるあたかも※(「王+黎」、第3水準1-88-35)はりのそのおほふ色におけるに似たりしかど、この疑ひはもだして時を待つに堪へず 七九―八一
己がおもさの力をもて、これらの事は何ぞやといふことばをばわが口より押出したり、またこれと共に我は大いなる喜びのひらめくを見き 八二―八四
かくてかのたふと徴號しるし、いよ/\つよく目を燃やしつゝ、我をながく驚異あやしみのうちにとめおかじとて、答ふらく 八五―八七
我見るに、汝がこれらの事を信ずるは、わがこれを言ふが爲にてその所以を知れるに非ず、されば事信ぜられて猶隱る 八八―九〇
汝はあたかも物を名によりてよく會得ゑとくすれども、その本質にいたりては人これを現はさゞれば知る能はざる者の如し 九一―九三
それ天の王國は、熱き愛及び生くる望みに侵さる、これらのもの聖意みこゝろに勝つによりてなり 九四―九六
されどそのさま人々を從ふる如きに非ず、そがこれに勝つはこれ自らたれんと思へばなり、しかして勝れつゝ己が仁慈いつくしみによりて勝つ 九七―九九
さて眉の中なる第一と第五の生命いのちが天使の國に描かるゝを見て汝これをあやしめども 一〇〇―一〇二
かれらはその肉體を出るに當り汝の思ふ如く異教徒なりしに非ず、基督教徒クリスティアーニにて、彼は痛むべき足此は痛める足を固く信じき 一〇三―一〇五
即ちその一者ひとりは、善意よきおもひもどる者なき處なる地獄より骨に歸れり、是※(二の字点、1-2-22)そも/\生くる望みのむくいにて 一〇六―一〇八
この生くる望みこそ、彼の甦りその思ひの移るをうるにいたらんため神に捧げまつれる祈りに力をえしめたりしなれ 一〇九―一一一
くだんの尊き魂は肉に歸りて(たゞ少時しばしこれに宿りき)、己を助くるをうるものを信じ 一一二―一一四
信じつゝまことの愛の火に燃えしかば、第二の死に臨みては、この樂しみをくるにふさはしくなりゐたり 一一五―一一七
また一者ひとりは、被造物つくられしもの未だかつて目を第一の波に及ぼしゝことなきまでいと深き泉より流れ出る恩惠めぐみにより 一一八―一二〇
その愛を世にてこと/″\く正義に向けたり、是故に恩惠めぐみ恩惠に加はり、神彼の目を開きて我等の未來のあがなひを見しめぬ 一二一―一二三
是においてか彼これを信じ、其後異教の惡臭をしうを忍ばず、かつその事にて多くのもとれる人々を責めたり 一二四―一二六
汝がかの右の輪のほとりに見しみたりの淑女は、洗禮バッテスモの事ありし時より一千年餘の先に當りて彼の洗禮となりたりき 一二七―一二九
あゝ永遠とこしへさだめよ、第一の原因もとを見きはむるをえざる目に汝の根の遠ざかることいかばかりぞや 一三〇―一三二
また汝等人間よ愼みて事を斷ぜよ、われら神を見る者といへどもなほ凡ての選ばれし者を知らじ 一三三―一三五
而して我等かく缺處かくるところあるを悦ぶ、我等のさいはひは神の思召おぼしめす事をわれらもまた思ふといふその幸によりて全うせらるればなり。 一三六―一三八
かくかの神のかたち、わが近眼ちかめをいやさんとて、われにこゝちよき藥を與へき 一三九―一四一
しかしてたとへば巧みに琵琶をかなづる者が、いと震動ゆるぎを、巧みに歌ふ者とあはせて、歌に興を添ふるごとく 一四二―一四四
(憶ひ出づれば)我は鷲の語る間、二のたふとき光が言葉につれて焔を動かし、そのさまさうの目の 一四五―一四七
ひとしくまたゝくに似たるを見たり
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   第二十一曲

はやわが目は再びわが淑女の顏にそゝがれ、目とともにこゝろもこれに注がれて他の一切の思ひを離れき 一―三
この時淑女ほゝゑまずして我に曰ふ。我もしほゝゑまば、汝はあたかも灰となりしときのセーメレの如くになるべし 四―六
これ永遠とこしへ宮殿みやきざはしを傳ひていよ/\高く登るに從ひいよ/\燃ゆる(汝の見し如く)わが美しさは 七―九
やはらげらるゝにあらざればいと強くかゞやくが故に、人たる汝の力その光に當りてさながら雷に碎かるゝ小枝の如くなるによるなり 一〇―一二
われらは擧げられて第七の輝の中にあり、こは燃ゆる獅子の胸の下にてその力とまじりつゝ今下方を照らすもの 一三―一五
こゝろを雙の目の行方ゆくへにとめてかれらを鏡とし、いまこの鏡に見ゆるかたちをこれにうつせ。 一六―一八
我わが思ひを變へしそのとき、かのたふとき姿のうちにわが目いかなる喜びをえしや、そを知る者は 一九―二一
彼方かなた此方こなたとをはかくらべてしかして知らむ、わが天上の案内者しるべの命に從ふことのいかばかり我に樂しかりしやを 二二―二四
世界のまはりをめぐりつゝその名立なだゝる導者の――一切の邪惡かれの治下みよに滅びにき――名をふ水晶の中に 二五―二七
我は一の樹梯はしだてを見たり、こは日の光に照らさるゝ黄金こがねの色にて、わが目の及ぶあたはざるほど高くそびえき 二八―三〇
我またきだを傳ひて諸※(二の字点、1-2-22)の光の降るを見たり、そのかずいと多く、我をして天に現はるゝ一切の光かしこより注がると思はしむ 三一―三三
自然のならひとて、晝の始め、冷やかなる羽をあたゝめんため、からすむらがりて飛び 三四―三六
後或者はきてかへらず、或者はさきにいでたちし處にむかひ、或者は殘りゐてめぐる 三七―三九
むらがり降れるかのきらめきも、とあるきだに着くに及びて、またかくの如く爲すと見えたり 四〇―四二
しかして我等にいと近く止まれる光ことあざやかになりければ、われ心の中にいふ、我よく汝の我に示す愛を見ると 四三―四五
されど何時いつ如何いかに言ひまたはもだすべきやを我に教ふる淑女身を動かすことをせざりき、是においてかわが願ひにそむき我は問はざるをよしとせり 四六―四八
是時淑女、萬物を見る者に照らして、わがもだ所以ゆゑんを見、汝の熱き願ひを解くべしと我にいふ 四九―五一
我即ち曰ひけるは。わが功徳は我をして汝の答を得しむるに足らず、されど問ふことを我に許す淑女の故によりて請ふ 五二―五四
己が悦びの中にかくるゝ尊き生命いのちよ、汝いかなればかくわが身に近づけるやを我に知らせよ 五五―五七
また天堂のたへなる調しらべが、下なる諸※(二の字点、1-2-22)の天にてはいとうや/\しく響くなるに、この天にてはいかなればもだすやを告げよ。 五八―六〇
答へて我に曰ふ。汝の耳は目の如く人間のものなるがゆゑに、ベアトリーチェの微笑ほゝゑまざると同じ理によりてこゝに歌なし 六一―六三
聖なる梯子はしごきだを傳ひてわがかく下れるは、たゞことばとわがまとふ光とをもて汝を喜ばしめんためなり 六四―六六
またわがことに早かりしも愛のまさる爲ならじ、汝に焔の現はす如く、まさるかさなくも等しき愛かしこに高く燃ゆればなり 六七―六九
たゞ我等をば宇宙を治め給ふ聖旨みむねしもべとなす尊き愛ぞ、汝の視るごとく、こゝにてくじわかつなる。 七〇―七二
ふ。聖なる燈火ともしびよ、我よく知る、この王宮にては、永遠とこしへの攝理に從ふためには自由の愛にて足ることを 七三―七五
されど何故に汝のともき汝ひとりあらかじめ選ばれてこのつとめを爲すにいたれるや、これわが悟りがたしとする所なり。 七六―七八
わが未だ最後をはりことばをいはざるさきに、かの光は己が眞中まなかを中心として碾石ひきうすの如くめぐりき 七九―八一
かくして後そのうちの愛答ふらく。我を包む光を貫いて神の光わが上にとゞまり 八二―八四
その力わが視力みるちから結合むすびあひつゝ我をはるかに我より高うし、我をしてその出る處なる至高者いとたかきものを見るをえしむ 八五―八七
この見ることこそ我を輝かす悦びのもとなれ、そはわが目のあざやかなるに從ひ、焔も燦かなればなり 八八―九〇
されどいと強く天にかゞやく魂も、目をいとかたく神にとむるセラフィーノも、汝の願ひを滿すをえじ 九一―九三
これ汝の尋ぬる事は永遠とこしへさだめの淵深きところにありて、凡ての造られし目を離るゝによる 九四―九六
汝歸らばこれを人の世に傳へ、かゝる目的めあてにむかひてあへてまた足を運ぶことなからしむべし 九七―九九
こゝにては光る心も地にてはけぶる、是故に思へ、天にれられてさへその爲すをえざる事をいかで下界に爲しえんや。 一〇〇―一〇二
これらの言葉我をひかへしめたれば、我はこの問を棄て、自らひかへつゝたゞへりくだりてその誰なりしやを問へり 一〇三―一〇五
イタリアの二の岸の間、汝の郷土ふるさとよりいと遠くはあらざる處にいかづちの音遙に下に聞ゆるばかり高く聳ゆる岩ありて 一〇六―一〇八
一の峰を成す、この峰カートリアと呼ばれ、これが下にはたゞ禮拜らいはいの爲に用ゐる習なりし一のいほりきよめらる。 一〇九―一一一
かの者三度みたび我に語りてまづかくいひ、後また續いていひけるは。かしこにて我ひたすら神につかへ 一一二―一一四
默想に心をたらはしつゝ、橄欖かんらんしる食物くひもののみにて、輕く暑さ寒さを過せり 一一五―一一七
昔はかの僧院、これらの天のため、をさはに結びしに、今はいと空しくなりぬ、かゝればそのさま必ず直にあらはれん 一一八―一二〇
我はかしこにてピエートロ・ダミアーノといひ、アドリアティコの岸なるわれらの淑女の家にてはピエートロ・ペッカトルといへり 一二一―一二三
餘命幾何いくばくもなかりしころ、ひてはれて我かの帽を受く、こは傳へらるゝごとにすぐれる惡に移る物 一二四―一二六
チエファスの來るや、聖靈の大いなるうつはの來るや、身せ足にくつなく、いかなる宿やどかてをもくらへり 一二七―一二九
しかるに近代ちかきよの牧者等は、己を左右より支ふる者と導く者と(身いと重ければなり)裳裾もすそをかゝぐる者とを求む 一三〇―一三二
かれらまたその表衣うはぎにて乘馬じようめおほふ、これ一枚の皮の下にて二匹の獸の出るなり、あゝ何の忍耐ぞ、こらへてこゝにいたるとは。 一三三―一三五
かくいへる時、我は多くの焔がきだより段にくだりてめぐり、かつめぐるごとにいよ/\美しくなるを見き 一三六―一三八
かくてかれらはこの焔のほとりに來り止まりて叫び、世にたぐひなきまで強き響きを起せり 一三九―一四一
されど我はそのいかづちに堪へずして、聲の何たるをせざりき 一四二―一四四
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   第二十二曲

驚異おどろきのあまり、我は身をわが導者に向はしむ、そのさま事あるごとに己が第一の恃處たのみどころに馳せ歸る稚兒をさなごの如くなりき 一―三
この時淑女、あたかもあをざめていきはずむ子を、その心をば常にはげます聲をもて、たゞちになだむる母のごとく 四―六
我に曰ふ。汝は汝が天にあるを知らざるや、天は凡て聖にして、こゝに爲さるゝ事、皆熱き愛より出るを知らざるや 七―九
かの叫びさへかくまで汝を動かせるに、歌とわが笑とは、汝をいかに變らしめけむ、今汝これをはかり知りうべし 一〇―一二
もしかの叫びの祈る所をさとりたりせば、汝はこれにより、汝の死なざるさきに見るべき刑罰を、既に知りたりしものを 一三―一五
そも/\天上のつるぎたるや、斬るに當りていそがずおくれじ、たゞ望みつゝまたは恐れつゝそを待つ者にかゝる事ありと見ゆるのみ 一六―一八
されど汝今身をほかの者のかたにむくべし、わがいふごとく目をめぐらさば、多くの名高き靈を見るべければなり。 一九―二一
彼の好むごとく我は目を向け、百の小さき球のむれゐてその光をかはしつゝいよ/\美しくなれるを見たり 二二―二四
我はさながら過ぐるを恐れて願ひの刺戟をうちに抑へあへて問はざる人のごとく立ちゐたるに 二五―二七
かの眞珠のうちのいと大いにしていと強く光るもの、己が事につきわが願ひを滿みたさんとて進み出でたり 二八―三〇
かくて聲そのなかにて曰ふ。汝もしわれらのうちに燃ゆる愛をわがごとく見ば、汝の思ひを言現はさむ 三一―三三
されど汝が、待つことにより、たふとき目的めあておくれざるため、我は汝のかく愼しみて敢ていはざるその思ひに答ふべし 三四―三六
坂にカッシーノある山にては、往昔そのかみ巓に登りゆく迷へるゆがめる人多かりき 三七―三九
しかして我等をいと高うする眞理をば地にひとしゝ者の名を、はじめてかの山に傳へしものは即ち我なり 四〇―四二
またいと深き恩惠めぐみわが上に輝きたれば、我そのまはりの村里むらざとをして、世界を惑はしゝ不淨の禮拜らいはいのがれしむ 四三―四五
さてこれらの火は皆默想に心を寄せ、聖なる花と實とを生ずる熱によりてもやされし人々なりき 四六―四八
こゝにマッカリオあり、こゝにロモアルドあり、またこゝに足を僧院の内に止めて道心堅固けんごなりしわが兄弟達あり。 四九―五一
我彼に。我と語りて汝が示す所の愛と汝等のすべての焔にわが見て心をとむるき姿とは 五二―五四
わが信頼の念を伸べ、そのさま日の光が薔薇をべてその力のかぎり開くにいたらしむるごとし 五五―五七
是故に父よ汝に請ふ、われ大いなる恩惠めぐみを受けて汝のかたちあらはに見るをうべきやいなや、さだかに我に知らしめよ。 五八―六〇
是においてか彼。兄弟よ、汝の尊き願ひは最後の球にて滿みたさるべし、こはわが願ひも他の凡ての願ひも皆滿みたさるゝところなり 六一―六三
かしこにてはが願ひも備はり、熟し、まどかなり、かの球においてのみこれが各部はその常にありしところにとゞまる 六四―六六
そはこれ場所を占むるにあらず、軸をつにあらざればなり、われらの梯子はしごこれに達し、かく汝の目より消ゆ 六七―六九
族長ヤコブその頂の高くかしこに到るを見たり、こはこれがいと多くの天使を載せつゝ彼に現はれし時なりき 七〇―七二
然るに今はこれに登らんとて地より足を離す者なし、わがおきては紙をそこなはんがために殘るのみ 七三―七五
僧坊たりしむかしの壁は巣窟となりぬ、法衣ころもはあしきこなの滿ちたる袋なり 七六―七八
げに不當の高利といふとも、神の聖旨みむねさからふこと、僧侶の心をかく狂はしむるには及ばじ 七九―八一
そは寺院のたくはへは皆神によりて求むる民の物にて、親戚またはさらにいやしき人々の物ならざればなり 八二―八四
そも/\人間の肉はいと弱し、されば世にては、善く始められし事も、かし生出おひいづるより實を結ぶにいたるまでだに續かじ 八五―八七
ピエルは金銀なきに、我は祈りと斷食だんじきとをもて、わざを始め、フランチェスコは身をひくうしてそのつどひを起せり 八八―九〇
汝これらのものゝ濫觴おこりをたづね後またその迷ひ入りたる處をさぐらば、白の黒くなれるを見む 九一―九三
しかはあれ、神の聖旨みむねによりてヨルダンの退しざり海の逃ぐるは、救ひをこゝに見るよりもなほあやしと見えしなるべし。 九四―九六
かく我に曰ひて後、かれその侶に加はれり、侶は互に寄り近づけり、しかして全衆あたかも旋風の如く上に昇れり 九七―九九
うるはしき淑女はたゞ一の表示しるしをもて我をうながし彼等につゞいてかの梯子はしごを上らしむ、その力かくわが自然に勝ちたりき 一〇〇―一〇二
また人の昇降のぼりくだりするに當りて自然に從ふ處なるこの下界にては、動くこといかに速かなりともわが翼にたぐふにらじ 一〇三―一〇五
讀者よ(願はくはかの聖なる凱旋にわが歸るをえんことを、我これを求めて屡※(二の字点、1-2-22)わが罪に泣き、わが胸を打つ) 一〇六―一〇八
わがかの金牛に續く天宮を見てその内に入りしごとく早くは汝あに指を火に入れて引かんや 一〇九―一一一
あゝ榮光の星よ、大いなる力滿つる光よ、我は汝等よりわがすべての才(そはいかなるものなりとも)の出づるを認む 一一二―一一四
我はじめてトスカーナの空氣を吸ひし時、一切の滅ぶる生命いのちの父なる者、汝等と共に出で汝等とともに隱れにき 一一五―一一七
後ゆたかなる恩惠めぐみをうけ、汝等をめぐらす貴き天に入りし時、我ははからずも汝等の處に着けり 一一八―一二〇
汝等にこそわが魂は、これを己がもとに引くその難所をばゆるにふさはしき力をえんとて、今うや/\くしく嘆願なげくなれ 一二一―一二三
ベアトリーチェ曰ふ。汝は汝の目をあきらかにし鋭くせざるをえざるほど、終極いやはての救ひに近づけり 一二四―一二六
されば汝が未だこれに入らざるさきに、うつむき望みて、いかばかりの世界をばわがすでに汝の足の下におきしやを見よ 一二七―一二九
これ凱旋の群衆ぐんじゆう喜ばしくこのまろき天をわけ來るとき、樂しみきはまる汝の心のこれに現はれんためぞかし。 一三〇―一三二
われ目を戻して七の天球をこと/″\く望み、さてわが球のさまを見てその劣れる姿のために微笑ほゝゑめり 一三三―一三五
しかしてこれをばいと賤しと判ずる心を我はいと善しと認む、思ひを他の物にむくる人はげになほしといふをえむ 一三六―一三八
我はラートナのむすめがかの影(さきに我をして彼にあり密ありと思はしめたる原因もとなりし)なくて燃ゆるを見たり 一三九―一四一
イペリオネよ、こゝにてわが目は汝の子の姿にへき、我またマイアとディオネとが彼の周邊まはりにかつ彼に近く動くを見たり 一四二―一四四
次に父と子との間にてジョーヴェのやはらぐるを望み、かれらがその處をば變ふる次第を明らかにしき 一四五―一四七
しかしてすべなゝつの星は、その大いさとそのはやさとその住處すまひの隔たるさまとを我に示せり 一四八―一五〇
われ不朽の雙兒とともにめぐれる間に、人をしていとあらくならしむる小さき麥場うちば、山より河口かはぐちにいたるまでこと/″\く我に現はれき 一五一―一五三
かくて後我は目をかの美しき目にむかはしむ 一五四―一五六
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   第二十三曲

物見えわかぬよるあひだ、なつかしき木の葉のうちにて、己がいつくしむ雛とともに巣に休みゐたる鳥が 一―三
かれらの慕はしき姿を見、かつかれらにくらはしむる物をえん――これがためには大いなる勞苦も樂し――とて 四―六
時ならざるに梢にいたり、曉の生るゝをのみうちまもりつゝ、燃ゆる思ひをもて日を待つごとく 七―九
わが淑女は、かうべを擧げ心をとめて立ち、日脚ひあしの最も遲しとみゆるところにむかへり 一〇―一二
されば彼の待ちあこがるゝを見、我はあたかも願ひに物を求めつゝ希望のぞみに心をたらはす人の如くになれり 一三―一五
されど彼と此との二の時、即ちわが待つことゝ天のいよ/\かゞやくを見ることゝの間はたゞしばしのみなりき 一六―一八
ベアトリーチェふ。見よ、クリストの凱旋の軍を、またこれらの球の※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐりによりて刈取られし一切のを。 一九―二一
淑女の顏はすべて燃ゆるごとく見え、その目にはわが語らずしてむのほかなき程に大いなる喜悦よろこび滿てり 二二―二四
すみわたれる望月もちづきの空に、トリヴィアが、天のふところをすべて彩色いろど永遠とこしへのニンフェにまじりてほゝゑむごとく 二五―二七
我はちゞ燈火ともしびの上に一の日輪ありてかれらをこと/″\くもやし、そのさまわが日輪の、星におけるに似たるを見たり 二八―三〇
しかしてかの光る者その生くる光を貫いていとあざやかにわが顏を照らしたれば、わが目これにふるをえざりき 三一―三三
あゝベアトリーチェわがうるはしき慕はしき導者よ、彼我に曰ふ。汝の視力に勝つものは、防ぐにすべなき力なり 三四―三六
こゝにこそ、天地あめつちの間の路を開きてそのかみ人のいと久しく願ひし事をかなへたるその知慧と力とあるなれ。 三七―三九
たとへば火が雲のるゝあたはざるまで延びゆきて遂にこれを破り、そのさがそむきて地にくだるごとく 四〇―四二
わが心はかの諸※(二の字点、1-2-22)もてなしのためにひろがりて己を離れ、そのいかになりしやを自ら思ひ出で難し 四三―四五
いざ目をひらきてわが姿を見よ、汝諸※(二の字点、1-2-22)の物を見てはやわが微笑ほゝゑみに堪ふるにいたりたればなり。 四六―四八
過去こしかたしるふみの中より消失することなきほどの感謝をば受くるにふさはしきこのすゝめを聞きし時 四九―
我はあたかも忘れし夢をその名殘によりて心に浮べんといたづらにつとむる人のごとくなりき ―五四
たとひポリンニアとその姉妹達とがかれらのいと甘き乳をもていとよく養ひし諸※(二の字点、1-2-22)の舌今こぞりて鳴りて 五五―五七
我を助くとも、聖なる微笑ほゝゑみとそがいかばかり聖なる姿をあざやかにせしやを歌ふにあたり、まことの千一にも到らじ 五八―六〇
是故に天堂を描く時、この聖なる詩は、行手ゆくての道のれたるを見る人のごとく、をどり越えざるをえざるなり 六一―六三
されどテーマの重きことゝ人間の肩のこれをふことゝを思はゞ、たとひこれが下にてゆるぐとも、誰しも肩を責めざるならむ 六四―六六
この勇ましきへさきのわけゆく路は、小舟またはほねをしみする舟人ふなびとの進みうべきところにあらじ 六七―六九
汝何ぞわが顏をのみいたく慕ひて、クリストの光のもとに花咲く美しき園をかへりみざるや 七〇―七二
かしこに薔薇あり、こはそのなかにて神のことば肉となり給へるもの、かしこに諸※(二の字点、1-2-22)の百合あり、こはそのかをりにて人に善道よきみちをとらしめしもの。 七三―七五
ベアトリーチェかく、また我は、そのすゝめに心すべて傾きゐたれば、再び身を弱きまなこいくさゆだねき 七六―七八
日の光雲間くもまをわけてあざやかにす花の野を、わが目かつて陰に蔽はれて見しことあり 七九―八一
かくの如く、燃ゆる光に上より照らされて輝く者のあまたのむれを我は見き、その輝の本を見ずして 八二―八四
あゝかくかれらに印影かたす慈愛の力よ、汝は力足らざる目にその見るをりをえしめんとて自ら高く昇れるなりき 八五―八七
あさなゆふなわが常に呼びまつる美しき花の名を聞き、我わが魂をこと/″\くあつめて、いと大いなる火をみつむ 八八―九〇
しかして下界にて秀でしごとく天上にてもまた秀づるかの生くる星の質と量とがわが二の目に描かれしとき 九一―九三
天の奧より冠の如き輪形わがたを成せる一の燈火ともしび降りてこの星を卷き、またこれが周圍まはりをめぐれり 九四―九六
世にいとたへにひゞきて魂をいと強く調しらべといふとも、かの琴――いとあざやかなる天を飾る 九七―
かの美しき碧玉あをだまの冠となりし――の音にくらぶれば、雲の裂けてとゞろくごとく思はるべし ―一〇二
われはこれ天使の愛なり、われらの願ひの宿やどなりしたいよりいづるそのたふとき悦びを我今めぐる 一〇三―一〇五
我はめぐらむ、天の淑女よ、汝爾子みこのあとを逐ひゆき、至高球いとたかききうをして、汝のこれに入るにより、いよ/\聖ならしむるまで。 一〇六―一〇八
めぐりつゝかくうたひをはれば、他の光はすべてマリアの聖名みなとなへり 一〇九―一一一
宇宙の諸天をこと/″\く蔽ひ、神の聖息みいきのりとをうけて熱いと強く生氣いとさかんなる王衣おうのころもは 一一二―一一四
その内面うちがはわれらを遠く上方うへに離れゐたるため、わがをりし處にては、そのさま未だ我に見えねば 一一五―一一七
冠を戴きつゝ己が子のあとより昇れる焔に、わが目ともなふあたはざりき 一一八―一二〇
しかしてたとへば、乳を吸ひし後、愛燃えてそとにあらはれ、かひなを母のかたぶる稚兒をさなごのごとく 一二一―一二三
これらの光る火、いづれもその焔を上方うへに伸べ、そがマリアにむかひていだく尊き愛を我に示しき 一二四―一二六
かくてかれらはレーギーナ・コイリーをうたひつゝわが眼前めのまへに殘りゐたり、その歌いとたへにしてこれが喜び一たびも我を離れしことなし 一二七―一二九
あゝこれらのいとも富めるはこに――こは下界にて種をくにふさはしき地なりき――收めし物の豐かなることいかばかりぞや 一三〇―一三二
こゝにはかれらそのバビローニアの流刑るけいに泣きつゝ黄金こがねをかしこに棄てゝえたる財寶たからにて生き、かつこれを樂しむ 一三三―一三五
こゝにはいと大いなる榮光の鑰を保つ者、神の、またマリアの尊き子のもとにて、舊新二つの集會つどひとともに 一三六―
その戰勝かちいくさを祝ふ ―一四一
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   第二十四曲

あゝ尊きこひつじ(彼汝等に食を與へて常に汝等の願ひを滿たす)の大いなる晩餐ゆふげに選ばれて列る侶等よ 一―三
神の恩惠めぐみにより、此人汝等の食卓つくゑより落つる物をば、死が未だ彼のときを定めざるさきにあらかじめ味ふなれば 四―六
心をかれのいと深き願ひにとめ、少しくかれを露にてうるほせ、汝等は彼の思ふ事の出づるもとなる泉の水をたえず飮むなり。 七―九
ベアトリーチェかく、またかの喜べる魂等は、動かざる軸のつらぬく球となりて、そのはげしく燃ゆることあたかも彗星はうきぼしに似たりき 一〇―一二
しかして時辰儀じしんぎにては、その裝置しかけの輪※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐるにあたり、これに心をとむる人に、初めの輪しづまりて終りの輪飛ぶと見ゆるごとく 一三―一五
これらの球は、或は速く或は遲くさま/″\に舞ひ、我をしてかれらの富をはかるをえしめき 一六―一八
さていと美しと我に見えし球の中より一の火出づ、こはいと福なる火にて、かしこに殘れる者一としてこれよりあざやかなるはなかりき 一九―二一
この火歌ひつゝベアトリーチェの周邊まはりをめぐること三たび、その歌いと聖なりければ我今心に浮べんとすれどもかひなし 二二―二四
是故にわが筆跳越をどりこえてこれをしるさじ、われらの想像は、まして言葉は、かゝる※(「ころもへん+責」、第3水準1-91-87)ひだにとりて色あかるきに過ればなり 二五―二七
あゝかくうや/\しくわれらに請ふわが聖なる姉妹よ、汝の燃ゆる愛によりて汝は我をかの美しき球より解けり。 二八―三〇
かの福なる火は、止まりて後、いきをわが淑女に向けつゝ、わがいへるごとく語れるなりき 三一―三三
この時淑女。あゝわれらの主がこのしき悦びのかぎ(下界に主のもたらし給ひし)をゆだね給へる丈夫ますらを永遠とこしへの光よ 三四―三六
かつて汝に海の上を歩ましめし信仰に就き、輕き重き種々さま/″\の事をもて、汝の好むごとく彼を試みよ 三七―三九
彼善く愛し善く望みかつ信ずるや否や、汝これを知る、そは汝目を萬物よろづのものの描かれて視ゆるところにとむればなり 四〇―四二
されどこの王國が民を得たるはまことの信仰によるがゆゑに、これに榮光あらしめんため、これの事を語るをりの彼に來るをむべとす。 四三―四五
あたかも學士が、師の問をおこすを待ちつゝ、これをあげつらはんため――これをきむるためならず――もだして備を成すごとく 四六―四八
我はかゝる問者に答へかつかゝる告白をなすをえんため、淑女の語りゐたる間に、一切のことはりをもて備を成せり 四九―五一
いへ、良き基督教徒クリスティアーノよ、汝の思ふ所をあかせ、そも/\信仰といふは何ぞや。我即ちかうべを擧げてこのことばの出でし處なる光を見 五二―五四
後ベアトリーチェにむかへば、かれ直に我に示してわが心の泉より水を注ぎいださしむ 五五―五七
我曰ふ。大いなるをさの前にてわがいひあらはすを許す恩惠めぐみ、願はくは我をしてよくわが思ひを述ぶるをえしめよ。 五八―六〇
かくて續いて曰ふ。父よ、汝とともに、ローマを正しき路に就かせし汝の愛する兄弟の、まことの筆のしるすごとく 六一―六三
信仰とは望まるゝ物の基見えざる物のあかしなり、しかして是その本質と見ゆ。 六四―六六
是時聲曰ふ。汝の思ふ所正し、されど彼が何故にこれをまづ基の中に置き、後あかしの中に置きしやを汝よくさとるやいなや。 六七―六九
我即ち。こゝにて我にあらはるゝもろ/\の奧深き事物も、全く下界の目にかくれ 七〇―七二
かしこにてはその在りとせらるゝことたゞ信によるのみ、人この信の上に高き望みを築くがゆゑに、この物即ち基に當る 七三―七五
また人ほかの物を見ず、たゞこの信によりてことわらざるをえざるがゆゑに、この物即ちあかしにあたる。 七六―七八
是時聲曰ふ。凡そ教へによりて世に知らるゝものみなかくの如くせられんには、詭辯者の才かしこに容れられざるにいたらむ。 七九―八一
かくかの燃ゆる愛ことばいだし、後加ふらく。この貨幣の混合物まぜものとその重さとは汝既にいとよくしらべぬ 八二―八四
されどいへ、汝はこれを己が財布の中につや。我即ち。然り、そをさまに何の疑はしき事もなきまで光りてまるし。 八五―八七
この時、かしこに輝きゐたるかの光の奧より聲出でゝいふ。一切の徳のいしずゑなるこの貴き珠は 八八―九〇
そも/\いづこより汝のもとに來れるや。我。舊新二種の皮の上にゆたかに注ぐ聖靈の雨は 九一―九三
これがまことを我に示しゝ論法にて、その鋭きにくらぶれば、いかなる證明もにぶしとみゆ。 九四―九六
ついで曰ふ。かく汝に論決せしむる舊新二つの命題を、汝が神のことばとなすは何故ぞや。 九七―九九
我。この眞理を我に現はす所のあかしが、ともなへる諸※(二の字点、1-2-22)わざ(即ち自然がその爲くろがねを燒きまたは鐡床かなしきを打しことなき)なり 一〇〇―一〇二
聲我に答ふらく。いへ、これらの業の行はれしを汝に定かならしむるものは誰ぞや、他なし、自らあかしを求むる者ぞ汝にこれを誓ふなる。 一〇三―一〇五
我曰ふ。奇蹟なきに世キリストの教へに歸依きえせば、是かへつて一の大いなる奇蹟にて、他の凡ての奇蹟はその百分一にも當らじ 一〇六―一〇八
そは汝、貧しく、ゑつゝ、はたに入り、良木よききの種をきたればなり(この木昔葡萄ぶどうなりしも今荊棘いばらとなりぬ)。 一〇九―一一一
かくいひ終れる時、尊き聖なる宮人みやびと等、天上の歌の調しらべたへに、「われら神を讚美す」と歌ひ、諸※(二の字点、1-2-22)の球に響きわたらしむ 一一二―一一四
しかして問質とひたゞしつゝかく枝より枝に我をみちびき、はや我とともに梢に近づきゐたるをさ 一一五―一一七
重ねて曰ふ。汝の心とちぎ恩惠めぐみ、今までふさはしく汝の口をひらけるがゆゑに 一一八―一二〇
我は出でしものをよしとす、されど汝何を信ずるや、また何によりてかく信ずるにいたれるや、今これを我に述ぶべし。 一二一―一二三
我曰ふ。あゝ聖なる父よ、墓のほとりにてわかき足に勝ちしほどかたく信じゐたりしものを今見る靈よ 一二四―一二六
汝は我にわがとくいだける信の本體をこゝにあらはさんことを望み、かつまたこれがゆゑよしを問ふ 一二七―一二九
わが答は是なり、我は一神ひとりのかみ唯一たゞひとりにて永遠とこしへにいまし、愛と願ひとをもてすべての天を動かしつゝ自ら動かざる神を信ず 一三〇―一三二
しかして、かゝる信仰に對しては、我に物理哲理のあかしあるのみならじ、モイゼ、諸※(二の字点、1-2-22)の豫言者、詩篇、聖傳 一三三―
及び汝等即ち燃ゆる靈に淨められし後書録かきしるせる人々によりこゝより降下ふりくだる眞理もまた我にこの信を與ふ ―一三八
我また永遠とこしへの三位を信ず、しかしてこれらのもとは一、一にして三なれば、おしなべてソノといひエステといふをうるを信ず 一三九―一四一
わがいふところの奧深き神のさまをば、福音の教へいくたびもわが心に印す 一四二―一四四
是ぞ源、是ぞ火花、後延びて強き炎となり、あたかもそらの星のごとくわが心に煌めくものなる。 一四五―一四七
己を悦ばす事を聞くしゆが、しもべやがてもだすとき、その報知しらせにめでゝ、直ちにこれを抱くごとく 一四八―一五〇
かの使徒の光――我に命じて語らしめし――は、わが默しゝ時、直ちに歌ひて我を祝しつゝ、三たびわが周圍まはりをめぐれり 一五一―
わがことばかくそのこゝろかなへるなりき。 ―一五六
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   第二十五曲

年久しく我をやつれしむるほど天地あめつちともに手を下しゝ聖なる詩、もしかの麗はしきをり―― 一―
かしこにいくさを起す狼どものあだこひつじとしてわが眠りゐし處――より我をいだすその殘忍に勝つこともあらば ―六
その時我は變れる聲と變れる毛とをもて詩人として歸りゆき、わが洗禮バッテスモの盤のほとりに冠を戴かむ 七―九
そは我かしこにて、魂を神に知らすものなる信仰に入り、後ピエートロこれが爲にかくわがひたひ周圍まはりをめぐりたればなり 一〇―一二
クリストがその代理者の初果はつなりとして殘しゝ者の出でし球より、このとき一の光こなたに進めり 一三―一五
わが淑女いたく悦びて我にいふ。見よ、見よ、かのをさを見よ、かれの爲にこそ下界にて人ガーリツィアにまうづるなれ。 一六―一八
鳩そのともかたへに飛びくだるとき、かれもこれも※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐりつゝさゝやきつゝ、かたみに愛をあらはすごとく 一九―二一
我はひとりの大いなる貴き君が他のかゝる君に迎へられ、かれらをかしむる天上のかてをばともにたゝふるを見き 二二―二四
されど會繹えしやく終れる時、かれらはいづれも、我に顏をれしむるほど強く燃えつゝ、もだしてわが前にとゞまれり 二五―二七
是時ベアトリーチェ微笑ほゝゑみて曰ふ。われらの王宮の惠みのゆたかなるをしるしゝなだゝる生命いのちよ 二八―三〇
望みをばこの高き處に響き渡らすべし、汝知る、イエスが、己をいとよく三人みたりに顯はし給ひし毎に、汝のこれをかたどれるを。 三一―三三
かうべを擧げよ、しかして心を強くせよ、人の世界よりこゝに登り來るものは、みなわれらの光によりて熟せざるをえざればなり。 三四―三六
この勵ますことば第二の火よりわがもとに來れり、是においてか我は目を擧げ、かの先に重きに過ぎてこれをれしめし山を見ぬ二七
恩惠めぐみによりてわれらのみかどは、汝が、未だ死なざるさきに、その諸※(二の字点、1-2-22)伯達きみたちと内殿に會ふことを許し 四〇―四二
汝をしてこの王宮の眞状まことのさまを見、これにより望み即ち下界に於て正しき愛をうながすものをば、汝とほかの人々の心に、強むるをえしめ給ふなれば 四三―四五
その望みの何なりや、いかに汝の心に咲くや、またいづこより汝の許に來れるやをいへ。第二の光續いてさらにかく曰へり 四六―四八
わが翼の羽を導いてかく高く飛ばしめしかの慈悲深き淑女、是時我より先に答へていふ 四九―五一
わが軍をあまねく照らすかの日輪にしるさるゝごとく、戰鬪たゝかひあづかる寺院にては彼より多くの望みをいだく子一人ひとりだになし 五二―五四
是故にかれは、その軍役いくさのつとめを終へざるさきにエジプトを出で、イエルサレムメに來りて見ることを許さる 五五―五七
さてほかの二の事、即ち汝が、知らんとてならず、たゞ彼をしてこの徳のいかばかり汝の心にかなふやを傳へしめんとて問ひし事は 五八―六〇
我是を彼にゆだぬ、そは是彼に難からず虚榮のもととならざればなり、彼これに答ふべし、また願はくは神恩かみのめぐみ彼にかくすをえしめ給へ。 六一―六三
あたかも弟子が、そのくわしく知れる事においては、わが才能ちからを現はさんため、くかつ喜びて師に答ふるごとく 六四―六六
我曰ひけるは。望みとは未來の榮光のかたき期待にて、かゝる期待は神の恩惠めぐみと先立つ功徳より生ず 六七―六九
この光多くの星より我許わがもとに來れど、はじめてこれをわが心に注げるは、最大いとおほいなる導者を歌へる最大いなる歌人うたびとたりし者なりき 七〇―七二
かれその聖歌の中にいふ、爾名みなを知る者は望みを汝におくべしと、また誰か我の如く信じてしかしてこれを知らざらんや 七三―七五
かれのしづくとともに汝そののちふみのうちにて我にこれをしたゝらし、我をして滿たされて汝等の雨をほかの人々にも降らさしむ。 七六―七八
わが語りゐたる間、かの火の生くるふところのうちにとあるひらめき、俄にかつ屡※(二の字点、1-2-22)ふるひ、そのさま電光いなづまの如くなりき 七九―八一
かくていふ。棕櫚しゆろをうるまで、戰場いくさのにはを出づる時まで、我にともなへる徳にむかひ今も我をもやす愛 八二―八四
我にすゝめて再び汝――この徳を慕ふ者なる――と語らしむ、されば請ふ、望みの汝に何を約するやを告げよ。 八五―八七
我。新舊二つの聖經標みふみしるしつ、この標こそ我にこれを指示さししめすなれ、神が友となしたまへる魂につき 八八―九〇
イザヤは、かれらいづれも己が郷土ふるさとにて二重ふたへの衣を着るべしといへり、己が郷土とは即ちこのうるはしき生の事なり 九一―九三
また汝の兄弟は、白衣しろきころものことを述べしところにて、さらにつまびらかにこの默示をわれらにあらはす。 九四―九六
かくいひ終れる時、スペーレント・イン・テーまづわれらの上に聞え、舞ふ者こと/″\くこれに和したり 九七―九九
次いでかれらの中にて一の光いと強く輝けり、げにもし巨蟹宮に一のかゝる水晶あらば、冬の一月ひとつきはたゞ一の晝とならむ 一〇〇―一〇二
またたとへば喜ぶ處女をとめが、その短處おちどの爲ならず、たゞ新婦はなよめの祝ひのために、ち、行き、踊りに加はるごとく 一〇三―一〇五
かの輝く光は、己が燃ゆる愛に應じて圓くめぐれる二の光のもとに來れり 一〇六―一〇八
かくてかしこにて歌と節とを合はせ、またわが淑女は、もだして動かざる新婦はなよめのごとく、目をかれらにとむ 一〇六―一〇八
こは昔われらの伽藍鳥ペルリカーノの胸にりし者、また選ばれて十字架の上より大いなる務をゆだねられし者なり。 一一二―一一四
わが淑女かく、されどそのことばのためにその目を移さず、これをかたくとむることいはざる先の如くなりき 一一五―一一七
瞳を定めて、日の少しくくるを見んとつとむる人は、見んとてかへつて見る能はざるにいたる 一一八―一二〇
わがかの最後の火におけるもまたかくの如くなりき、是時聲曰ふ。汝何ぞこゝに在らざる物を視んとて汝の目をまばゆうするや 一二一―一二三
わが肉體は土にして地にあり、またわれらのかず永遠とこしへ聖旨みむねふにいたるまでは他の肉體と共にかしこにあらむ 一二四―一二六
かさねの衣を着つゝ尊き僧院にあるものは、昇りし二の光のみ、汝これを汝等の世に傳ふべし。 一二七―一二九
かくいへるとき、焔の舞は、三の氣吹いぶきおとのまじれるうるはしき歌とともにしづまり 一三〇―一三二
さながら水を掻きゐたるかひが、疲勞つかれまたは危き事を避けんため、一の笛のとともにみな止まる如くなりき 一三三―一三五
あゝわが心の亂れいかなりしぞや、そは我是時身をめぐらしてベアトリーチェを見んとせしかど(我彼に近くかつ福の世にありながら) 一三六―
見るをえざりければなり ―一四一
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   第二十六曲

わが視力の盡きしことにて我危ぶみゐたりしとき、これを盡きしめしかの輝く焔より一の聲出でゝわが心を惹けり 一―三
曰ふ。我を見て失ひし目の作用はたらきをば汝の再び得るまでは、語りてこれをつぐのふをよしとす 四―六
さればまづ、いへ、汝の魂何處いづこをめざすや、かつまた信ぜよ、汝の視力は亂れしのみにて、滅び失せしにあらざるを 七―九
そは汝を導いてこの聖地を過ぐる淑女は、アナーニアの手のてる力を目にもてばなり 一〇―一二
我曰ふ。遲速おそきはやきを問はずたゞ彼の心のまゝにわが目ゆべし、こは彼が、絶えず我をもやす火をもて入來りし時の門なりき 一三―一五
さてこの王宮をさきはふ善こそ、或は低く或は高く愛のわが爲に讀むかぎりの文字もじのアルファにしてオメガなれ。 一六―一八
目の俄にくらめるための恐れを我より取去れるその聲、我をして重ねて語るの意を起さしむ 一九―二一
そのことばに曰ふ。げに汝はさらに細かき篩にて漉さゞるべからず、が汝の弓をかゝるまとに向けしめしやをいはざるべからず。 二二―二四
我。哲理の論ずる所によりまたこゝより降る權威によりて、かゝる愛は、我にかたさゞるべからず 二五―二七
これ善は、その善なるかぎり、知らるゝとともに愛をもやし、かつその含む善の多きに從ひて愛また大いなるによる 二八―三〇
されば己の外に存する善がいづれもたゞ己の光の一すぢに過ぎざるほどすぐるゝ者に向ひては 三一―三三
このあかしもとゐなる眞理をわきまふる人の心、他の者にむかふ時にまさりて愛しつゝ進まざるをえじ 三四―三六
我に凡ての永遠とこしへの物の第一の愛を示すもの、かゝる眞理をわが智にあかし 三七―三九
まことの作者、即ち己が事を語りて我汝に一切の徳を見すべしとモイゼにいへる者の聲これを明し 四〇―四二
汝も亦、かの尊き公布ふれにより、ほかのすべての告示しらせにまさりて、こゝの秘密を下界にとなへつゝ、我にこれを明すなり。 四三―四五
是時聲曰ふ。人智及びこれと相和する權威によりて、汝の愛のうちのいと大いなるもの神にむかふ 四六―四八
されど汝は、神のかたに汝を引寄する綱のこのほかにもあるを覺ゆるや、請ふ更にこれを告げこの愛が幾個いくつの齒にて汝を噛むやを言現いひあらはすべし。 四九―五一
クリストの鷲の聖なる思ひ隱れざりき、いな我はよく彼のわが告白をばいづこに導かんとせしやを知りて 五二―五四
即ちまたいひけるは。齒をもて心を神に向はしむるをうるもの、みなわが愛と結び合へり 五五―五七
そは宇宙の存在、我の存在、我を活かしめんとて彼の受けし死、及び凡そ信ずる人の我と等しく望むものは 五八―六〇
先に述べし生くる認識とともに、我をもとれる愛の海より引きて、正しき愛の岸に置きたればなり 六一―六三
永遠とこしへ園丁にはつくりの園にあまねく茂る葉を、我は神がかれらに授け給ふさいはひの度に從ひて愛す。 六四―六六
もだしゝとき、忽ち一のいとうるはしき歌天に響き、わが淑女全衆に和して、聖なり聖なり聖なりといへり 六七―六九
鋭き光にあへば、物視る靈が、膜より膜に進み入るその輝に馳せ向ふため、眠り覺まされ 七〇―七二
覺めたる人は、判ずる力己を助くるにいたるまで、己が俄にさめし次第を知らで、その視る物におびゆるごとく 七三―七五
ベアトリーチェは、千ミーリアの先をも照らす己が目の光をもて、一切のほこりをわが目より拂ひ 七六―七八
我は是時前よりもよく見るをえて、第四の光のわれらとともにあるを知り、いたく驚きてこれが事を問へり 七九―八一
わが淑女。この光の中には、第一の力のはじめて造れる第一の魂その造主つくりぬしを慕ふ。 八二―八四
たとへば風過ぐるとき、枝はそのさきるれど、己が力にもたげられて、後また己を高むるごとく 八五―八七
我は彼の語れる間、いたくあやしみてかうべれしも、語るの願ひに燃されて、後再び心を強うし 八八―九〇
曰ひけるは。あゝ熟して結べる唯一たゞひとつ果實このみよ、あゝ新婦はなよめといふ新婦をむすめ子婦よめつ昔の父よ 九一―九三
我いとうや/\しく汝にぐ、請ふ語れ、わが願ひは汝の知るところなれば、汝のことばく聞かんため、我いはじ。 九四―九六
獸包まれて身を搖動ゆりうごかし、包む物またこれとともに動くがゆゑに、願ひを現はさゞるををえざることあり 九七―九九
かくの如く、第一の魂は、いかに悦びつゝわが望みに添はんとせしやを、その蔽物おほひによりて我に示しき 一〇〇―一〇二
かくていふ。汝我に言現はさずとも、わが汝の願ひを知ること、およそ汝にいと明らかなることを汝の知るにもまさる 一〇三―一〇五
こは我これをまことの鏡――この鏡萬物を己にうつせど、一物としてこれを己にうつすはなし――に照して見るによりてなり 一〇六―一〇八
汝の聞かんと欲するは、この淑女がかく長ききぎはしをば汝に昇るをえしめし處なる高き園の中に神の我を置給ひしは幾年前いくとせさきなりしやといふ事 一〇九―一一一
これがいつまでわが目の樂なりしやといふ事、大いなるいきどほりまこと原因もと、またわが用ゐわが作れる言葉の事即ち是なり 一一二―一一四
さて我子よ、かの大いなる流刑るけい原因もとは、木實このみあぢはへるその事ならで、たゞ分をえたることなり 一一五―一一七
我は汝の淑女がヴィルジリオを出立いでたゝしめし處にありて、四千三百二年の間この集會つどひを慕ひたり 一一八―一二〇
また地に住みし間に、我は日が九百三十回、その道にあたるすべての光に歸るを見たり 一二一―一二三
わが用ゐし言葉は、ネムブロットのやからがかの成し終へ難きわざを試みしその時よりも久しき以前さきに悉く絶えにき 一二四―一二六
そは人の好む所天にともなひて改まるがゆゑに、理性より生じてしかして永遠とこしへに續くべきもの未だ一つだにありしことなければなり 一二七―一二九
※(二の字点、1-2-22)そも/\人の物言ふは自然のわざなり、されどかく言ひかくいふことは自然これを汝等にゆだね汝等の好むまゝに爲さしむ 一三〇―一三二
わが未だ地獄に降りて苦しみをうけざりしさきには、我をつゝ喜悦よろこびもとなる至上の善、世にてと呼ばれ 一三三―一三五
その後ELエルと呼ばれにき、是亦うべなり、そは人の習慣ならはしは、さながら枝の上なる葉の、彼散りて此生ずるに似たればなり 一三六―一三八
かの波の上いと高くそびゆる山に、罪なくしてまた罪ありてわが住みしは、第一時より、日の象限しやうげんを變ふるとともに 一三九―
第六時に次ぐ時までの間なりき。 ―一四四
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   第二十七曲

父に子に聖靈に榮光あれ。天堂こぞりてかくとなへ、そのうるはしき歌をもて我を醉はしむ 一―三
わが見し物は宇宙の一微笑ひとゑみのごとくなりき、是故にわがゑひ耳よりも目よりも入りたり 四―六
あゝ樂しみよ、あゝいひがたき歡びよ、あゝ愛と平和とより成るまつたき生よ、あゝ慾なき恐れなき富よ 七―九
わが目の前にはよつ燈火ともしび燃えゐたり、しかして第一に來れるものいよ/\あざやかになり 一〇―一二
かつその姿を改めぬ、木星ジョーヴェもし火星マルテとともに鳥にして羽を交換とりかはしなば、またかくの如くなるべし 一三―一五
次序ついで任務つとめとをこゝにてわかち與ふる攝理、四方よもの聖徒達をしてしづかならしめしとき 一六―一八
わが聞けることばにいふ。われ色を變ふと雖もあやしむなかれ、そはわが語るを聞きて是等の者みな色を變ふるを汝見るべければなり 一九―二一
わが地位、わが地位、わが地位(神の子の聖前みまへにては今もむなし)を世にて奪ふ者 二二―二四
わが墓所はかどころをば血とけがれとの溝となせり、是においてか天上よりちしもとれる者も下界に己が心を和らぐ。 二五―二七
是時我は、日と相對あひむかふによりてあしたゆふべに雲を染めなす色の、あまねく天にみなぎるを見たり 二八―三〇
しかしてたとへばしとやかなる淑女が、心におそるゝことなけれど、他人ひと過失おちどをたゞ聞くのみにてはぢらふごとく 三一―三三
ベアトリーチェは容貌かたちを變へき、思ふに比類たぐひなき威能ちからなやみ給ひし時にも、天かく暗くなりしなるべし 三四―三六
かくてピエートロ、容貌かたちの變るに劣らざるまでかはれる聲にて、續いて曰ふ 三七―三九
※(二の字点、1-2-22)クリストの新婦はなよめを、わが血及びリーン、クレートの血にてはぐゝめるは、これをして黄金こがねをうるの手段てだてたらしめん爲ならず 四〇―四二
いなこの樂しき生を得ん爲にこそ、シストもピオもカーリストもウルバーノも、多くの苦患なやみの後血を注げるなれ 四三―四五
基督教徒クリスティアーニなる民の一部我等の繼承者けいしようじやの右に坐し、その一部左に坐するは、われらの志しゝところにあらじ 四六―四八
我にゆだねられしかぎが、受洗者じゆせんじやと戰ふための旗のしるしとなることもまたしかり 四九―五一
我を印のかたとなして、贏利虚妄えいりきよまうの特典にし、われをして屡※(二の字点、1-2-22)かつ恥ぢかつおこらしむることも亦然り 五二―五四
こゝ天上より眺むれば、牧者の衣を着たるあらき狼隨處いたるところ牧場まきばに見ゆ、あゝ神の擁護みまもりよ、何ぞ今もたざるや 五五―五七
カオルサびと等とグアスコニア人等、はや我等の血を飮まんとす、ああ善き始めよ、汝の落行先おちゆくさきはいかなる惡しき終りぞや 五八―六〇
されど思ふに、シピオによりローマに世界の榮光を保たしめたる尊き攝理、直ちに助け給ふべし 六一―六三
また子よ、汝は肉體の重さのため再び下界に歸るべければ、口をひらけ、わが隱さゞる事を隱すなかれ。 六四―六六
日輪天の磨羯まかつつのに觸るゝとき、こほれる水氣ひらを成してわが世のそらより降るごとく 六七―六九
我はかの飾れる精氣より、さきにわれらとともにかしこに止まれる凱旋がいせんの水氣ひらをなして昇るを見たり 七〇―七二
わが目はかれらの姿にともなひ、あはひの大いなるによりさらに先を見るをえざるにいたりてやみぬ 七三―七五
是においてか淑女、わが仰ぎ見ざるを視、我にいふ。目をれて汝の※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐれるさまを見るべし。 七六―七八
我見しに、はじめわが見し時より以來このかた、我は第一帶のなかばよりそのはしに亘る弧線アルコを悉くめぐり終へゐたり 七九―八一
さればガーデのかなたにはウリッセのくるほしき船路ふなぢ見え、近くこなたには、エウローパがゆかしき荷となりし處なる岸見えぬ 八二―八四
日輪もし一天宮餘をへだてゝわが足の下に※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐりをらずば、この小さき麥場うちばなほ廣く我に現はれたりしなるべし 八五―八七
たえずわが淑女と契る戀心こひごゝろ、常よりもはげしく燃えつゝ、わが目を再び彼にむかしむ 八八―九〇
げに自然やわざが、心を獲んためまづ目をとらへんとて、人の肉體やその繪姿ゑすがたに造れるゑば 九一―九三
すべて合はさるとも、わが彼のほゝゑむ顏に向へるとき我を照らしゝ聖なる樂しみに此ぶれば物の數ならじと見ゆべし 九四―九六
しかしてかく見しことよりわが受けたる力は、我をレーダの美しき巣より引離して、いとはやき天に押し入れき 九七―九九
これが各部皆いと強く輝きて高くかつみな同じさまなれば、我はベアトリーチェがそのいづれを選びてわが居る處となしゝやを知らじ 一〇〇―一〇二
されど淑女は、わが願ひを見、その顏に神の悦び現はると思ふばかりいとうれしくほゝゑみていふ 一〇三―一〇五
中心をしづめ、その周圍まはりなる一切の物を動かす宇宙のさがは、己が源より出づるごとく、こゝよりいづ 一〇六―一〇八
またこの天には神意みこころほかところなし、しかしてこれを轉らす愛とこれがふらす力とはこの神意の中に燃ゆ 一〇九―一一一
一の圈の光と愛これを容るゝことあたかもこれが他の諸※(二の字点、1-2-22)の圈をるゝに似たり、しかしてこの圈をつかさどる者はたゞこれを包む者のみ 一一二―一一四
またこれが運行は他の運行によりてはかられじ、されど他の運行は皆これによりてはからる、猶十のそのなかばと五一とによりて測らるゝ如し 一一五―一一七
されば時なるものが、その根をかゝる鉢に保ち、葉を他の諸※(二の字点、1-2-22)の鉢にたもつ次第は、今汝に明らかならむ 一一八―一二〇
あゝ慾よ、汝は人間を深く汝の下に沈め、ひとりだに汝の波より目をもたぐるをえざるにいたらしむ 一二一―一二三
意志は人々のうちに良花よきはなと咲けども、雨の止まざるにより、まことすもゝ惡しき實に變る 一二四―一二六
信と純とはたゞ童兒わらべの中にあるのみ、頬にひげひざるさきにいづれも逃ぐ 一二七―一二九
片言かたことをいふ間斷食だんじきを守る者も、舌ゆるむ時至れば、いかなる月の頃にてもすべての食物くひものを貪りくらひ 一三〇―一三二
片言をいふ間母を愛しこれに從ふ者も、言語ことば調とゝのふ時いたれば、これが葬らるゝを見んとねがふ 一三三―一三五
かくの如く、あしたを齎しゆふべを殘しゆくものゝ美しきむすめの肌は、はじめ白くして後黒し 一三六―一三八
汝これをあやしとするなからんため、思ひみよ、地には治むる者なきことを、人のやから道を誤るもこの故ぞかし 一三九―一四一
されど第一月が、世にかの百一の等閑なほざりにせらるゝため、全く冬を離るゝにいたらざるまに、諸※(二の字点、1-2-22)の天は鳴轟き 一四二―一四四
待ちに待ちし嵐起りて、ともへさきかたにめぐらし、千船ちふねを直く走らしむべし 一四五―一四七
かくてぞ花の後にまことの實あらむ。 一四八―一五〇
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   第二十八曲

我をして心を天堂に置かしむる淑女、さちなき人間の現世げんぜを難じつゝその眞状まことのさまをあらはしゝ時 一―三
我はあたかも、見ず思はざるさきに己が後方うしろにともされし燈火ともしびの焔を鏡に見 四―六
※(「王+黎」、第3水準1-88-35)の果してまことを告ぐるや否やを見んとて身を轉らし、此と彼と相合ふこと歌のそのにおけるに似たるを見る 七―
人の如く(記憶によりて思ひ出づれば)、かの美しき目即ち愛がこれをもてひもを造りて我をとらへし目を見たり ―一二
かくてふりかへり、人がつら/\かの天のめぐるを視るとき常にかしこに現はるゝものわが目に觸るゝに及び 一三―一五
我は鋭き光を放つ一點を見たり、げにかゝる光に照らされんには、いかなる目も、そのいと鋭きが爲に閉ぢざるをえじ 一六―一八
また世より最小いとちひさく見ゆる星さへ、星の星と並ぶごとくかの點とならびなば、さながら月と見ゆるならむ 一九―二一
月日つきひかさが、これをさゝふる水氣のいとき時にあたり、これをいろどる光を卷きつゝそのほとりに見ゆるばかりの 二二―二四
あはひへだてゝ、一の火輪ひのわかの點のまはりをめぐり、その早きこと、いと速に世界を卷く運行にさへまさると思はるゝ程なりき 二五―二七
また是は第二の輪に、第二は第三、第三は第四、第四は第五、第五は第六の輪に卷かる 二八―三〇
第七の輪これに續いて上方うへにあり、今やいたくひろがりたれば、ユーノの使者つかひ完全まつたしともこれをるゝに足らざるなるべし 三一―三三
第八第九の輪また然り、しかしていづれもそのかずいちへだゝること遠きに從ひ、※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐることいよ/\遲く 三四―三六
また清き火花にいと近きものは、これがまことあづかること他にまさる爲ならむ、その焔いとあざやかなりき 三七―三九
わがいたく思ひまどふを見て淑女曰ふ。天もすべての自然も、かの一點にこそかゝるなれ 四〇―四二
見よこれにいと近き輪を、しかして知るべし、その※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐることかく早きは、燃ゆる愛の刺戟を受くるによるなるを。 四三―四五
我彼に。宇宙もしわがこれらの輪に見るごとき次第をたもたば、わが前に置かるゝもの我を飽かしめしならむ 四六―四八
されど官能界にありては、諸※(二の字点、1-2-22)の回轉その中心を遠ざかるに從つていよ/\聖なるを見るをう 四九―五一
是故にこのたへなる、天使の神殿みや、即ちたゞ愛と光とをその境界さかひとする處にて、わが顏ひ全く成るをうべくば 五二―五四
ふさらに何故に模寫うつし樣式かたとが一樣ならざるやを我に告げよ、我自らこれを想ふはいたづらなればなり。 五五―五七
汝の指かゝるむすびを解くをえずともあやしむに足らず、こはその試みられざるによりていと固くなりたればなり。 五八―六〇
わが淑女かく、而して又曰ふ。もし飽くことを願はゞ、わが汝に告ぐる事を聽き、才を鋭うしてこれにむかへ 六一―六三
それ諸※(二の字点、1-2-22)の球體は、あまねくその各部に亘りてひろがる力の多少に從ひ、或は廣く或は狹し 六四―六六
徳大なればその生ずる福祉さいはひもまた必ず大に、體大なれば(而してその各部等しく完全なれば)そのるゝ福祉ふくしもまた從つて大なり 六七―六九
是においてか己と共に殘の宇宙を悉くめぐらす球は、愛と智とのともにいと多き輪にかなふ 七〇―七二
是故に汝のはかりを、まるく汝に現はるゝものゝ外見みえゑずして力に据ゑなば 七三―七五
汝はいづれの天も、その天使と――即ち大いなるは優れると、小さきは劣れると――くすしく相應ずるを見む。 七六―七八
ボーレアがそのいと温和おだやかなるかたの頬より吹くとき、半球の空あざやかに澄みわたり 七九―八一
さきにこれを曇らせし霧拂はれ消えて、天その隨處の美を示しつゝほゝゑむにいたる 八二―八四
わが淑女がその明らかなる答を我に與へしとき、我またかくの如くになり、まことを見ること天の星を見るに似たりき 八五―八七
しかしてそのことば終るや、諸※(二の字点、1-2-22)の輪火花を放ち、そのさま熱鐡の火花を散らすに異なるなかりき 八八―九〇
火花は各※(二の字点、1-2-22)その火にともなへり、またそのかずはいと多くして、將棊しようぎを倍するに優ること幾千といふ程なりき 九一―九三
我は彼等がかれらをその常にありし處に保ちかつ永遠とこしへに保つべきかの動かざる點に向ひ、組々くみ/″\にオザンナを歌ふを聞けり 九四―九六
淑女わが心の中の疑ひを見て曰ふ。最初はじめの二つの輪はセラフィニとケルビとを汝に示せり 九七―九九
かれらのかく速に己が絆きづな從ふは、及ぶ限りかの點に己を似せんとすればなり、而してその視る位置の高きに準じてかく爲すをう 一〇〇―一〇二
かれらの周圍まはりめぐる諸※(二の字点、1-2-22)の愛は、神の聖前みまへ寶座フローニと呼ばる、第一のみつの組かれらに終りたればなり 一〇三―一〇五
汝知るべし、一切の智の休らふ處なるまことをばかれらが見るの深きに應じてその悦び大いなるを 一〇六―一〇八
かゝれば福祉さいはひが見る事にもとづき愛すること(即ち後に來る事)にもとづかざる次第もこれによりて明らかならむ 一〇九―一一一
また、見る事のはかりとなるは功徳にて、恩惠めぐみ善心よきこゝろとより生る、次序ついでをたてゝ物の進むことかくの如し 一一二―一一四
同じくこの永劫えいごふの春――夜の白羊宮もこれをかすめじ――に萌出もえいづる第二のみつの組は 一一五―一一七
永遠とこしへにオザンナを歌ひつゝ、そのみつを造り成す三の喜悦よろこびの位の中に三のたへなるをひゞかしむ 一一八―一二〇
この組の中には三種みくさの神あり、第一は統治ドミナーツィオニ、次は懿徳ヴィルトゥーディ、第三の位は威能ボデスターディなり 一二一―一二三
次で最後をはりいとちかく踊り※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐる二のむれ主權ブリンチパーティ首天使アルカンゼリにて、最後をはりにをどるは、すべて樂しき天使なり 一二四―一二六
これらの位みな上方うへを視る、かれらまたその力を強く下方したに及ぼすがゆゑに、みな神のかたに引かれしかしてみな引く 一二七―一二九
さてディオニージオは、心をこめてこれらの位の事を思ひめぐらし、わがごとくこれが名をいひこれを別つにいたりたり 一三〇―一三二
されどその後グレゴーリオ彼を離れき、是においてか目をこの天にて開くに及び、自ら顧みて微笑ほゝゑめり 一三三―一三五
またたとひ人たる者がかくかくれたるまことをば世に述べたりとてあやしむなかれ、こゝ天上にてこれを見し者、これらの輪にかゝはる 一三六―
他の多くのまこととともにこれを彼に現はせるなれば。 ―一四一
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   第二十九曲

ラートナのふたりの子、白羊と天秤てんびんとに蔽はれて、ひとしく天涯を帶とする頃 一―三
天心が權衡けんこうを保つ刹那せつなより、彼も此も半球をへかの帶を離れつゝ權衡を破るにいたる程の間 四―六
ベアトリーチェは、わが目に勝ちたるかの一點をつら/\視つゝ、ゑみを顏にうかべてもだし 七―九
かくて曰ふ。汝の聞かんと願ふことを我問はで告ぐ、そは我これを一切の處と時との集まる點にて見たればなり 一〇―一二
※(二の字点、1-2-22)そも/\永遠とこしへの愛は、己がさいはひを増さん爲ならず(こはあるをえざる事なり)、たゞその光が照りわたりつゝ、我在りといふをえんため 一三―
時をえ他の一切のかぎりを超え、己が無窮の中にありて、その心のまゝに己をば諸※(二の字点、1-2-22)の新しき愛のうちに現はせり ―一八
またその先にも、爲すなきが如くにて休らひゐざりき、そはこれらの水の上に神の動き給ひしは、先後あとさきに起れる事にあらざればなり 一九―二一
形式と物質と、或は合ひ或は離れて、あたかもみつつるある弓より三の矢の出る如く出で、缺くるところなき物となりたり 二二―二四
しかして光が、※(「王+黎」、第3水準1-88-35)はり琥珀こはくまたは水晶を照らす時、その入來るより入終るまでの間にすこしひまもなきごとく 二五―二七
かのみつの形のわざは、みな直に成りそなはりてその主より輝き出で、いづれを始めと別ちがたし 二八―三〇
また時を同じうしてこの三の物の間に秩序は造られ立てられき、而して純なる作用を授けられしもの宇宙の頂となり 三一―三三
純なる勢能最低處いとひくきところを保ち、中央には一のつなぎ、繋離るゝことなきほどにいとかたく、勢能を作用と結び合せき 三四―三六
イエロニモは、天使達がその餘の宇宙の造られし時より幾百年の久しきさきに造られしことをしるせるも 三七―三九
わがいふまことは聖靈を受けたる作者達のしば/\ふみにしるしゝところ、汝よく心をとめなば自らこれをさとるをえむ 四〇―四二
また理性もいくばくかこのまことを知らしむ、そは諸※(二の字点、1-2-22)動者うごかすものがかく久しく全からざりしとはその認めざることなればなり 四三―四五
今や汝これらの愛の、いづこに、いつ、いかに造られたりしやを知る、されば汝の願ひの中みつの焔ははや消えたり 四六―四八
かずを二十までかぞふるばかりの時をもおかず、天使の一部は、汝等の原素のうちのいと低きものを亂し 四九―五一
その餘の天使は、殘りゐて、汝の見るごときわざを始む(かくする喜びいと大いなりければ、かれら※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐむことあらじ) 五二―五四
墮落の原因もとは、汝の見しごとく宇宙一切の重さにされをる者の、のろふべき傲慢たかぶりなりき 五五―五七
またこゝに見ゆる天使達は、へりくだりて、かの善即ちかれらをしてかく深く悟るにいたらしめたる者よりかれらの出しを認めたれば 五八―六〇
恩惠めぐみの光と己が功徳とによりてその視る力増したりき、是故にその意志備りて固し 六一―六三
汝疑ふなかれ、信ぜよ、恩惠めぐみを受くるは功徳にて、この功徳は恩惠を迎ふる情の多少に應ずることを 六四―六六
汝もしわがことばをさとりたらんには、たとひほかの助けなしとも、今やこの集會つどひにつきて多くの事を想ふをえむ 六七―六九
されど地上汝等の諸※(二の字点、1-2-22)の學寮にては、天使に了知、記憶、及び意志ありと教へらるゝがゆゑに 七〇―七二
我さらに語り、汝をして、かゝる教へにおける言葉の明らかならざるため下界にてまがふ眞理の純なる姿を見しむべし 七三―七五
そも/\これらの者は、神の聖顏みかほを見て悦びし時よりこの方、目をこれ(一物としてこれにかくるゝはなし)にそむけしことなし 七六―七八
是故にその見ること新しき物にはばまれじ、是故にまたそのおもひの分れたる爲、記憶に訴ふることを要せじ 七九―八一
されば世にては人眠らざるに夢を見つゝ、或はまことをいふと信じ或はしかすと信ぜざるなり、後者は罪もはぢもまさる 八二―八四
汝等世の人、ことわりきわむるにあたりて同一おなじひとつの路を歩まず、これ外見みえを飾るの慾と思ひとに迷はさるゝによりてなり 八五―八七
されどこれとても、神のふみうとんぜられまたは曲げらるゝにくらぶれば、そが天上にうくる憎惡にくしみなほ輕し 八八―九〇
かのふみを世にかんためいくばくの血流されしや、へりくだりてこれに親しむ者いかばかり聖意みこゝろかなふやを人思はず 九一―九三
※(二の字点、1-2-22)外見みえのために力め、さま/″\の異説を立つれば、これらはまた教を説く者のあげつらふところとなりて福音ものいはじ 九四―九六
ひとりいふ、クリストの受難の時は、月退しざりて中間なかへだてしため、日の光地に達せざりきと 九七―九九
またひとりいふ、こは光の自ら隱れしためなり、されば猶太人ジュデーアびとのみならずスパニアびともインド人も等しくその缺くるを見たりと 一〇〇―一〇二
ラーポとビンドいかにフィオレンツァに多しとも、年毎としごとにこゝかしこにて教壇より叫ばるゝかゝる浮説の多きにはかず 一〇三―一〇五
是故に何をも知らぬ羊は、風を食ひて牧場より歸る、また己が禍ひを見ざることも彼等を罪なしとするに足らじ 一〇六―一〇八
クリストはその最初の弟子達に向ひ、往きて徒言あだことを世に宣傳のべつたへといひ給はず、まこといしずゑをかれらに授け給ひたり 一〇九―一一一
この礎のみぞかれらのとなへしところなる、されば信仰をもやさん爲に戰ふにあたり、かれらは福音をたてとも槍ともなしたりき 一一二―一一四
今や人々戲言ざれごと戲語たはけとをもて教へを説き、たゞよく笑はしむれば僧帽ふくる、かれらの求むるものこのほかになし 一一五―一一七
されど帽のはしには一羽の鳥の巣くふあり、俗衆これを見ばその頼む罪の赦の何物なるやを知るをえむ 一一八―一二〇
是においてかいとおろかなること地にはびこり、定かにすべきあかしなきに、人すべての約束のほとりつどひ 一二一―一二三
聖アントニオは(贋造まがへ貨幣かねを拂ひつゝ)これによりて、その豚と、豚よりけがれし者とをこやす 一二四―一二六
されど我等主題を遠く離れたれば、今目をめぐらして正路を見るべし、さらば時とともにみちを短うするをえむ 一二七―一二九
それ天使はかずきはめて多きに達し、人間の言葉も思ひもともなふあたはじ 一三〇―一三二
汝よくダニエールの現はしゝ事を思はゞ、その幾千なることばのうちに定かなる數かくるゝを知らむ 一三三―一三五
彼等はかれらをすべて照らす第一の光を受く、但し受くる状態ありさまに至りては、この光と結び合ふ諸※(二の字点、1-2-22)の輝の如くに多し 一三六―一三八
是においてか、情愛は會得ゑとくの作用にともなふがゆゑに、かれらのうちのうるはしき愛そのあつ微温ぬるさを異にす 一三九―一四一
見よ今永遠とこしへの力の高さと廣さとを、そはこのもの己が爲にかく多くの鏡を造りてそれらの中に碎くれども 一四二―一四四
一たるを失はざること始めの如くなればなり。 一四五―一四七
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   第三十曲

第六時はおよそ六千ミーリアのかなたに燃え、この世界の陰傾きてはや殆んど水平をなすに 一―三
いたれば、いや高き天の中央たゞなか白みはじめて、まづとある星、この世に見ゆる力を失ひ 四―六
かくて日のいとあざやかなる侍女はしためのさらに進み來るにつれ、天は光より光と閉ぢゆき、そのいと美しきものにまで及ぶ 七―九
己が包むものに包まると見えつゝわが目に勝ちし一點のまはりに永遠とこしへに舞ふかの凱旋も、またかくの如く 一〇―一二
次第に消えて見えずなりき、是故に何をも見ざることゝ愛とは、我をうながして目をベアトリーチェに向けしむ 一三―一五
たとひ今にいたるまで彼につきていひたる事をみな一の讚美の中に含ましむとも、わがつとめを果すに足らじ 一六―一八
わが見し美は、あにたゞ人の理解さとりゆるのみならんや、我誠に信ずらく、これを悉く樂しむ者その造主つくりぬしの外になしと 一九―二一
げにこゝにいたり我は自らわが及ばざりしを認む、喜曲または悲曲の作者もそのテーマの難きに處してかくくぢけしことはあらじ 二二―二四
そは日輪の、いと弱き視力におけるごとく、かのうるはしき微笑の記憶は、わが心より心その物を掠むればなり 二五―二七
この世にはじめて彼の顏を見し日より、かく視るにいたるまで、我たえず歌をもてこれにともなひたりしかど 二八―三〇
今は歌ひつゝその美を追ひてさらに進むことかなはずなりぬ、いかなる藝術の士も力盡くればまたかくの如し 三一―三三
さてかれは、かく我をしてわが喇叭らつぱ(こはその難き歌をはや終へんとす)よりなほ大いなる音にかれをゆだねしむるほどになりつゝ 三四―三六
き導者に似たる動作みぶりと聲とをもて重ねていふ。われらはいと大いなる體を出でゝ、純なる光の天に來れり 三七―三九
この光は智の光にて愛これに滿ち、この愛はまことさいはひの愛にて悦びこれに滿ち、この悦び一切の樂しみにまさる 四〇―四二
汝はこゝにて天堂の二隊ふたていくさをともに見るべし、しかしてその一隊ひとてをば最後をはり審判さばきの時汝に現はるゝその姿にて見む。 四三―四五
俄にひらめ電光いなづまが、物見る諸※(二の字点、1-2-22)の靈を亂し、いと強き物の與ふる作用はたらきをも目より奪ふにいたるごとく 四六―四八
生くる光わが身のまはりを照らし、そのかゞやき※(「巾+白」、第4水準2-8-83)かほおほひをもて我を卷きたれば、何物も我に見えざりき 四九―五一
この天をしづむる愛は、常にかゝる會釋ゑしやくをもて己がもとよろこび迎ふ、これ蝋燭をその焔にふさはしからしめん爲なり。 五二―五四
これらのつゞまやかなる言葉わが耳に入るや否や、我はわが力の常よりも増しゐたるをさとりき 五五―五七
しかして新しき視力わがうちに燃え、いかなる光にてもわが目の防ぎえざるほどあざやかなるはなきにいたれり 五八―六〇
さて我見しに、河のごとき形の光、たへなる春をゑがきたる二つの岸の間にありていとつよく輝き 六一―六三
この流れよりは、諸※(二の字点、1-2-22)の生くる火出でゝ左右の花のなかに止まり、さながら紅玉あかだま黄金こがねはさむるに異ならず 六四―六六
かくて香に醉へるごとく再びしき淵に沈みき、しかして入る火と出づる火と相亞あひつげり 六七―六九
汝が見る物のことを知らんとて今汝を燃しかつうながす深き願ひは、そのいよ/\切なるに從ひいよ/\わが心にかなふ 七〇―七二
されどかゝるかわきをとゞむるにあたり、汝まづこの水を飮まざるべからず。わが目の日輪かく我にいひ 七三―七五
さらに加ふらく。河、入り出る諸※(二の字点、1-2-22)たま、及び草の微笑ほゝゑみは、その眞状まことのさまあらかじめ示すかたちなり 七六―七八
こはこれらの物その物のかたきゆゑならず、汝に缺くるところありて視力未ださまで強からざるによる。 七九―八一
常よりもいと遲く目を覺しゝ嬰兒をさなごが、顏を乳のかたにむけつゝ身を投ぐるはやささへ 八二―八四
目をばまさる鏡とせんとてわがかの水(人をしてそのなかにて優れる者とならしめん爲流れいづる)のかたに身をかゞめしその早さにはかじ 八五―八七
しかしてわがまぶたふちこの水を飮める刹那せつなに、その長き形は、變りてまるく成ると見えたり 八八―九〇
かくてあたかも假面めんかうむれる人々が、己を隱しゝかりの姿を棄つるとき、前と異なりて見ゆる如く 九一―九三
花も火もさらに大いなる悦びに變り、我はあきらかに二組の天の宮人みやびと達を見たり 九四―九六
あゝまことの王國の尊き凱旋を我に示せる神の輝よ、願はくは我に力を與へて、わがこれを見し次第を言はしめよ 九七―九九
かしこに光あり、こは造主つくりぬしをばかの被造物つくられしもの即ち彼を見るによりてのみその平安を得る物に見えしむる光にて 一〇〇―一〇二
その周邊まはりを日輪の帶となすともゆるきに過ぐと思はるゝほど廣く圓形まるがたに延びをり 一〇三―一〇五
そが見ゆるかぎりはみな、プリーモ・モービレの頂より反映てりかへ一線ひとすぢの光(かの天この光より生命いのちと力とを受く)より成る 一〇六―一〇八
しかしてをかが、あをくさや花に富める頃、わが飾れるさまを見ん爲かとばかり、己が姿をそのふもとの水にうつすごとく 一〇九―一一一
すべてわれらのうち天に歸りたりし者、かの光の上にありてこれをかこめぐりつゝ、千餘の列より己をうつせり 一一二―一一四
そのいと低ききださへかく大いなる光を己が中に集むるに、花片はなびら果るところにてはこの薔薇の廣さいかばかりぞや 一一五―一一七
わが視力みるちからは廣さ高さのために亂れず、かの悦びの量と質とをすべてとらへき 一一八―一二〇
近きも遠きもかしこにては加へじかじ、神の親しくしろしめし給ふ處にては自然ののりさらに行はれざればなり 一二一―一二三
きだまた段と延びをり、とこしへに春ならしむる日輪にむかひて讚美のを放つ無窮の薔薇の黄なるところに 一二四―一二六
ベアトリーチェは、あたかも物言はんと思ひつゝ言はざる人の如くなりし我を惹行ひきゆき、さていひけるは。見よ白衣びやくえむれのいかばかり大いなるやを 一二七―一二九
見よわれらの都のその周圍まはりいかばかり廣きやを、見よわれらの席のふさがりて、この後こゝに待たるゝ民いかばかり數少きやを 一三〇―一三二
かの大いなる座、即ちその上にはや置かるゝ冠の爲汝が目をとむる座には、汝の未だこの婚筵こんえんつらなりて食せざるさきに 一三三―一三五
尊きアルリーゴの魂(下界に帝となるべき)坐すべし、彼はイタリアを直くせんとてその備へのかしこに成らざる先に行かむ 一三六―一三八
汝等は無明の慾に迷ひ、あたかも死ぬるばかりにゑつゝ乳母めのとを逐ひやる嬰鬼をさなごの如くなりたり 一三九―一四一
しかしてあらはにもひそかにも彼と異なる道を行く者、その時神のつかさをさたらむ 一四二―一四四
されど神がこの者に聖なるつとめを許し給ふはその後たゞ少時しばしのみ、彼はシモン・マーゴの己が報いをうくる處に投げ入れられ 一四五―一四七
かのアラーエアびとをして愈※(二の字点、1-2-22)深く沈ましむべければなり。 一四八―一五〇
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   第三十一曲

クリストの己が血をもて新婦はなよめとなしたまへる聖軍は、かく純白の薔薇の形となりて我に現はれき 一―三
されど殘の一軍ひとて(これが愛を燃すものゝ榮光と、これをかく秀でしめし威徳とを、飛びつゝ見かつ歌ふところの)は 四―六
蜂の一むれが、或時は花の中に入り、或時はその勞苦のあぢの生ずるところに歸るごとく 七―九
かのいと多くの花片はなびらにて飾らるゝ大いなる花の中にくだり、さて再びかしこより、その愛の常に止まる處にのぼれり 一〇―一二
かれらの顏はみな生くる焔、翼は黄金こがねにて、そのほかはいかなる雪も及ばざるまで白かりき 一三―一五
席より席と花の中にくだる時、かれらは脇をあふぎて得たりし平和と熱とを傳へたり 一六―一八
またかく大いなるむれ飛交とびかはしつゝ上なる物と花の間をへだつれども、目も輝もこれに妨げられざりき 一九―二一
そは神の光宇宙をばその功徳に準じてつらぬき、何物もこれが障礙しょうがいとなることあたはざればなり 二二―二四
この安らけき樂しき國、ふるき民新しき民の群居むれゐる國は、目をも愛をも全く一の目標めあてにむけたり 二五―二七
あゝ唯一たゞひとつの星によりてかれらの目に閃きつゝかくこれを飽かしむる三重みへの光よ、願はくはわが世の嵐を望み見よ 二八―三〇
未開の人々、エリーチェがその愛兒いとしごとともにめぐりつゝ日毎ひごとおほかたより來り 三一―三三
ローマとそのいかめしきわざ――ラテラーノが人間の爲すところのものに優れる頃の――とを見ていたく驚きたらんには 三四―三六
人の世より神の世に、時より永劫に、フィオレンツァより、正しきすこやかなる民のもとに來れる我 三七―三九
あにいかばかりの驚きにてか滿されざらんや、げに驚きと悦びの間にありて、我は聞かず言はざるを願へり 四〇―四二
しかして巡禮が、その誓願をかけし神殿みやの中にてあたりを見つゝ心を慰め、はやそのさまを人に傳へんと望む如く四二
我は目をかの生くる光に馳せつゝ、諸※(二の字点、1-2-22)きだ沿ひ、或ひは上或ひは下或ひは周圍まはりにこれを移し 四六―四八
神の光や己が微笑ほゝゑみよそはれ、愛のすゝむる諸※(二の字点、1-2-22)の顏と、すべてのつゝしみにて飾らるゝ諸※(二の字点、1-2-22)擧動ふるまひとを見たり 四九―五一
おしなべての天堂の形をわれ既に悉く認めたれど、未だそのいづれのところにも目をゑざりき 五二―五四
かくて新しき願ひに燃され、我はわが心に疑ひをいだかしめし物につきてわが淑女に問はんため身をめぐらせるに 五五―五七
わがこゝろざしゝ事我にのぞみし事と違へり、わが見んと思ひしはベアトリーチェにてわが見しは一人ひとりおきななりき、その衣は榮光の民の如く 五八―六〇
目にも頬にも仁愛の悦びあふれ、その姿は、やさしき父たるにふさはしきまで慈悲深かりき 六一―六三
何處いづこにありや。我は直にかくへり、是においてか彼。汝の願ひを滿さんためベアトリーチェ我をしてわが座を離れしむ 六四―六六
汝仰ぎてかの最高いとたかきだより第三に當る圓を見よ、さらば彼をその功徳によりてえたる寶座くらゐの上にて再び見む。 六七―六九
我答へず、目を擧げて淑女を見しに、永遠とこしへの光彼より反映てりかへしつゝその冠となりゐたり 七〇―七二
人の目いかなる海の深處ふかみに沈むとも、いかづちの鳴るいと高きところよりその遠くへだたること 七三―七五
わが目の彼處かしこにてベアトリーチェを離れしに及ばじ、されど是我にかゝはりなかりき、そはその姿あひだまじる物なくしてわがもとに下りたればなり 七六―七八
あゝわが望みを強うする者、わが救ひのために忍びて己が足跡あしあとを地獄に殘すにいたれる淑女よ 七九―八一
わが見しすべての物につき、我は恩惠めぐみと強さとを汝の力汝の徳よりいづと認む 八二―八四
汝はふさはしき道と方法てだてとを盡し、我を奴僕ぬぼくつとめより引きてしかして自由に就かしめぬ 八五―八七
汝のいやしゝわが魂が汝のこゝろにかなふさまにて肉體より解かるゝことをえんため、願はくは汝の賜をわがうちまもれ。 八八―九〇
我かくへり、また淑女は、かのごとく遠しと見ゆる處にてほゝゑみて我を、その後永遠とこしへの泉にむかへり 九一―九三
聖なる翁曰ふ。汝の覊旅たびぢを全うせんため(願ひと聖なる愛とはこのために我をつかはしゝなりき) 九四―九六
目をあまねくこの園の上にせよ、これを見ば汝の視力は、神の光を分けていよ/\遠くのぼるをうるべければなり 九七―九九
またわが全く燃えつゝ愛する天の女王、われらに一切の恩惠めぐみを與へむ、我は即ち彼に忠なるベルナルドなるによりてなり。 一〇〇―一〇二
わがヴェロニカを見んとてたとへばクロアツィアより人の來ることあらんに、久しく傳へ聞きゐたるため、その人くことを知らず 一〇三―一〇五
これが示さるゝ間、心の中にていはむ、わが主ゼス・クリスト眞神まことのかみよ、さてはかゝる御姿おんすがたにてましましゝかと 一〇六―一〇八
現世このよにて默想のうちにかの平安を味へる者の生くる愛を見しとき、我またかゝる人に似たりき 一〇九―一一一
彼曰ふ。恩惠めぐみの子よ、目を低うして底にのみ注ぎなば、汝この法悦のさまを知るをえじ 一一二―一一四
されば諸※(二の字点、1-2-22)の圈を望みてそのいと遠きものに及べ、この王國の從ひ事へまつる女王の、坐せるを見るにいたるまで。 一一五―一一七
われ目を擧げぬ、しかしてたとへばあしたには天涯の東のかたが、日の傾く方にまさるごとく 一一八―一二〇
我は目にて(溪より山は行くかとばかり)ふちの一部が光において殘るすべての頂に勝ちゐたるを見たり 一二一―一二三
またたとへば、フェトンテのあつかひかねし車のながえの待たるゝ處はいと強く燃え、そのかなたこなたにては光衰ふるごとく 一二四―一二六
かの平和の焔章旗オリアヒアムマは、その中央たゞなかつよくかゞやき、左右にあたりて焔一樣に薄らげり 一二七―一二九
しかしてかの中央たゞなかには、光もわざも各異なれる千餘の天使、翼をひらきて歡び舞ひ 一三〇―一三二
すべての聖者達の目の悦びなりし一の美、かれらの舞ふを見歌ふを聞きてほゝゑめり 一三三―一三五
われたとひ想像におけるごとく言葉に富むとも、その樂しさの萬分一まんぶいちをもあえて述ぶることをせじ 一三六―一三八
ベルナルドは、その燃ゆる愛の目的めあてにわが目のせちに注がるゝを見て、己が目をもいとなつかしげにこれにむけ 一三九―一四一
わが目をしていよ/\見るの願ひに燃えしむ 一四二―一四四
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   第三十二曲

愛の目を己が悦びにとめつゝ、かの默想者もくさうじや、進みて師のつとめをとり、聖なる言葉にてひけるは 一―三
マリアのふさぎて膏あぶらぬりし疵――これを開きこれを深くせし者はその足元なるいと美しき女なり 四―六
第三の座より成る列の中、この女の下には、汝の見るごとく、ラケールとベアトリーチェと坐す 七―九
サラ、レベッカ、ユディット、及び己がとがをいたみて我を憐みたまへといへるその歌人うたびと曾祖母そうそぼたりし女が 一〇―一二
列より列と次第をたてゝ下に坐するを汝見るべし(我その人々の名を擧げつゝ花片はなびらより花片と薔薇を傳ひて下るにつれ) 一三―一五
また第七のきだより下には、この段にいたるまでの如く、希伯來人エブレオびとの女達相續きて花のすべての髮を分く 一六―一八
そは信仰がクリストを見しさまに從ひ、かれらはこの聖なるきざはしをわかつ壁なればなり 一九―二一
此方こなた、即ち花の花片はなびらのみなまつたきところには、クリストの降り給ふを信ぜる者坐し 二二―二四
彼方かなた、即ち諸※(二の字点、1-2-22)の半圓の、空處にたるゝところには、降り給へるクリストに目をむけし者坐す 二五―二七
またこなたには、天の淑女の榮光の座とその下の諸※(二の字点、1-2-22)の座とがかく大いなるへだてとなるごとく 二八―三〇
むかひかたには、常に聖にして、曠野、殉教、つい二年ふたとせの間地獄にへしかの大いなるジョヴァンニの座またこれとなり 三一―三三
彼の下にフランチュスコ、ベネデット、アウグスティーノ、及びその他の人々さだめによりてかくへだてて、圓より圓に下りて遂にこの處にいたる 三四―三六
いざ見よ神のたふとき攝理を、そは信仰の二の姿相等しくこの園に滿つべければなり 三七―三九
また知るべし、ふたつ區劃しきりすぢなかばにてきだより下にある者は、己が功徳によりてかしこに坐するにあらず 四〇―四二
他人ひとの功徳によりて(但し或る約束の下に)しかすと、これらは皆自ら擇ぶまことの力のあらざる先に解放たれし靈なればなり 四三―四五
汝よくかれらを見かれらに耳を傾けなば、顏やをさなき聲によりてよくこれをさとるをえむ 四六―四八
今や汝あやしみ、あやしみてしかして物言はず、されどさとき思ひに汝のめらるゝ強ききづなを我汝の爲に解くべし 四九―五一
※(二の字点、1-2-22)そも/\この王國廣しといへども、その中には、悲しみもかわきえもなきが如く、偶然の事ひとつだになし 五二―五四
そは汝の視る一切の物、永遠とこしへ律法おきてによりて定められ、指輪はこゝにて、まさしく指にへばなり 五五―五七
されば急ぎてまことの生に來れるこの人々のこゝに受くるさいはひに多少あるも故なしとせじ 五八―六〇
いかなる願ひも敢てまたさらに望むことなきまで大いなる愛と悦びのうちにこの國ををやすんじたまふ王は 六一―六三
己が樂しき聖顏みかほのまへにてすべての心を造りつゝ、聖旨みむねのまゝに異なる恩惠めぐみを與へ給ふ、汝今この事あるをもて足れりとすべし 六四―六六
しかしてこは定かに明らかに聖書にしるさる、即ち母の胎内にて怒りを起しゝ雙兒ふたごのことにつきてなり 六七―六九
是故にかゝる恩惠めぐみの髮の色の如何に從ひ、いと高き光は、これにふさはしき冠とならざるをえじ 七〇―七二
さればかれらは、己が行爲おこなひの徳によらず、たゞ最初の視力の鋭さ異なるによりてその置かるゝきだを異にす 七三―七五
世の未だ新しき頃には、罪なき事に加へてたゞ兩親ふたおやの信仰あれば、げに救ひをうるに足り 七六―七八
第一の世終れる後には、男子なんしは割禮によりてその罪なき羽に力を得ざるべからざりしが 七九―八一
恩惠めぐみの時いたれる後には、クリストの全き洗禮バッテスモを受けざる罪なき稚兒をさなごかの低き處にめられき 八二―八四
いざいとよくクリストに似たる顏をみよ、その輝のみ汝をしてクリストを見るをえしむればなり。 八五―八七
我見しに、諸※(二の字点、1-2-22)の聖なる心(かの高き處をわけて飛ばんために造られし)のもたらす大いなる悦びかの顏に降注ふりそゝぎたり 八八―九〇
げに先にわが見たる物一としてこれの如く驚をもてわが心を奪ひしはなく、かく神に似しものを我に示せるはなし 九一―九三
しかしてさきに彼の上に降れる愛、さちあれマリア恩惠めぐみ滿つ者よと歌ひつゝ、その翼をかれの前にひらけば 九四―九六
天の宮人みやびと達四方よりこの聖歌に和し、いづれの姿も是によりていよ/\きらびやかになりたりき 九七―九九
あゝ永遠とこしへさだめによりて坐するそのうるはしき處を去りつゝ、わがためにこゝに下るをいとはざる聖なる父よ 一〇〇―一〇二
かのいたく喜びてわれらの女王の目に見入り、燃ゆと見ゆるほどこれを慕ふ天使は誰ぞや。 一〇三―一〇五
あたかも朝の星の日におけるごとくマリアによりて美しくなれる者の教へを、我はかく再びへり 一〇六―一〇八
彼我に。天使または魂にあるをうるかぎりのつよさとみやびとはみな彼にあり、われらもまたその然るをねがふ 一〇九―一一一
そは神の子がわれらの荷をはんと思ひ給ひしとき、棕櫚しゆろを持ちてマリアのもとに下れるものは彼なればなり 一一二―一一四
されどいざわが語り進むにつれて目を移し、このいと正しき信心深き帝國の大いなる高官つかさ達を見よ 一一五―一一七
かの高き處に坐し、皇妃にいと近きがゆゑにいとさいはひなるふたりのものは、この薔薇の二つの根に當る 一一八―一二〇
左の方にて彼と並ぶは、きもふとく味へるため人類をしてかゝるにがさを味ふにいたらしめし父 一二一―一二三
右なるは、聖なる寺院の古の父、このづべき花のふたつかぎをクリストよりゆだねられし者なり 一二四―一二六
また槍と釘とによりて得られし美しき新婦はなよめのその時々のさちなさをば、己が死なざるさきにすべて見し者 一二七―一二九
これが傍に坐し、左の者の傍には、恩を忘れ心つねなくかつそむやすき民マンナに生命いのちさゝへし頃かれらをひきゐし導者坐す 一三〇―一三二
ピエートロと相對あひむかひてアンナの坐するを見よ、彼はいたくよろこびて己がむすめを見、オザンナを歌ひつゝなほ目を放たじ 一三三―一三五
またいと大いなる家長いへをさむかひには、汝がせ下らんとて目をれしとき汝の淑女をたしめしルーチア坐す 一三六―一三八
されど汝の睡りの時く過ぐるがゆゑに、あたかも縫物師ぬひものしのその織物きれあはせて衣を造る如く、我等こゝにことばとゞめて 一三九―一四一
目を第一の愛にむけむ、さらば汝は、彼のかたを望みつゝ、汝の及ぶかぎり深くその輝を見るをうべし 一四二―一四四
しかはあれ、汝己が翼を動かし、進むと思ひつゝ或ひは退しりぞなからんため、祈りによりて、恩惠めぐみを受ること肝要なり 一四五―一四七
汝を助くるをうる淑女の恩惠めぐみを、また汝は汝の心のわが言葉より離れざるほど、愛をもて我にともなへ。 一四八―一五〇
かくいひ終りて彼この聖なる祈りをさゝぐ 一五一―一五三
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   第三十三曲

處女をとめなる母わが子のむすめ被造物つくられしものにまさりて己を低くししかして高くせらるゝ者、永遠とこしへ聖旨みむねかた目的めあてよ 一―三
人たるものをたふとくし、これが造主つくりぬしをしてこれに造らるゝをさへ厭はざるにいたらしめしは汝なり 四―六
汝の胎用にて愛はあらたに燃えたりき、そのあつさによりてこそ永遠とこしへの平和のうちにこの花かくは咲きしなれ 七―九
こゝにては我等にとりて汝は愛の亭午まひる燈火ともしび、下界人間のなかにては望みの活泉いくるいづみなり 一〇―一二
淑女よ、汝いと大いにしていと強し、是故に恩惠めぐみを求めて汝に就かざる者あらば、これが願ひは翼なくして飛ばんと思ふにことならじ 一三―一五
汝の厚き志はたゞ請ふ者をのみ助くるならで、自ら進みて求めに先んずること多し 一六―一八
汝に慈悲あり、汝に哀憐惠與あいれんえいよあり、被造物つくられしもののうちなる善といふ善みな汝のうちに集まる 一九―二一
今こゝに、宇宙のいと低き沼よりこの處にいたるまで、靈の三界を一々ひとつ/″\見し者 二二―二四
伏して汝に請ひ、恩惠めぐみによりて力をうけつゝ、終極いやはての救ひの方にいよ/\高くその目を擧ぐるをうるを求む 二五―二七
また彼の見んことを己が願ふよりも深くは、己自ら見んと願ひし事なき我、わが祈りを悉く汝に捧げかつその足らざるなきを祈る 二八―三〇
願はくは汝の祈りによりて浮世ふせい一切の雲を彼より拂ひ、かくして彼にこよなき悦びを現はしたまへ 三一―三三
我またさらに汝に請ふ、思ひの成らざるなき女王よ、かく見まつりて後かれの心を永く健全すこやかならしめたまへ 三四―三六
願はくは彼を護りて世の雜念に勝たしめ給へ、見よベアトリーチェがすべての聖徒達と共にわが諸※(二の字点、1-2-22)の祈りをたすけ汝に向ひて合掌するを。 三七―三九
神にでられ尊まるゝ目は、祈れる者の上に注ぎて、信心深き祈りのいかばかりかの淑女の心にかなふやを我等に示し 四〇―四二
永遠とこしへの光にむかへり、げに被造物つくられしものの目にてそのうちをかく明らかに見るはなしと思はる 四三―四五
また我は凡ての望みのはてに近づきゐたるがゆゑに、燃ゆる願ひおのづから心の中にてむをおぼえき 四六―四八
ベルナルドは、我をして仰がしめんとて、微笑ほゝゑみつゝ表示しるしを我に與へしかど、我は自らはやその思ふごとくなしゐたり 四九―五一
そはわが目明らかになり、本來まことなる高き光の輝のうちにいよ/\深く入りたればなり 五二―五四
さてこの後わが見しものは人の言葉より大いなりき、言葉はかゝる姿に及ばず、記憶はかゝる大いさに及ばじ 五五―五七
我はあたかも夢に物を見てしかして醒むれば、餘情のみさだかに殘りて他は心に浮び來らざる人の如し 五八―六〇
そはわが見しもの殆んどこと/″\く消え、これより生るゝうるはしさのみ今猶心にしたゝればなり 六一―六三
雪、日に溶くるも、シビルラの託宣、輕き木葉このはの上にて風に散り失するも、またかくやあらむ 六四―六六
あゝ至上の光、いと高く人の思ひを超ゆる者よ、汝の現はれしさまをすこしく再びわが心に貸し 六七―六九
わが舌を強くして、汝の榮光のきらめきを、一なりとも後代のちのよの民に遺すをえしめよ 七〇―七二
そはいさゝかわが記憶にうかび、すこしくこの詩に響くによりて、汝の勝利はいよ/\よく知らるゝにいたるべければなり 七三―七五
わが堪へし活光いくるひかりするどさげにいかばかりなりしぞや、さればもしこれを離れたらんには、思ふにわが目くるめきしならむ 七六―七八
想ひ出れば、我はこのためにこそ、いよ/\心をかたうしてへ、遂にわが目を無限かぎりなき威力ちからと合はすにいたれるなれ 七九―八一
あゝ我をして視る力の盡くるまで、永遠とこしへの光の中に敢て目をそゝがしめし恩惠めぐみはいかにゆたかなるかな 八二―八四
我見しに、かの光の奧には、あまねく宇宙にひらとなりて分れ散るもの集り合ひ、愛によりてひとつまきつゞられゐたり 八五―八七
實在、偶在、及びその特性相まじれども、その混るさまによりて、かのものはたゞ單一の光に外ならざるがごとくなりき 八八―九〇
萬物をとゝのへこれをかく結び合はすものをば我は自ら見たりと信ず、そはこれをいふ時我わが悦びのいよ/\さはなるを覺ゆればなり 九一―九三
たゞ一の瞬間またゝくまさへ、我にとりては、かのネッツーノをしてアルゴの影に驚かしめし企圖くはだてにおける二千五百年よりもなほ深き睡りなり 九四―九六
さてかくわが心は全く奪はれ、固く熟視みつめて動かず移らず、かつ視るに從つていよ/\燃えたり 九七―九九
かの光にむかへば、人甘んじて身をこれにそむけつゝ他の物を見るをえざるにいたる 一〇〇―一〇二
これ意志の目的めあてなる善みなこのうちに集まり、このそとにては、こゝにてまつたき物も完からざるによりてなり 一〇三―一〇五
今やわがことばは(わが想起おもひいづることにつきてさへ)、まだ乳房ちぶさにて舌を濡らす嬰兒をさなごことばよりもなほらじ 一〇六―一〇八
わが見し生くる光の中にさま/″\の姿のありし爲ならず(この光はいつも昔と變らじ) 一〇九―一一一
わが視る力の見るにつれて強まれるため、たゞ一の姿は、わが變るに從ひ、さま/″\に見えたるなりき 一一二―一一四
高き光の奧深くしてあざやかなるがなかに、現はれしみつの圓あり、その色三にして大いさ同じ 一一五―一一七
その一はイリのイリにおけるごとく他の一の光をうけて返すと見え、第三なるは彼方かなた此方こなたより等しく吐かるゝ火に似たり 一一八―一二〇
あゝわがおもひくらぶればことばの足らず弱きこといかばかりぞや、而してこの想すらわが見しものに此ぶればこれをすこしといふにも當らじ 一二一―一二三
あゝ永遠とこしへの光よ、己が中にのみいまし、己のみ己を知り、しかして己に知られ己を知りつゝ、愛し微笑ほゝゑみ給ふ者よ 一二四―一二六
反映てりかへす光のごとく汝の生むとみえし輪は、わが目しばしこれをまもりゐたるとき 一二七―一二九
同じ色にて、その内に、人のかたちを描き出しゝさまなりければ、わが視る力をわれすべてこれに注げり 一三〇―一三二
あたかも力を盡して圓をはからんとつとめつゝなほ己がもとむる原理に思ひいたらざる幾何學者きかがくしやの如く 一三三―一三五
我はかの異象いしやうを見、かのかたちのいかにして圓と合へるや、いかにしてかしこにその處を得しやを知らんとせしかど 一三六―一三八
わが翼これにふさはしからざりしに、この時一の光わが心を射てその願ひを滿たしき 一三九―一四一
さてわが高き想像はこゝにいたりて力を缺きたり、されどわが願ひと思ひとは宛然さながら一樣に動く輪の如く、はや愛に※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)めぐらさる 一四二―一四四
日やそのほかのすべての星を動かす愛に。 一四五―一四七
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       註(地、は『神曲(地獄篇)』。淨、は『神曲(淨火篇)』。天、は『神曲(天堂篇)』の略

    第一曲

ダンテ、ベアトリーチェとともに第一天(月)にむかひて昇り、みちすがら淑女の教へを聽く
一―三
【動かす者】神(淨、二五・七〇及び『コンヴィヴィオ』三・一五・一五五以下參照)
【一部に】神の榮光はいたらぬくまなし、されど受くる者の力に從ひその受くる光に多少あり
四―六
【天】エムピレオの天(ダンテがカン・クランデに與ふる書四三八行以下參照)
【知らず】知らざるは忘るればなり、えざるは言葉及ばざれはなり(同上、五七三―五行參照)
七―九
【己が願ひ】神。我等の智その終極の目的なる神に近きがゆゑに神を見、神を知らんとて奧深く進み入るなり
一三―一五
【アポルロ】アポロン、ゼウスとレトの間の子(淨、二〇・一三〇―三二註參照)、こゝにては詩の神として
【愛する桂】アポロン、河神ペネウスの女なるニンファ、ダフネを慕ひてこれを追ふ、ダフネその及ばざるを見、救ひを己が父に請ひ遂に化して桂樹となる。アポロン即ちその枝を抱き樹に接吻くちづけしていふ「われ汝をわが妻となす能はざれば、せめては汝をわが木となさむ、あゝラウロよ、汝は常にわが髮わが琴わが※(「竹かんむり/祿」、第3水準1-89-76)やなぐひかざりとなるべし」云々(オウィディウス『メタモルフォセス』一・四五二以下)。桂は詩人の榮冠なり
一六―一八
地獄、淨火の二篇においてはムーサの助けのみにて足りしかど、天堂篇においてはこれに加へてさらにアポロンの助けを借らざるべからず、これ詩題のいよ/\聖にしていよ/\難きによりてなり
【一の巓】パルナーゾ(パルナッソス)(淨、二・六四―六註參照)に二の峯あること神話に見ゆ(『メタモルフォセス』一・三一六以下等)されどダンテがその一をムーサの、他をアポロンのとゞまる所とせしは、やゝ中古の傳説と異なれり
一九―二一
マルシュアスに勝ちし時のごとき美妙の樂をダンテに奏せしめよとの意。「氣息いきく」は靈感を與ふるなり
【マルシーア】フリュギアのサテュロス、マルシュアス。アテナの棄てし笛を拾ひてこれを吹き、遂にアポロンと技を競べんことを求む。アポロン琴を彈じ歌をうたひてこれに勝ち、その僭上をにくむのあまりこれが身の皮を剥ぐ(『メタモルフォセス』六・三八二以下參照)
二二―二四
【汝我をたすけ】原、「汝己を我に貸し」
二五―二七
【詩題と汝】詩題の崇高と汝の祐助
二八―三〇
【チェーザレ】皇帝。桂はまた凱旋のしるしとして、皇帝武將等の冠となれり
【人の思ひの】人、俗情に役せられ、かゝる榮冠をうるにいたること甚だまれなり
三一―三三
【ペネオの女の葉】桂の葉。ペネオはペネウス。
【デルフォの神】アポロン。デルポイ(デルフォ)はパルナッソスの麓の町にてアポロンの聖地なり。スカルタッツィニ曰く、「詩は形さま/″\なれどおしなべて人間の慰藉となるものなれば、悦び多しといへるなり」と(?)桂冠を望み求むるものあれば、アポロンの喜び愈※(二の字点、1-2-22)深し
三四―三六
【小さき火花に】ダンテの詩に勵まされてダンテよりもさらに大いなる詩人いで、アポロンの助けにより、さらによく天堂の歌をうたふことあるべきをいへり
【チルラ】アポロン。但しパルナッソスの二の峯の名一定せざれば、ダンテがキルラ(チルラ)をその一と見做してかく曰へるか、或ひはパルナッソスより程遠からぬキルラの町(同じくアポロンの聖地)を指して曰へるか明らかならず
三七―三九
【世界の燈】太陽。四時の變遷に從つて地平線上多くの異なる點よりあらはる
【四の圈】春分に至れば太陽は四の圈即ち地平線、黄道、赤道、及び二分徑圈相交叉して三の十字を造る一點よりいづ(ムーア『ダンテ研究』第三卷六〇頁以下參照)
註釋者或ひは曰。四の圈は四大徳(淨、一・二二―四註參照)の象徴にて三の十字は教理の三徳の象徴なりと
四〇―四二
【道まさり】春日は四季を通じて最も樂しく麗はしければ
【星】白羊宮の星。そのまさるは地上に及ぼす影響の善きをいふ、天地の創造せられし時、太陽は白羊宮にありてその運行を始めしなり(地、一・三七―四五註參照)
【世の蝋】太陽が光熱によりてその力を世に及ぼしこれに活力を與へこれを幸ならしむることの愈※(二の字点、1-2-22)著しきを、印象かたを蝋の上に現はすことのあざやかなるにたとへしなり
四三―四五
【かしこ】野火
【こゝ】わが世界
【殆ど】太陽白羊宮にあれども、はや春分(三月二十一日)を過ぎて北に向へるがゆゑにかくいへり(今は四月十三日)
【かの半球】南半球。今は淨火の正午
【その他】北半球。イエルサレムの夜半
ダンテが樂園にエウノエの水を飮みしは正午の事なり(淨、三三・一〇三―五)、しかして水を飮みて後直ちに月天に向へるなり(スカルタッツィニ註參照)、さればこの一聯の前半は單に日出時の太陽の位置をいへるものにて天に昇らんとするの時をいへるものにはあらず
ダンテは日暮れて後(絶望を表はす)地獄に入り、夜の明くる頃(希望を表はす)淨火に達し、正午(完全を表はす)に天に向ひて登れり(ムーアの『ダンテ研究』第二卷二六五頁參照)
四六―四八
【左に】東(淨、二九・一〇―一二、同三二・一六―八參照)より轉じて北に。南半球正午の太陽は東にむかふ者の左にあり
【鷲】その眼よく太陽を直視すと信ぜられたればなり
四九―五一
第一の光線は投射線にて第二の光線は反射線なり。光線光澤ある物體に當り反射して元に還ることあたかも目的地に達しゝ旅客の再び郷に歸るに似たり
五二―五四
ベアトリーチェが太陽を見しことダンテの同感に訴へ、ダンテまたこれに做ふにいたりたれば、前者の動作より後者のそれの生れしこと、なほ反射線の投射線より生るゝ如し
五五―五七
地上の樂園は神が永遠の幸福の契約として人類に與へ給ひし處なれば(淨、二八・九一―三參照)、かの地特殊の神恩により、北半球の世界にては人の爲し能はざる事にて樂園に爲すをうること多し。ダンテが太陽を直視しえしもその一例なり、こはいふまでもなく人の罪淨まりてよく神恩の光を仰ぐをうるの意を寓す
六一―六三
光の俄に増したるは既に樂園を離れて急速に昇りゐたればなり
【者】神
六四―六六
【永遠の輪】諸天
六七―六九
ダンテ未だ長く太陽を見るをえざれど、ベアトリーチェの姿を通じて神恩彼の上に注ぎ、彼を超人の境に入らしむ
【グラウコ】グラウコス。エウボイアの漁夫、嘗て海濱に置きたる魚が、あたりの草に觸るゝとともに俄に勢を得躍りて海に入るを見て自らまたその草を噛みしに、是時性情忽焉として變じ、續いて海に入りて海神となれり(『メタモルフォセス』一三・八九八以下參照)
七〇―七二
【是故に】神恩によりて他日かゝる超人の經驗を自ら有するにいたる人々今はたゞこのグラウコスの例をもて足れりとすべし
七三―七五
【愛】神
【我は】我はたゞわが靈魂のみにて天に昇れるか、た肉體と共にありてしかせるか(コリント後、一二・三參照)
【最後に造りし】形體既に成りて後、神の嘘入ふきいれ給ふ新しき靈(淨、二五・六七以下參照)。但し Novellamente を新たに、即ち自然の作用によらずして神の新たに造り給へる義に解する人あり
【聖火】ベアトリーチェの姿に映じゝ神恩の光
七六―七八
【慕はる】諸天の永遠に運行するは神を慕ひ、神と相結ばん爲なり(『コンヴィヴィオ』二・四・一九以下參照)
【調】運行によりて諸天の間に生ずる美妙の音調。ダンテは主としてキケロの説に據れり。頒つは諸天の間に頒つなり、整ふは各天各種の音をよく和合せしむるなり
七九―八一
註釋者曰。ダンテ既に火焔界に達したるが故に光の天に漲れるを見たりと。されどこの一聯によるも次に見ゆるベアトリーチェの説明によるも、ダンテが果して火焔界を意味せるや或ひはたゞ昇ること早く從つて太陽に近づくこと早きがゆゑにかくいへるや明らかならず、パッセリーニ(G.L.Passerini)註參照
八五―八七
【我の未だ】原文、「我の問はんとて(わが口を啓かざる)さきに」
九一―九三
【己が處】火焔界
【これに】汝の處に、即ち天に。人の魂天よりいでゝ天に歸るをいふ
九七―九九
【輕き物體】空氣と火
一〇三―一〇五
宇宙萬物は皆その間に秩序を有す、この秩序ありてこそ萬物調和し、はじめて茲に完全なる神の姿を現はすなれ
一〇六―一〇八
天使や人類の如き被造物は、この秩序において、神の大能及び大智の印跡を認む
【目的と】この秩序の終極の目的は神にあり、即ち萬物を神の如くならしむるにあり
一〇九―一一一
かゝる秩序の中に、凡ての被造物は皆その目的めあてなる神を望めど、天與の位置に高低ありそのつとめまた皆異なれば、火や地球の如く神にいと遠きあり、また諸天使の如く神にいと近きあり
一一二―一一四
萬物皆同じ程度において神に近づく能はず、その本能に導かれて各※(二の字点、1-2-22)適歸するところ(湊)を異にす
【存在の大海】空間
一一五―一一七
この本能あるによりて火は地球と月との間なる火焔界に向ひて昇り、これあるによりて理智なき動物(滅ぶる心)もその生を營み、これあるによりて地球はその各部相結合して離るゝことなし(『コンヴィヴィオ』三・三・五―一三參照)
【相寄せて】重力によりて中心に向ふをいふ
一一八―一二〇
この本能(弓)は理智なきものにのみその作用を及ぼすに非ず、理智あるものにもこれを及ぼす
一二一―一二三
【一の天】エムピレオの天、至高充全の天にして動かず。いと疾くめぐる天はプリーモ・モービレ即ち第九天なり
一二四―一二六
【的】目的めあて。物その處を得て初めて安んず、故に樂しといふ
【弦の力】本能の力
【定れる場所】安住所と定まれるところ
一二七―一二九
たとへば彫刻などにて、美術家の意匠すぐるともその用ゐる材がかゝる意匠を現はすに適せざるため、出來ばえ思はしからぬごとく
一三〇―一三五
神を求むる自然の傾向はなほ美術家のすぐれたる意匠の如し、僞りの快樂に誘はれて人その行方ゆくへを誤るは猶材の惡しくして結果の工夫にはざるごとし
【かく促さる】本能に促されて人自然に天を望めど
【最初の刺戟】即ち本能の刺戟。自由の意志の濫用によりて人を地に向はしむ
【火】電光。火本來の性質に背き、上昇せずして降下するなり
一三九―一四一
【障礙】罪の(淨、三三・一四二―五參照)
【火】火焔界以外にありては火の靜なる事なし。以上ベアトリーチェの言、多くトマス・アクイナスの『神學大全』の所説と一致す、今一々引照せず


    第二曲

第一天(月)に達し、ベアトリーチェまづダンテの爲に月面の斑點に關する原理を説く
一―三
天堂篇の充分なる理解は他の二篇に此し科學並びに宗教上さらに大いなる豫備知識を要求するがゆゑにダンテはこの曲最初の六聯において讀者に警戒を與へたり
四―六
汝等の知識の範圍内に汝等の研究の歩をとゞめ、それより先に進むなかれ、恐らくは力足らざるため汝等この天堂の歌をさとるをえじ
七―九
【わがわたりゆく水】我よりさきに天堂の歌をうたへる人なし
【ミネルヴァ】知慧の女神にて學藝の守護者たり。氣息を嘘くはその徳を風として船を進むるなり
一〇―一二
【天使の糧】この語ヴルガータに見ゆ(詩篇七七・二五)。靈の糧即ち眞の智の義なり(『コンヴィヴィオ』一・一・五一以下參照)。靈界の知識は世人のまことの糧なれども、これに飽くをうるはたゞ天上においてのみ
【項を擧げ】心を向け
一六―一八
【イアソン】(地、一八・八五―七並びに註參照)、イアソン、コルキスにいたり、金の羊毛を與へんことを王アレイエテスに請ふ、王まづ彼をして焔のいきを吐く二匹の牡牛に軛をつけしめかつカドモス(地、二五・九七―九)の殺せる龍の齒をはその耕しゝ處に播かしむ、イアソン、王女メディア(地、一八・九四―六)の妖術により自若としてこの難に當る、見る人驚嘆せざるはなし(『メタモルフォセス』七・一以下參照)
【勇士等】アルゴナウタイ遠征隊に加はれる人々
一九―二一
【神隨の】deiforme 神に似たる。中山昌樹氏の譯語に據れり、神隨の王國はエムピレオの天なり
【本然】本能の力によりて慕ふ心
二二―二四
【弦】noce 弩弓の一部にて彎き張れる弦の當るところ
「止まる」目標に中りて止まるをいふ。原文、逆に「止まり、飛び、弦を離る」とあるは、いづれが早きかわけがたき程なるを表はせるなり、天、二二・一〇九―一一に、原文「指を引きて火に入れんや」とあるに同じ
二五―二七
【奇しき物】月球
二八―三〇
【第一の星】宇宙の中心にある地球より數へて第一に當る星、即ち月
三七―四二
ダンテもし肉體のまゝにて月球に入り而して月面に罅隙を生ぜざりしとせばこは全く不思議の現象にほかならず、二個の物體が同時にかつ同處に存在すること能はざるは是物理の通則なればなり、故にダンテはこの通則より推して、キリストの兼備へ給へる神人兩性の事に及び、これを見、これを知るの願ひ愈※(二の字点、1-2-22)切なるべしといへり
四三―四五
神人の合一等すべて世上の人のたゞ信仰によりてまことと認むる深遠微妙の現象も天においては道理の證明をまたずたゞ直覺によりて人よくさとることをうべし(コリント前、一三・一二參照)
【第一の眞理】人智のおのづから眞と認むるもの、生得の觀念に照して眞と知るもの、自明の眞理
四九―五一
【カイン】月の斑點に關するカイン物語(地、二〇・一二四―六並びに註參照)
五二―五七
【官能の】官能の力によりて知るをえざる事物においては人思ひ誤るともあやしむに足らず、理性もしたゞ官能に信頼せば、超官能の現象に對しその作用を伸ぶること能はざれはなり
五八―六〇
月面に見ゆる斑點の原因を物質の粗密に歸しゝ説。『コンヴィヴィオ』に出づ(二、一四・六九以下)
六四―六六
【第八の天球】恒星天。この天にある多くの星()は、その光の色も度もさま/″\にして一ならじ
六七―六九
もし物體の粗密以外に光の異なる原因なしとせば、これらの星の地上に及ぼす影響はその程度に於て或ひは不同ならんもその性質においては皆同一ならむ
恒星天に光異なる種々の星あるは、月天の光の一樣ならざるに似たり、故にベアトリーチェは後者の事を説かんため例を前者にとれるなり
七〇―七二
しかるに恒星天の諸星は皆その與ふる影響の性質を異にす、知るべし光の異なる原因物體の粗密のみにあらざることを
【形式の原理】Principii formali 物の類別性と勢能とを構成するもの。複數を用ゐしは、たゞ一のみならざればなり
【一】同原理の一なる粗密
七三―七八
斑點もし體の粗なるにもとづくとせば、光の暗き處にては、(一)粗質月球を貫通するか、さらずば(二)粗と密と相重ならむ
【肉體】同一の肉體の中に脂肪と筋肉とあるごとく、月の中に、質の粗なる部分と密なる部分と層を成して相接すべし
【書】紙の重なりて書册となるを、層の重なりて月球となるにたとへしなり
七九―八一
粗質月球を貫通すとせば、日蝕の時、日光その部分を射貫き、世人の目に見ゆるにいたらむ
八五―八七
粗質月球を貫かずは、粗が密の爲に路を遮られて、さらに進む能はざるところ換言すれば粗終りて密始まるところ、即ち粗密相接するところあり
九一―九三
【奧深き】月面より反射せずして月球の内部より反射するがゆゑに、反射の光微かにして斑點爲に生ずと
一〇三―一〇五
中央にありて遠き鏡の反射する光は左右の鏡の反射する光よりその量劣れどこれと質を同うす、されば月球の内部より反射すともその光何ぞ斑點となりてあらはるゝにいたらむ
一〇六―一一一
汝の智既に謬見を去りその名殘をも止めざるにいたりたれば、我今汝にかの斑點の眞の原因を説示すべし
【下にある物】雪に蔽はれゐたる地、但し原語 suggetto を實體(雪の)と解する人あり
【色と冷さ】雪の。ベアトリーチェの言を日光に、ダンテの智を土に、謬見を土の假の色なる白色に、その結果を冷さにたとへしなり
【光】眞理の光
一一二―一一四
【天】エムピレオの天
【一の物體】プリーモ・モービレの天。この天に包まるゝ諸天及び地球がその秩序安寧を保つは、この天がエムピレオの天より受けて有する力による(『コンヴィヴィオ』二・一五・一二二以下參照)
一一五―一一七
恒星天はプリーモ・モービレより受けし力をその中にある(恒星天の中 あれどもこの天と同一ならずして種々の特性を有する)多くの星に傳ふ
【光】vedute 目に映ずる物。星
【本質】恒星。各※(二の字点、1-2-22)その特質を有すればなり。但し七の天の意に解するを得
一一八―一二〇
【目的と種】穀物の成長し實を結びて其目的を果し、その實また種となりて實を結ぶにいたるごとく、恒星天の下なる七の天はその上より受けし力によりて己が特性をとゝのへ己が特殊の存在を保ちつゝさらにその力を下に及ぼす、故にその衷に有する力はくわにしていんなり
一二一―一二三
【宇宙の機關】諸天
【上より受け】その上なる天より力(影響)を受け
【次第を逐ひ】第八天より第一天まで
一二四―一二六
【我を】異本、「今」
【汝の求むる】わがかく論じつゝ月の斑點の眞の原因に到達する次第に注意すべし、さらばこの後わが助けを借らずして自ら眞理を認むるをえむ
一二七―一二九
【動者】天使(『コンヴィヴィオ』二・五・四―八、及び地、七・七三―五並びに註參照)
一三〇―一三二
かの恒星天を見よ、この天はこれを轉らす奧妙の智即ちこの天を司どる天使よりその力を受け、これをその中なる諸※(二の字点、1-2-22)の星に頒ち與ふ
例を恒星天にとれるは類想によること前述のごとし
一三三―一三五
汝等の肉に宿る魂たゞ一なれども、視聽及びその他の官能に應じ肢體の各部に亘りてさま/″\の作用はたらきを現はすごとく
一三六―一三八
第八天を司る天使一なれども、この天の中の星多く、特性異なれば、これらの星に及ぶ天使の力一ならじ
【天を司るもの】inteligenza(了智)聖智、即ち天使
一三九―一四一
諸天を司る諸天使の力相異なるが故に、これらの異なる力がその轉らす諸天と合して生ずる結果同じからず
【生命の】人の生命肉體と結ばる如く
一四二―一四四
力かく一樣ならざれどもいづれも皆悦び多き神のさがより出づるがゆゑに、各※(二の字点、1-2-22)その司る星と合して(混れる力)光り輝くことあたかも燃ゆる瞳の中に喜びのかゞやくごとし
一四五―一四八
斑點の原因はこのまじれる力の相違にて粗密にあらず
力の相違は一天と他の天(星と星)との間に存するのみならず、同一の天のうちにてもまたこれを見るをうべし、月の斑點は月の各部における力の相違にてこの相違は各部その完全の度を異にし天使の力の及ぶこと從つて異なるに基づく


    第三曲

ダンテ月天にあり、誓ひを全うせざりし者の魂にあふ、その一ピッカルダ・ドナーティ、ダンテに己が身の上の事と皇妃コンスタンツェの事とを告ぐ
一―三
【さきに】世にて(淨、三〇・三四以下參照)
【日輪】ベアトリーチェ
一六―一八
【人と泉】泉に映れる己が姿を戀慕へるナルキッソスの傳説を指す(地、三〇―一二七―九註參照)
【誤りの裏】ナルキッソスは影を實物と思ひ誤り、ダンテは實物を影と思ひ誤れり
二二―二四
【光】目の
二五―二七
【汝の足は】汝の思ひは眞理を基礎とせず、たゞ官能に信頼するがゆゑに誤り易し
二八―三〇
【こゝに】聖徒はすべてエムピレオの天にあり、たゞその受くる福の一樣ならざるをダンテに示しかつこれに天上の眞を教ふる便宜上かりに諸天にわかれて詩人の目に現はれしに過ぎず(天、四・二八以下參照)
【長の】影ならぬ
三一―三三
【光】神。眞の光を離るとは眞そのものにまします神を離れて眞にあらざることをいふ義
三四―三六
【最も切に】俗縁の關係上(淨、二三・四六―八註參照)
【魂】フォレーゼ及びコルソ・ドナーティ(淨、二四・八二―七註參照)の姉妹ピッカルダ
【願ひ】ダンテにおいてはピッカルダと語るの願ひ
三七―三九
【甘さ】天上の悦び
【永遠の生命の光によりて】神の光を仰ぎ見て
四三―四五
【己が宮人達】すべて天堂に福を受くる者
【等しきをねがふ】愛は神の愛なり。神は愛にましまし天堂擧りて己の如く愛に燃えんことを願ひ給ふ
四六―四八
【尼】vergine sorella(童貞尼)聖キアーラ(九七―九註參照)派の此丘尼
四九―五一
【球】月天。古説によれば最小の天にしてその運行最遲し
五二―五四
我等はたゞ神がその聖旨みむねのまに/\われらに與へ給ふ福をのみ求むるが故に、神の立て給ふ秩序に從つていかなる程度の福を享くともこれに滿足せざることなし
六四―六六
【さらに多く見】さらに多く天上の福を見かつその福をうくる魂のうちに友をうるを求むること
但し、pi※(グレーブアクセント付きU小文字) vedere を近づきて神を見るの意とし、pi※(グレーブアクセント付きU小文字) farvi amici をいよ/\神と親しむの意とする人多し
スカルタッツィニは amici を前後に通はしめ、前者を舊友と再會する意に、後者を新らしき友を得る意に解せり
七〇―七二
【愛の徳】愛は嫉まず(コリント前、一三・四)
七六―七八
【性】聖徒を完全に神意と適合せしむるものは愛なり
七九―八一
【一となる】神の聖意みこゝろ
八二―八四
【諸天】di soglia in soglia(soglia=soglio)座より座に、即ち天また天と
【王】神。われらのこゝろ聖意みこゝろと適合するにいたらせ給ふ
八五―八七
神の直接または間接(即ち自然を通じて)に造り給ふ宇宙萬物は、その終局の目的、福祉の本源(平和)なる神を望み神に合せんとして進む、ゆゑに神はさながら諸水の四方より注ぎ入る大海に似たり
八八―九〇
いかなる天にある者もみな福を受く、たゞ己が功徳に從ひ、そのうくる福に多少あるのみ
九四―九六
【姿、詞に】動作と言葉とにより。ピッカルダに、その教へを垂れしを謝し、かつ新なる教へを請へり
【いかなる機を】その全うせざりし誓ひの何なるやを聞かんとて
九七―九九
【淑女】聖キアーラ(一一九四―一二五三年)。アッシージの人、同郷の出、聖フランチェスコの高徳を慕ひて遁世しかつその助言を受けて一二一二年童貞院の基を開きその規約を定む
一〇〇―一〇二
【新郎】キリスト(マタイ、九・一五等)。これと起臥を倶にするは、晝夜のわかちなくキリストに奉仕するなり
一〇三―一〇五
【また】またその嚴正なる規約を守りて一生を送らんと誓ひたり
一〇六―一〇八
【人々】ドナーティ家の人々、特にピッカルダの兄弟コルソ
古註によれば、コルソは他の人々と共に尼寺の中に忍び入りてピッカルダを奪ひ、これをフィレンツェの人ロッセルリーニ・デルラ・トーザにとつがしめたりといふ、但し眞僞明らかならず
一〇九―一一一
【すべての光】月天にて最強き光。月天の諸靈のうち徳最も大いなればなるべし
一一二―一一四
【聖なる首※(「巾+白」、第4水準2-8-83)】尼のしるしの面※(「巾+白」、第4水準2-8-83)
一一五―一一七
【良き習】比丘尼の還俗を許さざる
【心の面※(「巾+白」、第4水準2-8-83)を】心はいつも尼にてありたり
一一八―一二〇
【ソアーヴェ】シュヴァーベン、ドイツ西南の一州。ホーエンシュタウフェン王家こゝより出づ
【第二の風】ホーエンシュタウフェン王家の第二の君即ちハインリヒ六世。第一の風はフリートリヒ一世にて第三の風はフリートリヒ二世なり。ブランク(L.G.Blanc)の説によればこれを風といへるはシュヴァーベン家の諸帝の權力猛くして而して永く續かざることあたかも一陣の暴風に似たるがゆゑなり、但し異説多し
【最後の威力】威力は皇帝の意なるべし、最後といへるは、その後皇帝なきにあらざりしも實これにともなはざればなり
【コスタンツァ】コンスタンツェ。シケリアの最初の王ロージエーロ(ルツジエーロ)の末女、一一五四年に生れ、同八五年皇帝ハインリヒ六世の妃となりてフリートリヒ二世を生み、一一九八年に死す
傳説に曰。コンスタンツェ尼となりて久しく尼寺のうちにあり、皇帝フリートリヒ一世これをわが子ハインリヒ六世の妃とし、この結婚によりてシケリアを己が帝國の領土に加へんため、密かに謀りて強ひて尼寺を去らしむ云々、但しこの説今は虚構と認めらる(ムーア『ダンテ研究』第二卷二七六頁參照)
一二一―一二三
【アーヴェ・マリーア】(マリアよさちあれ、ルカ、一・二八にいづる天使の詞)、聖母にさゝぐる祈りの歌
一二四―一二六
【願ひの目的】ベアトリーチェ


    第四曲

ダンテの二の疑ひに對し、ベアトリーチェは、人の魂星に歸るといふ古説の非を辯じ、かつ意志の自由を説く、ダンテまたさらに一の疑ひを擧げて淑女の教を乞ふ
一―三
トマス・アクイナスの『神學大全』(一、二、一三・六)に據れり。ピッカルダの言は二つの疑問をダンテの心に起し、等しくその解答を求めしがゆゑにダンテ選擇に惑ひて問ふこと能はざりきとなり、次聯の例また同じ、オウィディウスの『メタモルフォセス』(五・一六四以下)に饑ゑたる虎の譬へあるなど思ひ合はすべし
【自由の人】自由の意志を有し、いづれをも選ぶをうる人
四―六
【犬】何れを逐ふべきか知らずして
一三―一五
【ナブコッドノゾル】ネブカドネザル。バビロニアの王なり、嘗て夢の爲に心をなやまし、所の智者等を召して夢とその解釋ときあかしとをともに奏せと命じ、かれらの答ふる能はざるを見、怒りのあまり悉くこれを殺さんとす、ダニエル(ダニエルロ)異象により一切を知りて王に奏し、智者等を救ふ(地、一四・一〇三―五註參照)
ベアトリーチェがダンテの言を俟たずしてその疑ひを知りかつこれを解きてその心をしづめしこと、猶ダニエルが王に問はずしてその夢を知りかつこれをときあかしてその怒りをなだめしごとし
一九―二一
誓ひを果さんとの意志だに變らずば、たとひ他人の暴虐にあひてその志を全うせずとも、罪その人に歸せざるに似たり
二二―二四
プラトンの言に、人の魂は星より出でゝ肉體に宿り、死とともに再び星に歸るとあり、汝も現に魂星にあるを見て、この言を或ひは正しかるべしと思へり
二五―二七
【毒多き】キリスト教の信仰に反すれば
二八―三〇
【セラフィーン】(複數)セラピム、諸天使中最も高貴なるもの(イザヤ、六・二參照)
【モイゼ】モーセ。舊約時代の偉人(地、四・五・五―六三參照)
【サムエール】サムエル。ヘブライ民族最後の士師にてヘブライ王國の建設者たり(サムエル前、一・二〇以下)
【いづれを】キリスト十二弟子の一なるヨハネにてもパブテスマのヨハネにても
三一―三六
諸天使諸聖徒皆エムピレオの天にあり、福の度異なれども、存在の永遠なるは一なり
【永遠の聖息】神よりいづる福。福の度異なるはこれを享くる者の力異なるによる
四〇―四二
【かく】具體的に
【後智に】人は靈的事物を直に智に訴へてさとり難し、その事物まづ具體化して官能に訴へ官能はこれが印象を想像に想像はこれを智に傳へ智はたらきてはじめてさとる
【官能の作用】sensato 官能的物象即ち官能の捉ふる物象の義
四三―四五
【手と足】或ひは神の手(歴代志略下三〇・一二等)といひ或は神の足※(「登/几」、第4水準2-3-19)(イザヤ、六六・一等)などいへるも、たゞ靈的事物を具體化せるに外ならず
四六―四八
【ガブリエール】ガブリエル。天使の長(ダニエル、八・一六及びルカ、一・一九等)
【ミケール】ミケル。同天使の長(地、七・一〇―一二註參照)
【トビアを癒しゝ天使】敬虔なるイスラエル人トビアの目を癒しゝ天使の長ラファエル(トビア、三・二五)
四九―五一
【ティメオが】プラトンがその『ティマエウス』と題する對話篇に
ティマエウス(ティメオ)はピュタゴラス派に屬するギリシアの哲人にてプラトンの友なり
ダンテ時代にカルチディオのラテン譯ありきといふ、恐らくはダンテこれによりて『ティマエウス』を知りゐたるならむ
【似ず】月天に現はるゝものは靈界の眞理の具體的表示にて、ティマイオスの意はその詞の文字通りなりと思はるれば
五八―六〇
もし星に歸るものは魂その者に非ずして、その星の影響の譽や毀なりとの意ならば、換言すればもし諸※(二の字点、1-2-22)の星の力、肉に宿れる魂に及び、これをして或ひは善に或ひは惡に向はしむとの意ならば、その言に幾許の眞理あらむ
【矢】原、【弓】
六一―六三
【この原理】星の影響の
【ジョーヴェ、メルクリオ】神話の神々の名、人々星辰の影響を過重視するの餘り、その信ずる神々の力、星にありとし、その名を星に附するにいたれり。たとへば火星に武徳ありとしてこれに軍神アレス(マルテ)の名を附し金星に戀愛の徳ありとしてこれに戀愛の女神アプロディテの名を附しゝがごとし
【名づけしむ】或星をジョーヴェ、或星をメルクリオ、或星をマルテと
六四―六六
【我】神學の象徴としてのベアトリーチェ、即ちまことの信仰
六七―六九
神の正義(審判)は奧妙にして量るべからず(ロマ、一一・三三)されば人間の目に不正とみゆとも、こは寧信仰に進むの一階段にて異端に導くの道にあらず、何となれば、不正と見ゆるは奧妙不測のしるしにて、奧妙なりと知るは信仰に入るのもとなればなり
【われらの】天上の
【過程】argomento 今スカルタッツィニの註解にもとづきて假にこの語を用ゐたり、異説或は「あかし」の義とし或は「議論」(問題)の意とす、委しくはスカルタッツィニの註を見よ
七三―七五
まことあらびとは、虐げらるゝ人これがためにいさゝかもその意志を屈せざる場合にのみ生ず、意志は他人の左右し能はざるものなればなり、ピッカルダ、コンスタンツェのごとき、これ眞の暴にあへるにあらず、從つてこれを理由としてその罪をいひひらく能はざるなり
七六―七八
【火が】火はいく度これを下方に向はしむともその本然の力によりて必ずまた上方に向ふごとく
七九―八一
【聖所】尼寺。身は強ひて聖所より引離さるとも、意志だに屈せずは、他人の抑壓を脱するとともに再び聖所に歸るべきなり、歸るをえて而して歸らざるはその意志の屈せるなり、罪茲にあり。但しいつ、いかに歸るをえしやは明ならず
八二―八四
【ロレンツォ】聖ラウレンティウス。皇帝ヴァレリアヌスの迫害の犧牲となりて鐡架の上に燒かれ自若として死せる(二五八年)ローマの殉教者
【ムツィオ】ローマの一青年カイウス・ムキウス・コルドゥス・スカエヴォラ。エトルリア王ポルセナを殺してローマの危急を救はんとせしも果さず、その失敗の罪を己が右手に歸し、王の目前にて自らこれを燒けり(『コンヴィヴィオ』四、五・一一五以下參照)
八八―九〇
【疑ひは……解け】原、「論は消滅し」
九一―九三
【路】困難
九四―九六
【あきらかに】天、三・三一―三
【第一の眞】眞の源なる神
九七―九九
【聞きたる】天、三・一一五―七
【されば】聖徒は僞らず是故にピッカルダの言すべて眞なり、然るにピッカルダはコンスタンツェが尼寺を離れし後も心に尼となりゐたりといひ、我は今かれらの意志あらびの前に屈したりといへり、さればピッカルダの言、わが言と相反すと見ゆべし
一〇三―一〇五
【アルメオネ】アルクマイオン。父アンピアラオスの仇を報いんとて母エリピュレを殺せる者(淨、一二・四九―五一註參照)
【父に請はれ】もし戰ひに死せばエリピュレを殺せと豫めその子に命じ置きしなり
アルクマイオンは父の命に背くことを母を殺すことよりもさらに大なる罪と思ひたればなり
一〇六―一〇八
【暴意志と】人のあらびのみならず己の意志(相對の)も加はりて
一〇九―一一一
絶對の意志は暴に屈せず、たゞ相對の意志之に屈す、即ちもし屈せずして飽まで抵抗せばさらに大いなる禍ひに陷るあらんを恐れてこれに屈するなり
一一二―一一四
コンスタンツェの意志は絶對に暴に屈せるならねば此丘尼の生涯を慕へるは事實なれども、恐怖の念に左右せられて相對にこれに屈せるなり、ピッカルダは絶對の意志を指して屈せずといひ我は相對の意志を指して屈せりといふ、彼此兩立す
一一五―一一七
【泉】神
【流れ】ベアトリーチェ
一一八―一二〇
【愛に】原、「愛する者に」。神に
【潤し……暖め】水の潤や太陽の熱によりて草木の生き出づるごとく
一二一―一二三
【これに應へ】わが爲に汝の恩惠めぐみにむくい
一二四―一二六
【眞】神
一二七―一二九
智は自然に眞を知るを求む、すべて自然に生ずる願ひは空ならじ、是故に眞を知ること可能なり、しかして智眞に達すれば悦びをその中にうることあたかも走り疲れし獸がしづかに己が洞窟の中に休むに似たり(コルノルディ、G.M.Cornoldi)
一三〇―一三二
人かく自然に眞を求むるがゆゑに一知はさらに一疑を生じ、眞より眞に進みて次第に終極の眞(神)にむかふ
一三三―一三五
【この事】以上わがいへる凡ての事
一三六―一三八
【汝等の天秤】天上の天秤はかりに。神の正義が、かゝる善行をもてこの罪を贖ふに足るとなすまで
【汝等に】天に對して


    第五曲

ベアトリーチェは誓ひの神聖なることゝこれに易ふるをうる物のことを論じてダンテの疑ひを解き、後相倶に水星天にいたる
一―三
【愛】神の愛。神の光ベアトリーチェに反映するなり
四―六
【全き視力】ベアトリーチェの。視力完全なるがゆゑに神の光に接するも眩暈せずかへつて愈※(二の字点、1-2-22)光の内に進み入るなり(神を視神を知るに從ひ神を愛するの愛いよ/\深し)
スカルタッツィニの引用せる出エジプト記(三四・二九以下)に、モーゼ神と物言ひて山を下りし時、イスラエルの民その顏光を放つを視、恐れてこれに近づかざりしこと見ゆ
七―九
【永遠の光】神の光。神の光は一たびこれを視る者をして永久に己を愛せしむ(『コンヴィヴィオ』三、一四・五一以下參照)
一〇―一二
【その中に】迷はす物の中に。世に屬する空しき幸をも人誤り見て眞の幸となしこれを追ひ求むるなり(淨、一六・八五―九三參照)
一三―一五
【論爭】法廷の論爭、即ち神の正義に對し己が爲に論辯すること。これを免るゝは誓ひを果さゞりし罪の釋かるゝなり
一六―一八
【この曲をうたひいで】第五曲の始めにベアトリーチェの言葉を載せしをかくいへり
一九―二一
【造りて】creando 創造の時の義
二二―二四
創造の始めより今に至るまで凡て了知ある被造物即ち諸天使及び人類はこの意志の自由(淨、一六・六七以下參照)を與へらる
二五―二七
【人肯ひて】人約束を立て、神これを嘉し給ひ
二八―三〇
【寶】自由意志。誓ひを立つるは自由意志そのものゝ作用によりて自由意志を神に獻ぐるなり
三一―三三
是故にいかなる善事も、破約の罪を贖ふに足らず、意志の自由を一たび神に獻げつゝ、後その自由を用ゐて他の善を爲さんとするは、これ※[#「貝+藏」、231-6]物をもて善を行はんとするに等し
三四―三六
【要點】誓約そのものはいかなる善行によりても贖はるべきにあらざること
四三―四五
誓約の要素に二あり、一はその材(誓約の對象なる童貞、斷食等)、他はその形式(神に約して己が自由意志を獻ぐる事)なり。以下ベアトリーチェの言を摘記すれば左の如し
(一)誓約は破るべからず、故に果すに非ざれば消えじ、たゞ獻ぐる物その物は或はこれを變ずるを得(四六―五四行)
(二)物を易ふるに當りては必ずまづ寺院の許諾を受けざるべからず、かつ易へて獻ぐる物前に獻げし物よりも尚大ならざるべからず(五五―六三行)
(三)是故に誓ひを立つるにあたりては人これを輕視せず必ず充分の注意をこれに拂ふを要す(六四―八四行)
四九―五一
【希伯來人】モーゼの律法に從ひ誓約の獻物さゝげものをなすことレビ記(二七・一以下)に見ゆ
【如何により】獻物の中には易へうべき物あり(レビ、二七・一一以下等)易へうべからざる物あり(同二七・九―一〇等)
五五―五七
何人も寺院(即ち聖職にありてかゝる權能を有する者)の許諾を俟たずたゞ己が意志に從つて誓約の材を變ふるをえず
【黄白二の鑰】僧侶の權能及び技能の象徴なる金銀の鑰(淨、九・一一五以下參照)
五八―六〇
【六の四に】單に大小を表はせるにて數字上の比較にあらず、モーゼの律法にては五分の一を加ふべしとあり(レビ、二七・一三等)
六一―六三
是故に供物の價値甚大にしてこれに相當すべき物他にあらざるときはいかなる善行を以てすとも交換を許さず、童貞の誓ひの如きこの種に屬す
六四―六六
【イエプテ】イエフタ。ガラードの勇士にて後イスラエル人の士師となれる者。イスラエル人の爲にアンモン人と戰ふに當り神に誓ひて曰ふ、汝もし敵をわが手にわたし給はゞ、わが歸らん時わが家の戸より出で來りて我を迎ふる者わが燔祭の獻物となるべしと、しかるにその勝ちて歸るや、彼を迎へし者はわが獨子なるむすめなりき(士師記一一・三〇以下)
【最初の供物】ヴルガータに「最初に出で來る者」とあるによれり
【輕々しく】bieci(目をはすにして)、目を斜にして物を視る時はその眞相を認め難し、故にこの語轉じて「思慮なく」の意に用ゐらる(スカルタッツィニ)
誓ひを守るに忠なるはよし、されどこれを立つるに當りては熟慮を要す
六七―六九
【守りて】即ちその女を殺して。輕々しく誓約を立つれば、守りてかへつて守らざるよりも大いなる惡に陷ることあり
【ギリシア人の大將】アガメムノン。トロイア役におけるギリシア軍の主將たり、トロイアに渡らんとすれども順風を得ず空しくアウリスに止まるを憂へ、もしこれを得ばその年生るゝものゝ中最も美しきものをアルテミスに獻ぐべしと誓ひし爲、遂にわがむすめイピゲネイアを犧牲せざるべからざるにいたれり
七〇―七二
【かゝる神事を】かくむご犧牲いけにへの事を
七三―七五
【身を動かし】こゝにては誓約を爲すこと
【いかなる水も】誓約の履行をたやすく免ぜられうべしと思ふ勿れ
七六―七八
聖書の教へを守り寺院の導きに從はゞ救ひを得む、漫りに誓ふはこれを得るの道にあらず
七九―八一
己の慾のため誓願をなすの念起らば、汝等これに盲從せず、人間としてこれに逆へ、さらずば汝等の中に住するユダヤ人等(即ち舊約の律法に從つて誓約を神聖視する)汝等キリスト教徒が誓約に對して思慮なきを笑はむ
八二―八四
【母の乳を】聖書の教へや寺院の導きを離るゝ者は乳を離るゝ羔の如し
【自ら己と戰ふ】ただ獨りにて狂へる如くはねまはるをいふ
八五―八七
【處】太陽もしくは赤道。但しいづれにても上方の事
八八―九〇
【變れる】高く登るに從つてベアトリーチェの姿いよ/\美しく、いよ/\強く輝けばなり
九一―九三
【第二の王國】水星天
九七―九九
【いかなるさま】いかなる印象(喜びや悲しみの)をも受け易き
一〇三―一〇五
【輝】世の榮譽を求めし人々の靈
【ますべきもの】ダンテを指す。われらの愛は、かれの疑ひを解くによりて現はれ、現はるゝによりて愈※(二の字点、1-2-22)増すべし
一〇五―一一〇七
あゝ福を享けんが爲に生れ、未だ死せざるさきに神恩によりてエムピレオの天を視るを得る者よ
【戰】地上の生命(ヨブ、七・一參照)
一一八―一二〇
【光】神の恩愛の光
一二一―一二三
【靈の一】ユスティニアヌス(天、六・一〇―一二參照)
【神々】誤らず僞らざる(ヨハネ、一〇・三四―五參照)
一二四―一二六
【巣くひ】包まれ
一二七―一二九
【他の光】日光。ダンテは『コンヴィヴィオ』の中に、水星は最小の星にしてかつ他のいづれの星よりも太陽の光に多く蔽はるといへり(二、一四・九一以下)
一三〇―一三二
【前よりはるかに】光の増すは悦の増すなり
一三三―一三五
日のおもて水氣に隔てらるゝときは光和らぐがゆゑにこれを視ることをうれども(淨、三〇・二五―七參照)、水氣熱の爲に飛散すれば、光直射して仰ぎ見難し(淨、一七・五二―四參照)
【幕】原、「和らぐること」
月天にては諸靈の姿そを包む光の爲に微かに見え、水星天にてはこの光なほ増して、近づかざれば光のみ見ゆ、(喜び常よりも大いなる時姿全く見えざることユスティニアヌスの例にて知らる)、また金星天にては光さらに増して聖徒の姿全く見えず、太陽天火星天と天の次第に高きに從つてかれらの光いよ/\強し


    第六曲

皇帝ユスティニアヌスの靈水星天にてダンテに己が身の上の事と「ローマの鷲」の事とを告ぐ
一―三
【コスタンティーン】コンスタンティヌス一世(地、一九・一一五―七註參照)。三二四年帝國の首都をローマよりビザンティウム(今のイスタンブール)に移せり
【鷲】ローマ帝國の旗章はたじるし(淨、一〇・七九―八一參照)として帝國の權勢を代表す
【天の運行に逆はしめし】西より東に移らしめし
【ラヴィーナ】ラウィニア王ラティノスの女にてアエネアスの妻となれる者(地、四・一二四―六參照)
【昔人】アエネアス(地、一・七三―五並びに註參照)。トロイア沒落の後アエネアス、イタリアに赴けり、帝業の基を起せる者なるがゆゑに、鷲これにともなひて天の運行と同じく東より西に行けりといへるなり
四―六
【二百年餘】三二四年より五二七年(ユスティニアヌス即位の年)まで
或ひは曰。ダンテはブルネット・ラティーニの記録に從ひ、遷都を三三三年、ユスティニアヌスの即位を五三九年の事とせるなりと
【神の鳥】鷲
【エウローパの際涯】ヨーロッパの東端にあるビザンティウム。トロイアを距ること遠からず
【山々】トロイア地方の山々。鷲さきにアエネアスにともなひてこの山々よりいでたり
七―九
【手より手に】皇帝より皇帝に
一〇―一二
【ジュスティニアーノ】ユスティニアヌス一世(四八二―五六五年)。ヴァンダル族及びオストロゴート族と戰ひて武名を揚ぐ、されどその最も世に知らるゝにいたれるはかのローマ法の編成によりてなり
【第一の愛の聖旨により】聖靈にはげまされ
一三―一五
【一の性】神性。キリストにおいて、人性は神性中に沒しその存在を失へりとなすエウチキオ(三七八―四五四年)一派の異端。但しユスティニアヌスの妻テオドラはこの派の熱心なる信仰者なりしもユスティニアヌスはかゝる信仰を懷きしにあらず、ダンテ或ひはブルネット・ラティーニの言によりてかく録せるにあらざるかと註釋者いふ
一六―一八
【アガピート】アガペトゥス一世(五三五年より翌六年まで法王たり)。オストロゴートの王テオダトゥスの爲にユスティニアヌスと和を謀らんとてコンスタンティノポリスに赴き、かしこに死す、その間彼は皇帝に説きて異端者を罰せしめきと傳へらる
一九―二一
【信ずる所】キリストにおける神人の兩性
【一切の矛盾】肯定眞なれば否定僞りに、否定眞なれば肯定僞りなり。明かなる見易き事の一例として擧ぐ
二二―二四
【寺院と歩みを合せ】寺院の教義と説を同じうしてキリストの兩性を信ずるに及び
二五―二七
【ベリサル】ベリサリウス。ユスティニアヌス部下の名將(五六五年死)
【天の右手】天佑によりて彼多くの勝利をえたれば、その武運のめでたきを見て、我は自ら平和の事業(即ち律法の編成)にたづさはることの天意に從ふ所以なるを知れり
二八―三〇
【第一の問】我は汝の誰なるやを知らず(天、五・一二七)
【性に】鷲の物語をなしかつ身は昔皇帝なりしを告げたることに
三一―三三
【深き理によりて】反語、理不盡にも
【我有と】これを獨占して一黨の利を圖らんとするギベルリニも、これに敵抗するグエルフィも
三四―三六
【パルランテ】パルラス。エヴァンドロ(ギリシアのアルカディアの人にて、ラチオに來りその一部の王となれる者)の子なり、アエネアスを助けてツルヌス(地、一・一〇六―八註參照)と戰ひ、これに死す(『アエネイス』八―一〇卷)。パルランテはローマ帝國建設の犧牲者なればかくいへり
【徳】ローマの諸英雄の武徳
この一聯の中 e cominci※(グレーブアクセント付きO小文字) 以下を地の文とし、「見よいかなる徳のこれをあがむべき物とせしやを。かくてパルラスがこれに王國を與へんため身を殺しゝ時の事より語りはじむ」と讀む人あり、ムーアまた然り。今 cominci※(グレーブアクセント付きO小文字) の主格を virt※(グレーブアクセント付きU小文字) とする説に從ひ、意を汲みてかくは譯しつ
三七―三九
【アルバ】アルバ・ロンガといへるラチオの町(ローマの東南アルバーノ湖附近)。傳説によれば、アエネアスの子アスカヌスの建てしものにて、アエネアスの子孫こゝを治むること三百年餘なりきといふ
【三人の三人と】アルバ・ロンガとローマとの爭ひを指す。アルバのクリアティウス(Curiazi)家の兄弟三人とローマのホラティウス家の兄弟三人と相爭ひしが、ローマ方遂に勝ちてアルバの主權を奪ひたり
傳説に曰。ローマはアルバの王女シルウィアの子ロムロスの建てしところにて、アルバと分立し王政を布きゐたるが、その第三の王オスチリオの代にこの爭ひありてアルバ倒ると(『デ・モナルキア』二、一一・二二以下參照)
【さらにこれがため】今一度旗のため、これ以前にも爭ひたればさらにといへり
四〇―四二
【サビーニの女達の禍ひ】王政の始めといふ如し。ロムロスの代に、ローマ人等その近隣の一族サビーニの女子を奪ひて妻とせりと傳へらる
【ルクレーチアの憂ひ】ルクレーチアがセクストゥスに辱められしこと(地、四・一二七―三二註參照)。ローマ最後の王タルクイニウスがローマを逐はれしもわが子クストゥスの惡行その一因となれるなり、故にルクレーチアの憂ひは王政の終りを表はす
【七王】ロムルス、ヌーマ、ツルヌス、アンクス・マルキウス、タルクイニウス・プリスクス、セルウィウス・ツルリウス、タルクイニウス・スペルブス
四三―四五
【ブレンノ】ブレンヌス。ガルリア人の大將、前四世紀の末ローマに押寄せ火を放つてこれを攻む、ローマの人フーリオ・カミルロ不意に起ちて敵を破り、故國をその難より救ふ
【ピルロ】エピロス(ギリシアの)王。ピルロス前三世紀の後半二囘に亘りてイタリアを攻めしも成らずして去る(地、一二・一三三―八註參照)
【共和の國々】collegi或は、同盟の君主等
四六―四八
【トルクァート】ティトゥス・マンリウスといへるローマ人にてトルクァートはその異名なり、ガルリア人及びラチオ人と戰ひてこれに勝つ(前四世紀)
ラチオ人と戰へる時己が子軍令を犯しゝかばこれに死刑を宣せりといふ(『コンヴィヴィオ』四・五・一一八以下參照)
【クインツィオ】ルキウス・クインティウス。ローマの人、鋤を棄て執政となりて敵を破り(前五世紀)任滿ちてまた耕作に從事す(『コンヴィヴィオ』四・五・一三〇以下參照)。キンキナトゥス(縮毛)の異名あり
【デーチ】父子三代に亘りて(その名をいづれもプブリウス・デキクス・ムースといへり)祖國の爲敵手に死せる(前四―三世紀)ローマ人(『デ・モナルキア』二、五・一二八―三〇參照)
【ファービ】ローマの名門。著名のローマ人多くこの一門より出づ、就中最著名なるは第二ポエニ戰爭の際(前三世紀)所謂遲延戰略を用ゐてカルタゴの驍將ハンニバルを惱ましゝクイントゥス・ファビウス・マクシムスなり
【甚く尊む】mirro(沒藥を塗る)藥品を用ゐて腐敗を防ぐ如く、永く尊びて忘れざるをいふ、天上に妬なければなり
四九―五一
【アンニバーレ】ハンニバル。カルタゴの名將、第二ポエニ戰爭の始め(前二一八年)ポー河の水源地なる西方アルピの連峰を越えてイタリアに闖入し連戰連勝優勢なりしが、後利を失ひてアフリカに歸れり
【アラビア人等】カルタゴ人等。ダンテ時代には北アフリカの住民をおしなべてアラビア人と呼びなせり、カルタゴ人をアラビア人といへるは、地、一・六八にウェルギリウスの父母をロムバルディといへるごとく一種の時代錯誤なり(ムーアの『用語批判』三四二頁參照)
五二―五四
【シピオネ】プブリウス・コルネリウス・スキピオ。ローマの名將、未だ丁年ならざるにハンニバルとチチーノ及びカンネに戰ひ二十歳にしてイスパニアを征服し、三十三歳にしてザマ(地、三一・一一五―七註參照)にハンニバルを破れり
【ポムペオ】大ポムペイウス。年少の頃既にシルラを助けてマリウスの徒黨と戰ひ、後各地に轉戰して勝利を得たり、ローマが彼の爲に凱旋式を擧げしはその二十五歳の時(前八一年)の事なりき
【山】フィエソレの山、ダンテの生地フィレンツェその下にあり(地、一五・六一―三註參照)
【酷し】ローマ人がフィエソレを攻落しゝこと
五五―五七
天上の平和を地上にも及ばしめんと神の思召し給へる時に、換言すれは、キリストの降臨に近き頃ローマの民及び議會の意に從ひ、ユーリウス・カエサルこの旗を手に取れり
ダンテ思へらく、帝國の建設は世界平和の曙光なり、カエサルはなほヨハネの如く救世主の爲にその道を備へし者なりと(『コンヴィヴィオ』四、五・一六以下參照)
五八―六〇
以下七二行までユーリウス・カエサルの事蹟を擧ぐ
【ヴァーロよりレーノに亘りて】ガルリア・トランサルピーナ(アルピ外のガルリア)にてといふ如し。ヴァール(ヴァーロ)はフランスの東南端の河にて古、外ガルリアと内ガルリアとの境を劃し、レーノ即ちライン河は古、外ガルリアとゲルマニアとの境を劃せり。鷲の旗がカエサルの手にありてこの地方にあげし功績を、その沿道の諸水見たりといへるなり
【イサーラ】今のイゼール。フランスのローヌ河に注ぐ河の名
【エーラ】同じくローヌに注ぐサオン河
【センナ】パリを貫流するセーヌ河
六一―六三
【ラヴェンナを出で】ガルリア征服の後カエサルがラヴェンナより出でゝ内亂を平定せること(地、二八・九七―九註參照)。ルビコン河は昔ガルリア・チサルピーナ(アルピ内のガルリア)とイタリアとの境を劃せり
六四―六六
【スパーニアに】内亂鎭靜の後イスパニアに行きてポムペイウス一味の者を攻めし事(淨、一八・一〇〇―一〇二參照)
【ドゥラッツオ】アドリアティコの東岸にあるギリシアの町。カエサルこゝにてポムペイウスの軍に圍まる
【ファルサーリア】テッサリアの町。この附近にてカエサル大いにポムペイウスを破る(前四八年)
【ニーロ】エジプトのナイル河。ファルサリア役の餘波エジプトに及びてかの地の禍ひとなれるをいふ。ポムペイウス、ファルサリアに敗れてエジプトに逃れ、身を國王プトレマイオス十二世に寄せ、かへつてその殺す所となれり
六七―六九
ファルサリアの戰ひの後、イロイア頽廢の跡を見んとてカエサル、小アジアに赴けることルカヌスの『ファルサリア』(九・九五〇以下參照)に見ゆ
【アンタンドロ】フリジア海濱の一高地にある町。アエネアスこゝより舟出してイタリアにむかへり(『アエネイス』三・五以下參照)
【シモエンタ】(Lat.Simois)トロイア附近を流るゝ川(『アエネイス』一・一〇〇參照)
【エットレ】トロイア王プリアモスの長子(地、四・一二二)。エットレの墓の事『アエネイス』(五・三七一)に見ゆ
【禍ひ】カエサルがエジプト王プトレマイオスを廢して王の姉妹クレオパトラを立てしこと
七〇―七二
【イウバ】マウリターニアの王ポムペイウスに與せる爲カエサルの攻むる所となりて自殺す
【汝等の西】イタリアの西に當るイスパニア。こゝにポムペイウスの二子及びその黨與猶餘勢を保ちてカエサルに抗せしが、ムンダの戰ひに敗れ(前四五年)、内亂遂に平定す
七三―七五
【次の旗手】オクタウィアヌス・アウグストゥス。フィリッピの戰ひに敵を敗り、敵將プルート及びカッシオこれに死す(前四二年)
【地獄に證す】(地、三四・六四以下參照)カエサルを弑せし非道のむくいはフィリッピ敗衂の怨みとなり、さらにルチーフエロの永劫の苛責となれり、かれらの悶え苦しむは即ちその罪その罰のあかしなり
【モーデナ】(フィレンツェの北六十餘哩)オクタウィアヌスこの町の附近にてマルクス・アントニウスを破れり(前四三年)
【ペルージヤ】(ウムブリア州、テーヴェレ右岸の町)アントニウスの兄弟ルーチオこゝにてオクタウィアヌスに虜へらる(前四一年)
七六―七八
【クレオパトラ】地、五・六一―三註參照
【その前より】アクティクムの海戰にマルクス・アントニウスとともに敗れて(前三一年)
七九―八一
【紅の海邊】紅海の岸。オクタウィアヌスのエジプト征服を指す
【イアーノの神殿】イアーノはローマの神話に見ゆる古イタリアの神の名にてその神殿ローマに多し、而してそのおもなるものゝ戸はたゞ平和の時にのみとざさるゝ習なりきといふ。エジプトの征服とともに戰亂終局に至りたればかく
八二―八七
ティベリウスの代に起れることの重大なるに比ぶれは、この代の以前及び以後に於ける帝國の偉業も物の數ならじ
【これに屬する世の王國】ローマの領土といふごとし
【第三のチェーザレ】皇帝ティベリウス(一四年より三七年まで皇帝たり)
八八―九〇
正義の神はティベリウスの代に、キリストの死によりて、アダムの罪に對する神の怒りを和ぐるの譽をばローマ人に與へ給へり
【我をはげます】我を動かしてかく汝と語らしむる
【これに】ローマの權能の下にキリストの磔殺行はれたればなり
九一―九三
【反復語】vendetta(復讎、刑罰)が二重に用ゐられしこと、即ち前者は(邦譯にて)アダムの罪に對する刑罰にてキリストの死を意味し、後者はキリストの死に對する刑罰にてイエルサレムの沒落を意味す
但し原語 replico を單に「答ふる」、「附加する」等の意に解する人あり
【ティト】イエルサレムを毀てる者(淨、二一・八二並びに註參照)
【昔の罪の】天、七・一九以下に委し。神の正義に從つてこの二重の刑罰を行へるは即ちローマの權能の象徴なる「鷲」の偉業に外ならじ
九四―九六
【ロンゴバルディ】六世紀の後年イタリアに侵入しその北部に強國を建てしゲルマン族、寺院を噛むはローマの寺院を迫害するなり
シャルルマーニュ、(地、三一・一七)は法王ハドリアヌス一世の請を容れ、ロンゴバルディを攻めてその最後の王デジデーリオを廢せり、但しこは七七四年の事にて、法王レオ三世(七九五年より八一六年まで法王たり)がシャルルに帝冠を戴かしめしは八〇〇年の事なり、戴冠以前に溯りて鷲の翼の下といふこと可ならざるに非ざれども、『デ・モナルキア』(三、一一・五)にシャルル、ハドリアヌスより帝冠を受くとあるより見れば、ダンテのこの記事を年代錯誤によるとなすの説また理なきにあらじ
この一聯及び以下數聯に於ける出來事はユスティニアヌスの治世以後の事なり、皇帝の靈はウェルギリウスの如く、よくその死後の世のありさまを知りゐたり
九七―九九
【さきに】三一―三行
一〇〇―一〇二
グェルフィ黨はフランス(グェルフィの首領なるプーリア王シャルル二世)の力を藉りて帝國に反抗し、ギベルリニ黨は私黨の利慾の爲にこれを我有となす、二者倶に非なり
【黄の百合】フランス王家の紋章、青地に三の金の百合
【公の旗】全帝國の旗なる「鷲」
一〇三―一〇五
ギベルリニは己が野心を滿たすに當りて鷲の旗を用ゐるべからず、この旗は正義を世に布く爲の物なれば、ギベルリニの如く不正不義の爲にこれを用ゐるは、即ちその神聖を汚すなり
一〇六―一〇八
シャルルはその率ゐるグエルフィと共にローマの帝業を地に倒さんとするごとき非望を抱かず、彼シャルルよりもさらに強き君主等を征服したる帝國の力を恐るべし
【新しきカルロ】アプリア王シャルル(カルロ)二世(淨、二〇・七九―八一註參照)。新しといへるは九六行のシャルルマーニュ(カルロマーニオ)に對してなり
【爪】鷲の爪即ち帝國の力
一〇九―一一一
【子が】彼その非行を改めずはむくい或ひは子に及ばむ。シャルルの多くの子の中、父のために禍ひをうけし者ある意を含む、されど誰を指し何を指しゝや明ならず
【紋所】鷲の。この紋所は神がその定め給ふところによりて地上平和の使命を帶ぶる帝國の徴號しるしなれば
【變へ】「鷲」廢れて「百合」のみ殘ること、即ち帝國の大權シャルル一家に移ること
一一二―一一四
【小さき星】水星(天、五・一二七―九註參照)
一一五―一一七
人その最大の目的を離れて地上の榮耀を望む時は、神の愛必ず減ず。眞の愛とは神に對する愛を指す
一二一―一二三
われらは神の過不足なき應報を知るが故に、情清く、さらに大いなる福をえんと願ひまたはこれを受くる者を嫉むが如きことたえてなし
一二四―一二六
【下界にて】gi※(グレーブアクセント付きU小文字)『ダンテ學會版』にこの一語なし(Diverse voci fanno dolci note)
【さま/″\の座】天上の福に種々の階級あり、階級によりて諸靈の音異なれども皆よく相和して一美妙の調を成す
スカルタッツィニは、こは思ふに諸天の和合音【天、一・七六―八參照)を指せるならんといへり、樣々の福はさま/″\の天に現はさるればなり
一二七―一二九
【眞珠】さきには月を指してかくいへり(天、二・三四)。水星
【ロメオ】註釋者曰。ロミュー・ド・ヴィルヌユーヴ(ロメオ)の實説左の如し、ロミューはプロヴァンスの伯爵レーモン・ベランジェ四世の執事なり、一二四五年レーモン死せる時その領地を司どりて伯の末女ベアトリス即ちシャルル・ダンジュー一世の妻となりし(淨、七・一二七―九註參照)者の後見となり、一二五〇年プロヴァンスに死す。されどダンテ時代の傳説(特にヴィルラーニの記録)によればロミューは生れ賤しき一巡禮者なり、彼レーモン伯の徳を傳聞してこれに事へその擢拔を受けて財政を整理し他の收入大いに増加す、彼また伯の四人の女をして悉く王妃とならしめ誠心誠意その主の爲を謀れるもプロヴァンスの貴族等の讒にあひて伯の許を去る、而して何人もその行方ゆくへを知らずと
ロミューが何故に水星天にあるやは明かならず、スカルタッツィニは謙讓による功名家(umili ambiziosi)の一例なるべしといへり
一三〇―一三二
【笑】ロミューを陷るゝも何等利する所なきをいふ、プロヴァンスは温和なるレーモンの手より苛酷なるシャルル・ダンジュー一家の手に移りたればなり(淨、二〇・六一以下並びに註參照)
【他人の】或は、「他人の善行を己が禍ひに轉ずる(人の善行を見妬み誹りて自ら罪に陷る)者は」
一三三―一三五
【王妃】長女マルグリットはフランス王ルイ九世に、次女エレオノールはイギリス王ヘンリー三世に、三女サンシヤは同ヘンリーの兄弟にてローマ人の王となれるリチャードに、末女ベアトリスはシャルル・ダンジュー一世に嫁す
【賤しき】或は、「謙讓の」
【放客】註釋者曰。romeo は巡禮者特にローマへの巡禮者の意なれば、このロメオを巡禮者となすの説出でしなりと(岩波文庫版ダンテ『新生』一〇〇頁參照)
一三六―一三八
讒者の言によりてロミューの誠實を疑ひ、收支の決算を求む、しかるに決算に及びその資産のかへつて膨脹しゐたるを知れり
一四二
【ほむべし】衣食の爲に志を屈せず逆境に處して亂れざる。ダンテが自己の境遇にひきくらべ、ユスティニアヌスの口を藉りてかくいへることいふまでもなし


    第七曲

ユスティニアヌスの靈去りて後、ベアトリーチェはダンテの爲に、キリストの死、十字架の贖、及び靈魂の不滅を論ず
一―三
【オザンナ】神を讚美する語
【火】諸天使及び諸聖徒
四―六
【二重の光】神の光と己が光(一―三行)。或ひは曰、皇帝と立法者との光を指すと
【聖者】sustanza(主要の本質即ち靈)、ユスティニアヌスの靈を指す
一〇―一二
【甘き雫】眞理の滴
一三―一五
されどたゞ淑女の名の一部を聞きてさへわが心に湧く畏敬の念はわがかうべを壓し、我をしてこれを擧げて敢て彼女に問ふ能はざらしむ
一六―一八
【火の中】(淨、二七・五二以下參照)
一九―二一
【正しき罰】ユスティニアヌスのいへること(天、六・八八―九三)
二五―二七
【生れしにあらざる】神の直接に造り給へる人即ちアダム
【己が益なる】意志の銜(禁斷のこのみに就いて意志の上に神の加へ給ひし制限)に堪ふれば己が益なるを、しかせずして
二八―三〇
【迷ひ】正路を失ふこと
【幾世の間】淨、三三・六一―三並びに註參照
【神の語】キリスト(ヨハネ、一・一以下)
三一―三三
【その永遠の】たゞ聖靈のはたらきにより(魔女の懷胎に於ける)
【性】人性
三四―三六
【己が造主と】キリストのうちなる人性は、個性としては、創造時の如く至純至善なりしも
三七―三九
全人性の上より見れば、始祖の禍ひを受けて刑罰に價す
【眞理の道と】眞の道眞の生命なる神を離れ
四〇―四五
キリストの中なる人性は罰すべし、神牲は犯すべからず
四六―四八
さればキリストの磔殺といふ一の行爲よりこの結果生じたり、(一)神は人類の罪の贖はるゝによりてこれを喜び給ひ、ユダヤ人は己が怨みのはれしによりてこれを喜べり、前者は正義にもとづき後者は嫉みにもとづく、而してこの死によりて地は震ひ(マタイ、二七・五一)、天は聖者の爲に開けぬ
四九―五一
【正しき法廷】ティト。イエルサレムを毀ちて仇をユダヤ人に報いしがゆゑにかくいへり(淨、二一・八二以下並びに註、及び天、六・九一―三並びに註參照)
五二―五四
※(「(米/糸)+頁」、第4水準2-84-60)】疑ひ
五五―五七
【方法】キリストの死
五八―六〇
經驗によりて神の愛を知りよく天上の事物に通ずる者にあらざれば、奧妙なる贖罪の理をさとる能はじ
六一―六三
【目標】贖罪の教理
六四―六六
【嫉み】livore 愛に反する凡ての情を指す
【あらはす】その徳を一切の被造物の中にあらはす
六七―六九
直接に神の善より滴るもの即ち神が自然を介せずして直接に造り給へる物は永遠に存在す、これ神の御手のわざは不朽不變なればなり
七〇―七二
神の直接に造り給へる物はまた全く自由なり、これ神以外のものゝ影響に從屬せざるによる
【新しき物】第二原因(第一原因なる神に對して)、變化するがゆゑに新しといへり
但しこゝに所謂直接の被造物のうちには、天、二九・三四にいづる「純なる勢能」を含まずと見ゆ
七三―七五
神の直接に造り給へる物は神に最も近きがゆゑにまた最も神意に適ふ
【聖なる焔】即ち神の善、神の慈愛の光
七六―七八
【これらの】不死、自由、神に似ること
七九―八一
【自由を奪ひ】惡を行ふ者は罪の奴隷なり、自由なし(ヨハネ、八・三四)
八二―八四
【空處を】、罪の爲に失へるものを再び得るに非ざれば
八五―八七
【種子】祖先、即ち始祖アダム
九一―九三
【淺瀬】罪より神恩に歸る道。この道二あり、(一)神がたゞその慈愛によりて赦し給ふか、(二)人自らその罪を贖ふか、是なり
九四―九六
【永遠の】神慮の奧深きところを見よ
九七―一〇二
人が神の如くならんと(創世、三・五)欲して神命に背けるは是無限の僭上なり、無限の僭上は無限の謙遜によりてはじめて贖はる、しかるに人は有限にして不完全なる者なるがゆゑに、いかなる謙遜いかなる從順を以てすとも始祖の僭上始祖の悖逆を償ふに足らず、從つて自らその罪を贖ふの力なし
一〇三―一〇五
【己が道】慈悲と正義の二道
【その一か】慈悲のみによるか
一〇六―一一一
すべて行爲はその源なる心の善を現はせばあらはすほど他の者を悦ばすがゆゑに、宇宙萬物に愛の光を注ぎ給ふ神は、汝等人間をば昔の尊さに歸らせんため、その道を盡すをよしとし給へり
一一二―一一四
世の始め(最始の晝、即ち神が光を造り給へる日)より世の終り即ち最後の審判にいたるまでの間に、贖罪の如く尊きわざは、慈悲によりても正義によりても爲されじ。贖罪は空前にして絶後なる神の尊き御業みわざなり
一一五―一一七
【神は】神は人類をその墮落より救はんため人の肉體に宿りて苦しみを受け給ひ
一一八―一二〇
【正義に當るに】神の正義にふさはしき贖ひをなすに
一二一―一二三
以下滅するものと滅せざるものとの別を説く
【溯りて】六七―九行にいへること
一三〇―一三五
諸天及び天使は今現にあるごとき完全なる状態において直接神に造られしものなれば滅びず、されど地水火風の四原素及びその化合より成る一切の物は他の力によりて形成せらるゝものなるがゆゑに滅ぶ
【造られし力】神の直接に造り給へる力、第二原因、星辰の影響
一三六―一三八
地水火風の材となる物質、及びこの四原素の周圍を※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)轉する星辰が物を形成する力は、ともに直接の被造物なり
【とゝのふる力】virt※(グレーブアクセント付きU小文字) informante 特殊の存在を保たしむる力(不滅の物質を材として地水火風及び其他の物を形成しこれに各※(二の字点、1-2-22)その性質を保たしむる如き)
一三九―一四一
【聖なる光】星辰
【これとなりうべき原質】complession potenziata 星辰の影響により、集合して禽獸草木の魂と成るの可能性を有する物質
一四二―一四四
汝等人間の魂は神の直接に造り給へる物なれば滅びじ、而して神はこの魂に神を愛するの愛を與へ、これをして常に神と結ばんことを求めしむ(淨、二五・七〇以下及び『コンヴィヴィオ』三、二・五六―九參照)
一四五―一四八
神の直接に造り給へる物は不滅なりとの原則より推して、人の肉體の甦をも信ずるをえむ、神がアダム、エヴァを造り給へる時はその肉體をも直接に造り給へるなれば(創世、二・七)、たとひ罪の爲死とともに滅ぶとも最後の審判の日至れば再び魂と結ばれてその不朽の衣とならむ


    第八曲

ダンテ、ベアトリーチェと金星天にいたり、世にて戀の炎に燃えし多くの靈を見る、その一カール・マルテル、ダンテを迎へこれと語りて人の性情の相異なる所以を陳ぶ
一―三
【危ふかりし】異教の神々を奉じ、永遠の刑罰を蒙るの恐れありし昔
【チプリーニア】戀の女神アプロディテ(ウェヌス・ヴェーネレ)、キュプロス島に生立ちしよりこの異名あり。金星
【エピチクロ】大圈の周邊に中心を有する小圈。プトレマイオスの學説によれば諸遊星は東より西にめぐる外、二の固有の運動を有す、その一は即ちその軌道の周邊(その天の赤道)に小圈を畫きつゝ西より東に※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)るものにて、この小圈をエピチクロといふ(ムーア『ダンテ研究』第三卷三四頁以下參照)、第三のエピチクロは月より數へて第三の星即ち金星(昔の天文による)のそれなりと知るべし(圖解中太陽以外の星の周圍の點線はエピチクロなり)
七―九
【ディオネ】オケアヌとテティス(共に古の神の名)の間の女。アプロディテはゼウスとディオネの間の女なり
【クーピド】エロス。アプロディテの子にて戀の神なり
【ディドの膝】『アエネイス』一・六五七以下に、ヴェーネレ(アプロディテ)がアエネアスに對する戀の火をディド(地、五・六一―三註參照)の胸に燃さんとて、まづわが兒クーピド(エロス)をアエネアスの子アスカニウスの姿に變へ、ディドの膝に抱かしめしこと見ゆ
一〇―一二
【或ひは後或ひは前】宵の明星となりて現はるゝ時は日沒後なればといひ、あけの明星となりて現はるゝ時は日出前なればといへり
【星の名】金星をヴェーネレと名づく
一三―一五
【いよ/\美しく】ベアトリーチェは天より天と、神の御座くらゐに近づくに從つていよ/\その美を増すなり
一六―一八
【一動かず】一音に變化なく、一音に震動高低の變化あるとき
一九―二一
【かの光】光る星、金星
【多くの光】諸聖徒
【永劫の視力】永遠に神を視ること。※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)る早さは見神(即ち福の度)の多少に準ず
二二―二七
【見ゆる風】電光
【冷やかなる雲】アリストテレスの説に曰く。熱くして乾ける氣上昇し、冷やかなる雲に當りて空氣を亂し風を生ずるにいたると、又曰く、電光とは單に風の燃燒によりて見ゆるにいたるものの謂と(ムーアの『ダンテ研究』第一卷一三二―三頁參照)
【セラフィーニ】諸天使中最高貴なるもの(天、四・二八―三〇註參照)
【舞を棄て】エムピレオの天にてセラフィーニと共に舞ひゐたる諸靈ダンテに現はれんとて降り來れるなり。一九―二一行にいへる舞はエムピレオの天にて始まれるものなるがゆゑにまづといふ
三一―三三
【その一】カール・マルテル(カルロ・マルテルロ)。シャルル・ダンジュー二世の長子、一二七一年に生れ、一二九〇年ハンガリアの王冠を受け(されどその實權は分家なる三世の手にありき)、一二九五年に死す。註釋者曰、カールはフランスより歸り來れるその兩親に會はんため、一二九四年の始めナポリよりフィレンツェに赴き少時かしこに滯在せることあればその際ダンテと相識るにいたりしならんと
三四―三六
【君達】principi 天、二八・一二五にいづる principati と同じ天使諸階級の一にして金星天を司る者
【圓を一にし】共に圓を畫きて轉ること、空間を表はす
※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)轉を一にし】共にめぐりて永遠に亘ること、時間を表はす
【渇を一にし】神を慕ふ心、衷なる情を表はす
三七―三九
【汝等了知をもて】『コンヴィヴィオ』第二卷の始めに出づる第一カンツォネの起句、この解同書二・六・一五一以下に見ゆ
但し、金星天を司る天使、『コンヴィヴィオ』にては principati に非ずして troni なり(天、二八・九七―九註參照)
【少時しづまるとも】神の愛と同胞の愛との相矛盾せざることを表はす(フィラレテス Philalethes)
四〇―四二
ダンテはかの靈と語らん爲その許をば目にてベアトリーチェに請へるなり
四三―四五
【約しゝ】三二―三行
四六―四八
【新たなる喜び】問者に答へてこれに滿足を與へ己が愛を現はすをうるの喜び(天、五・一三〇以下參照)
四九―五一
【もし】我もし長命なりしならば、今より後に起らんとする多くの禍ひは、未發に防ぐをえたりしものを
カーシーニ曰く。こゝにいふ禍ひは、ラーナの説によれは貪慾なるロベルトの惡政を指し、オッチモの説に從へばアンジュー方とアラゴン方とのシケリア爭奪戰を指す、されど恐くはダンテは或る一の確たる事實を指せるにあらで、シャルル二世及びロベルトのもとにナポリ王國を苦しめし種々の禍ひを總括していへるならむと(七六行以下參照)
五二―五四
光のわが身を隱すこと、繭の蠶をかくすごとし
五五―五七
【葉のみに】さらに深き根強き愛を表はせるならむ
ダンテはマルテルに對し深き敬愛と大いなる希望とを懷きゐたりと見ゆ、されど兩者の關係については定かなること知り難し、マルテルが金星天にある理由も恐くはたゞダンテのみよくこれを知れるならむ
五八―六〇
【左の岸】プロヴァンス。ローン河の東にある伯爵領地、ソルガはアヴィニオン附近にてローンに合する小川の名
プロヴァンスはカルロ一世の代にナポリ王の所領となれるものなれば(淨、七・一二四―六註及び淨、二〇・六一―三註參照)シャルル二世の死後は當然マルテルに屬すべきなりき
【時に及びて】シャルル二世は一三〇九年に死せり、マルテル早世してこのを見ず
六一―六三
ナポリ王國もまたマルテルの君臨を望みゐたり
【バーリ】アドリアティコ海邊の町
【ガエタ】チルレーノ海邊の町
【カートナ】カーラブリア州の南端の村
【際涯を占め】s'imborga カーシーニの説に、borghi は中古、市の境に列なれる家屋の意に用ゐたればこゝにてはこれらの町々がナポリ王國の際端にあるをいへるならんとあるに從ひてかく
【トロント】マルケとナポリとの境を流れてアドリアティコ海に注ぐ河
【ヴェルデ】ガリリアーノ河のこと(淨、三・一三―三二註參照)
【アウソーニア】イタリアの古名(ウリッセの子アウソネに因みて呼べる)。アウソーニアのつのとはイタリア南方の一端なるナポリ王國を指せる也
マルテル一男二女を殘し父に先立ちて死す、而してシャルル二世の死後、マルテルの弟(即ちシャルルの第三男)ロベルトはマルテルの子カルロ・ロベルト(一三四二年死)を斥けてナポリ王國の權を握れり(一三〇九年)
六四―六六
マルテルがハンガリア王冠を戴けること
マルテルの母マリアはハンガリア王ラヂスラーオ四世の姉妹なり、一二九〇年ラヂスラーオ死して嗣子なくマルテルその王冠を受く
【ダヌービオ】ダニューブ。ドイツより起りてハンガリアを貫流する大河
六七―七五
我またシケリアに君たりしならむ、この國惡政に苦しみてその主權に背き、遂にフランス人の覊絆を脱するにいたらざりせば
【灣】カターニア灣。東風(エウロ)最も多し
【パキーノ】シケリア島東南端の岬、今カーポ・パッサーロといふ
【ペロロ】同東北端の岬、(今のカーポ・ファーロ)
【ティフェオ】或ひはティフォ(地、三一・一二四)、ゼウスの電光に撃たれシケリアに葬られし巨人、その頭エトナ山下にありて口より火焔を吐出す(オウィデウス、『メタモルフォセス』五・三四六以下參照)
【トリナクリア】Trinacria シケリアの古名(三の岬あるより呼べるギリシア名、三の岬とは前出パキーノ、ペロロの二と、島の西方にあるリリベオ即ち今のカーポ・マルサーラの岬とを指す)
【カルロとリドルフォ】父(或は祖父)のカルロと外舅ルドルフの子孫我より生れて
マルテルの妻クレメンツァは皇帝ルドルフ(淨、七・九四―六參照)の女なり
【虐政】アンジュー家の
【パレルモ】シケリアの首都にて、かの有名なるシケリアの虐殺(一二八二年)の始まれるところ。この虐殺の後シケリアはアンジュー家を離れてアラゴン家に歸せり
【死せよ】フランス人に對する群集の叫び
七六―七八
【わが兄弟】弟ロベルト(ルイ)シャルル二世自由の身となりし時(淨、二〇・七九―八一並びに註參照)、その第三子ロベルト(ルイ)は兄のルドヴィコ(ルイ)と共にアラゴンがたの人質となりて一二八八年より同九五年までカタローニア(イスパニアの)に止まれり、この幽閉の間ロベルトは多くのカタローニア人と交りを結び、一三〇九年ナポリ王となるに及びて彼等をかしこに招きかつ重くこれを用ゐぬ、しかるに彼等強慾にして民を虐げしかば、民心アンジュー家を離るゝにいたれり
【豫めこれを】虐政の臣民に及ぼす結果如何を、王位に即かざる先に知りたらんには
マルテルはロベルト即位後の非政及びその結果を豫知してかくいへるなり
七九―八一
【彼にても】ロベルト自身かまたはその親戚知友等
【荷の重き彼の船】ロベルトの貪欲の爲既に重き負擔に苦しむかの三國
【さらに荷を】廷臣等の貪慾によりてその負擔をさらに重くする莫らん爲
八二―八四
【物惜しみせぬ性】父シャルル二世の。シャルル二世がその女ベアトリスをフェルラーラの君に與へて莫大の金をえしこと淨火篇(二〇・七九―八一)に見ゆ、さればこゝにては單にその子ロベルトと此していへるか、或はシャルルに貪慾と寛仁の相混れる性あるをいへるか明ならず、なほ言者がシャルルの子なるを思ふべし(ムーアの『ダンテ研究』第二卷二九三―四頁參照)
八五―九〇
汝の言の我に與ふる喜びは汝自らの(これを神の鏡にうつして)知るところなるを信ずるによりて愈※(二の字点、1-2-22)深し、而して汝のわが喜びをば神を視てさとることもまたわが悦ぶ所なり。前者は主として明かに友に知らるゝの事實を指し、後者は主として友の知る所以を指す、但し九〇行の il の意明らかならざるがゆゑに異説あり
【一切の善の】一切の善の本末なる神によりて
九一―九三
【苦き物】良き種より惡しき果の生ずる如く、良き父より惡しき子の生るゝをいふ
九四―九六
【顏を】顏を向くるはその事、前に現はれて知るゝなり、背をむくるは後にかくれて知れざるなり
九七―九九
生るゝ者の性情はたゞ生む者の性情によるのみならず、また諸天の力を受くるものなる事をいはん爲、以下一一一行まで、神の攝理が星辰の力となりて萬物にその影響を及ぼし、神の豫め立て給ふ目的めあてに向つて進むを論ず
【善】神。神は諸天運行の本にてまたその悦びの始なり
【大いなる物體】神の攝理は諸天において一種の力となり、この力諸天を通じて人間及び他の被造物にその影響を及ぼす
一〇〇―一〇二
神はたゞ自然の諸物の存在を定め給ふのみならず、またその安寧をも定め給ひ、諸物皆秩序を保ち健全にかつ永續して神の立て給ふ目的めあてにむかふことをえしむ
【自ら完き意】神意。被造物の完きは自ら完きに非ず、神によりて完きなり
一〇三―一〇五
諸天の影響は神の豫め定め給へる目的めあてに達せんがため諸物に及び、あたかも狙ひ放たれし物の、的に向ひて進むごとし
一〇六―一〇八
若し諸天の影響にかゝる目的なくその働き偶然ならば、その結果萬物の間に調和なく美なく、自然は渾沌に歸するあるのみ
一〇九―一一一
諸天の働きもしかく盲目的なりとせば、こは諸天を司る諸天使(諸ての智)の不完全に歸せざるをえず、諸天使もし不完全なりとせば、こは彼等を不完全なる者に造り宇宙の秩序を保つに堪へざらしめし神の不完全に歸せざるをえず、而してこはありうべき事ならじ
一一二―一一四
【自然】諸天の働き
一一五―一一七
以下一二六行まで、神の攝理が世人の福祉と一致すること。即ち人は皆社會の一員なれば、各※(二の字点、1-2-22)その性情傾向及び才能を異にし從つてその職分を異にするを論ず
【一市民たらずは】一社會を形成して互ひに扶助することをせず孤獨の生を營まば
【問はじ】問はずして明らかなれば
一一八―一二〇
【汝等の師】アリストテレス。『倫理學』及び『政治學』の諸處に(『コンヴィヴィオ』四・四・四四以下參照)
一二一―一二三
【業の根】行爲の本なる性情傾向
一二四―一二六
【ソロネ】ソロン。有名なるアテナイの立法家にしてギリシア七賢の一なり(前七世紀)
【セルゼ】ペルシアの武將(淨、二八・七〇―七二並びに註參照)
【メルキゼデク】舊約時代の祭司長(創世、一四・一八)。サレム王メルキゼデクが祭司の典型として重きをなす所以ヘブル書(七・一以下)に見ゆ
【わが子を失へる者】工匠の典型としてダイダロスを擧ぐ(地、一七・一〇六以下並びに註參照)わが子は即ちイカルスなり
一二七―一二九
以下一三五行まで、諸天の影響はよく人界に及びてさま/″\の性向を生ずれども種族家系等の區別を立てざるが故に父子同じからざることあり、要するに是皆神の攝理にもとづくものなるを論ず
一三〇―一三二
【エサウはヤコブと】エサウとヤコブ(ジャコッベ)とは共にイサクの子にて雙生ふたごの兄弟なりしもその生得の性()同じからず、エサウは獵を好みて野の人となり、ヤコブは平和を愛して天幕に住めり(創世、二五・二一以下參照)
【クイリーノ】(槍を揮ふ者、勇士の義)、神に祭られし後のロムロスの一名。ローマの建設者なるロムロスの父は身分賤しき者なりしゆゑ、人々軍神マルテ(ギリシアにてはアレス)をばその父なりと稱するにいたれり
一三三―一三五
神の攝理諸天星辰の影響となりて世に及ぶにあらずば、子は親と全くその性を同うすべし
一三六―一三八
【汝の後に】九四―六行參照
【表衣となさん】最後に表衣うはぎを着て身の裝ひを終ふるごとく、この最後の教へを受けて汝の知識を全うすべし
一三九―一四一
人もしその性向に逆ひその本分にあらざる業をなし職を選べは、地の利を得ざる種の如く(『コンヴィヴィオ』三・三・二一以下參照)決して良き結果にいたらじ
一四二―一四四
【自然の据うる基】諸天の影響より生ずる性向


    第九曲

ダンテなほ金星天にありて暴君エッツェリーノ・ダ・ローマーノ三世の姉妹クニッツァ及びマルセイユのフォルコと語る
一―三
【クレメンツァ】クレマンス。カール・マルテルの女、一二九〇年頃生れ、一三一五年フランス王ルイ十世に嫁す、その死はダンテの後にあり
一説に曰く、こはマルテルの妻クレメンツァ(天、八・六七―七五註參照)の事にてその女クレメンツァの事にあらずと。前説後説何れにも難あり、「美しきクレメンツァよ、汝のカルロ」といへる言葉の上より見れば妻たる者に適はしく子たる者に適はしからず(スカルタッツィニの『ダンテ事典』參照)、されどマルテルの妻は一二九五年に死したればこれに向ひてかく呼びかくること穩當ならず、今しばらく前説に從ふ
【欺罔】特にマルテルの子ロベルトがナポリの王位を叔父ロベルトに奪はれしこと(天、八・六一―三註參照)
四―六
【汝等の禍】汝等カルロの子孫の受くる禍ひ。カルロ・ロベルトのうくる虐はとりもなほさずその一家その姉妹等の禍ひなればかくいへり
【正しき歎】虐ぐる者その虐の爲に正しき罰を受くること。但し王ロベルトの受くる罰とはたゞ一般にアンジュー王家の衰頽を指していへるなるべし
七―九
【生命】カール・マルテルの靈
【日輪】神。神は至上の善にましまし、萬物にその力に應じて福を與へ給ふ、かくの如くかの靈もまた神より眞の福を受く
一六―一八
【さきのごとく】カール・マルテルと語るの許を請へる時の如く(天、八・四〇―四二參照)
一九―二一
【速に】わが問を待たずして我に答へ、汝が神の鏡に映してよくわが心の中を見るを得とのあかしを與へよ
二二―二四
【さきに歌ひゐたる】天、八・二八―三〇參照。深處とは光の内部をいふ
二五―二七
邪惡の國イタリアの一部なる
【リアルト】ヴェネツィア市の一部を形成する島の名、ヴェネツィア市を代表す
【ブレンタ】アルピより出でゝヴェネツィア附近に注ぐ河(地、一五・七―九參照)
【ピアーヴァ】アルピより出で、ヴェネツィア市の東北に當りてヴェネツィア灣に注ぐ河
マルカ・トリヴィジアーナはヴェネツィア(南)とアルピの峰(北)の間にあり
二八―三〇
【山】ローマーノ山、山上に「エッツェリーニ」家の城ありき
【炬火】エッツェリーノ・ダ・ローマーノ三世。傳説に曰く、その母夢にマルカ・トリヴィジアーナの全土を燒盡せる一炬火を生むと見て彼を生めりと。エッツェリーノは第七獄第一圓にあり(地、一二・一〇九以下參照)
三一―三三
【一の根】同父母。父はエッツェリーノ二世、母はその第三の妻アデライデ・デーリ・アルベルティ
【クニッツァ】エッツェリーノ二世の末女、性放縱にして情人多く三たびその夫を更ふ、されど晩年フィレンツェに住して改悔の歳月を送り慈善の行爲多かりきといふ(十三世紀)
【この星の光に】金星の影響を受けて多情なりしため
三四―三六
我はかの多情の罪の爲に今わが心を惱まさずかへつて喜びをもてこれに對することをう、これ汝等世俗の人の解し難しとするところならむ
戀愛の情は一たび淨まれば即ち神にむかひて燃ゆる愛の火となる、クニッツァ改悔によりて濁れる愛をめる愛に變じ、自らその救はるゝにいたれるを喜ぶなり
【命運の原因】在世の日の罪、即ちクニッツァをしてさらに高き天の福を受けざらしめしもの。まづ神に赦され而して後自ら赦すなり
三七―三九
【珠】フォルコの靈(九四行以下參照)
四〇―四二
【第百年は】定數五百年を不定數多年の意に用ゐたり
【第二の生】死後世に殘る美名
四三―四五
【ターリアメントとアディーチェ】マルカ・トリヴィジアーナをその東(ターリアメント)西(アディーチェ)の境にある二の河にてあらはせるなり
【これ】善行によりて美名を竹帛に垂るゝこと
【撃たる】エッツェリーノ及びその他の暴君の壓制を受けて苦しめども
四六―四八
以下六〇行まで、己が郷國に關するクニッツァの豫言
【パードヴァ】註釋者曰く。一三一四年カン・グランデが皇帝の代理としてヴェツェンツァのギベルリニを助け、パードヴァのグェルフィを破りて沼(即ちバッキリオネ河がヴェツェンツァの附近にて造る沼)の水を紅に染めしをいふと
カーシーニの引用せるアンドレーア・グローリア(Andrea Gloria)の説に曰く。こは一三一一年以降におけるパードヴァ、ヴェツェンツァ兩市の爭ひをいへり、ヴェツェンツァ人水の缺乏によりてパードヴァ人に勝たんと欲しバッキリオネ(即ちヴェツェンツァを經てパードヴァに流るゝ河)の河水を他に轉流せしむ、パードヴァ人すなはち疏水工事によりてブレンタの河水の一部を導き、水なきバッキリオネの流域に流れ入らしむ(一三一四年)、ダンテの所謂水を變ずとは是なり、沼(palude)とはブルセガーナ附近の名にてブレンテルラの細流バッキリオネに落合ふところなり、パードヴァ人工事を施してこの細流を延長しかつ廣大ならしめ、由て以てブレンタの水を引けりと
四九―五一
【落合ふ處】トレヴィーゾ。シーレ、カニアーノの兩河こゝにて落合ふ
【或者】リッカルド・ダ・カーミノ。淨、一六・一二四に出づるゲラルドの子にてニーノ・ヴィスコンティの女ジョヴァンナ(淨、八・七〇―七二)の夫なり、一三一二年怨みを受けて不意に殺さる
ゲラルドの死は一三〇六年なれど一三〇〇年頃リッカルド既に實際の政治にたづさはりゐたりと見ゆ
【網】regna(島を捕ふる網)網を造るは殺害を企つるなり、傳へ曰ふ、リッカルド己が邸内にて將棊を差しゐたる時、相手の客、リッカルドの家僕と示し合せてこれにその主を殺さしむと
五二―五四
【フェルトロ】(フェルトレ)トレヴィーゾの北にある町
【牧者】アレッサンドロ・ノヴェルロ。一二九八年より一三二〇年までフェルトレの僧正たり、一三一四年七月フェルラーラの君にてグエルフィ黨なるビーノ・デルラ・トーザの請に應じ、己の許に保護を求めし多くのフェルラーラ人(ギベルリニに屬する)をこれに渡し、かれらを死に致らしむ
【マルタ】僧侶を罰する一牢獄の名として最有力なるは、(一)ボルセーナ湖畔の「マルタ」、(二)ヴィテルボの「マルタ」なり。されどダンテがこの中何れを指せるや或はまた他の「マルタ」を指せるや明ならず
近時このマルタをもて一般牢獄の名となすの説あり(一九二〇年一月二日發刊「タイムス」文藝附録トインピー博士寄書參照)、但しダンテがこゝに、重罪を罰する一牢獄の名もしくは一種の牢獄の名としてマルタの語を用ゐたりと見なす方語氣に力を添ふるに似たり、しはらく後日の研究に俟つ
五五―六〇
【黨派】グエルフィ
【かゝる贈物】かく恐ろしき贈物も、背信非道の行の盛なるマルカ・トリヴィジアーナの慣習としてはめづらしからじ
六一―六三
クニッツァは己が豫言の的確なるを記せんとてかく曰へり
【上方】エムピレオの天
【寶座】第三位の天使。直接に神の光を受けてこれを諸聖徒に傳ふるがゆゑに鏡といふ
【審判の神】神の審判は皆この天使を通じて我等に啓示せらるゝがゆゑにわが言眞なり
六四―六六
【さきのどとく】天、八・一九―二一參照
六七―六九
【知りし】クニッツァの言によりて(三七行以下參照)
【喜び】聖徒
七〇―七二
天上の喜びは聖徒の強き光に現はれ、地上の悦は人間の笑に現はる、たゞ地獄にては魂の内部の悲外部の黒さにあらはるゝのみ
七三―七五
【目神に入る】よく神を見るをいふ、聖徒達は神を見、その鏡に照してまたよく萬物を視るなり
【いかなる願ひも】言葉に現はれざる願ひも
七六―七八
【火】セラフィーニ(天、八・二二以下參照)。輝くが故に火といふ、六の翼あり(イザヤ六・二)
七九―八一
【もしわが】わが心の中を汝の知る如く汝の心の中を我知らば、換言すれば、我もし汝なりせば、問はるゝを待たで答ふべし
八二―八四
【地を卷く海】大洋
【を除きては】Fuor di フラティチェルリの説に從ふ。「より出でゝ」と解する人あり
【最大いなるもの】地中海
八五―八七
【相容れざる】discordanti 南北の反對面にある意の外、ヨーロッパとアフリカとの政教習俗等相異なる意をも含めしならむ(ムーアの『ダンテ研究』第三卷一二六頁脚注參照)
【日に逆ひて】西より東に
【さきに天涯と】西瑞[#「西瑞」はママ](ガデス)より見て天涯なる圈は東端(イエルサレム)より見て天心なり。西端の日出は東端の正午に當る、換言すれば、東西の兩端相距ること九十度なり
地中海の延長は四十二度に過ぎざれども、ダンテはその時代の謬見に從つて約九十度と見做しゝなるべし
さきにといへるは單に測定の出發點としての時を指せるにて先後あるにあらず、人もし地中海の一端より忽ち他端に到るをえば、西端にて地平線上に見えし太陽は東端にて子午線上に見ゆべしとの意なり(トーザー H.F.Tozer)
八八―九〇
【エブロとマークラ】イスパニアのエブロ河とイタリアのマーグラ河(ルーニジアーナにあり)。フォルコの郷里マルセイユは即ちこの兩河の間にあり
【短き】マーグラは六四キロメートル程の小河なる上、昔トスカーナとゼーノヴァ兩共和國の堺を劃せるはその一部に過ぎざりき
九一―九三
【己が血をもて】ブルートゥスがカエサルの命を受けてマッシリア(マルセイユ)の海戰に勝ち殺戮を行へる時(前四九年)の事を指す
【ブッジェーア】アフリカの北岸アルゼリアにあり、中台の要港(特にマルセイユとの通商上)としてこゝに擧ぐ、マルセイユと略その經度を同うするが故にかく
九四―九六
【フォルコ】(或はフォルケット)、ゼーノヴァよりマルセイユに移住せる商人の子、十二世紀の後半に生れ、トロヴァドル派の詩人となり、情事多し、後無常を觀じて僧となり、一二〇五年トロサ(フランスの南にある町)の僧正に任ぜられ、アルビジョア派(十二世紀に起れる異端派)の人々をいたく迫害し、一二三一年に死す
【象を】フォルコの象を捺すはその光を金星天に輝かすなり、金星天の象を捺せるはその影響によりて戀の火を燃せるなり
九七―一〇二
【ベロの女】ディド(地、五・六一―三註參照)、チュルス(聖書ツロ)王ベルスの女。アエネアスを慕ひて、亡夫スュカエウス及びアエネアスの先妻クレウザの靈を虐げしなり
【ロドペーア】フュルリス。トラキア王シトネの女、ロドペ山(トラキアにあり)の附近に住めるよりこの異名あり、傳説に曰、テセウスの子デモポオーン(デモフォーンテ)これを娶らんと約してその郷里アテナイに赴き期に至れども歸らざりしかば、フュルリス欺かると思ひて縊死すと
【アルチーデ】ヘラクレスの異名、ヘラクレス、テッサリア王エウリュトスの女イオレを愛して、その妻ディアネイラの嫉妬を招きネッソスの毒に感じて死す(地、一二・六七―九註參照)
【齡】pelo(毛)老ゆれば白くなるによりて齡の義あり、齡に適はしき間とは若き時の續く間をいふ
一〇三―一〇五
【再び心に】レーテの水に洗ひ去られて
【定め、整ふる力】星辰の影響を人に與へつゝ(定め)、遂に救に到らしめ給ふ(整ふる)神の力
一〇六―一〇八
我等は天地萬物をうつくしうする神の微妙の御働みはたらきを見、諸天の影響を下界に及ぼしこれを導いて向上せしめ給ふ神の善き攝理を認む
【かく大いなる神業】創造の御業
異本、「かく大いなる愛をもて」
【天界に下界を治めしむる】或ひは torna を轉らしむ(下界のまはりを)の意に解する人あり
異本、「下界を天界に向はしむる」
一一五―一一七
【ラアブ】ラハブ。エリコの遊女、ヨシュアの遣はしゝ二人の間者をかくまひ、その徳によりて己が一家災を免かる(ヨシュア、二、同六・一七、ヘブル、一一・三一、ヤコブ、二・二五)
【やすらふ】永遠の救ひをえ完き平和を樂しむをいふ
【その印を】その光をもて我等を照らす、而してその光は我等の中の最強き光なり
一一八―一二〇
詩人時代の天文學によれば地球の投ぐる圓錐状の影は金星にまで及ぶ(ムーアの『ダンテ研究』三卷二九―三〇頁參照)
註釋者曰く。是下方の三天においてダンテに現はるゝ諸靈が世に屬する種々の汚點をその生涯にとゞめし意を寓すと
【クリストの凱旋】天、二三・一九―二一參照
一二一―一二三
【左右の掌にて】合掌して。祈りをもて
【勝利】ヨシェア(ジョスエ)がエリコにて得たる
或曰く。左右の掌は釘にて打たれし左右の手即ちキリストの十字架にて勝利はキリストの勝利なり、中世ラハブは寺院の典型と見なされ、その家の窓に結びつけし赤き紐(ヨシュア、二・一八)はキリストの血の象徴と見なされたればかくいへりと、委しくはスカルタッツィニの註を見よ
一二四―一二六
【法王の】法王ボニファキウス八世が聖地をサラセン人の蹂躙に任じて顧みざりしこと(地、二七・八五以下並びに註參照)
【最初の榮光】最初の軍功即ちエリコの奪略
一二七―一二九
聖地と法王との事をいへるに因みて、以下寺院に屬する者の貪欲を責む
【者】惡魔。人類の幸福を嫉み、これを誘ひて罪に陷れ、歎きの本なる禍ひを殘せり(地、一・一〇九――一一參照)
【汝の邑】フィレンツェ。貪慾嫉妬のはびこれる處(地、六・四九、一五・六七――九參照)なれば惡魔これを建つといへり
一三〇―一三二
【詛ひの花】フィレンツェの金貨即ちフィオリーノ。その一面に百合の花形あればといひ(地、三〇・八八―九〇註參照)、僧侶等これを貪るあまりに人を正しく導かずしてかへつてこれを迷はしむれば詛ひといへり。羊羔とは老若を問はずすべて牧者の保護の下にある信徒を指す
一三三―一三五
【これがために】この貨幣を貪るによりて
【大いなる師】聖父の教へ
【寺院の法規】Decretali おしなべて寺院の法典を指す。僧侶等聖書及びこ高僧の著作を棄てゝひとりこの書に熱中するは單にこれによりて名譽地位從つて金錢を得んと欲すればなり
【紙端に】紙端に種々の書入れをなすをいふ
一三六―一三八
【これに】貨殖に
【ナツァレッテ】ナザレ。キリストの郷里にて、天使ガブリエルが處女マリアに神子の降誕を告げ知らしゝところ(ルカ、一・二六以下)。こゝにては聖地パレスティナを代表す
一三九―一四二
【ヴァティカーノ】ローマの名所にて聖ペテロの墓及びその宮殿のあるところ
【選ばれし地】神に選ばれて神聖となれる場所
【軍人等】ペテロの例に傚へる殉教者
【姦淫】キリストの新婦(寺院)の。姦淫より釋放たるとは貪慾の爲に亂れし寺院の政治を離るゝをいふ
但しこの解放の豫言明ならず、註釋者或ひはこれをボニファキウス八世の死(一三〇三年)とし、或は法王廳のアヴィニオンに移れる(一三〇五年)事とし、或ひはハインリヒ七世のイタリアに來れる(一三一一年)こととし、或ひは地、一・一〇〇以下及び淨、二〇・一三以下に出づる獵犬と同じとす


    第十曲

ダンテ導かれて太陽天にいたれば、哲人及び神學者の靈集まりてこれをかこむ、その一トマス・アクイナス、ダンテと語り、かつこれにその十一の侶の名を告ぐ
一―六
父なる神はその子キリスト及び聖靈によりて天地萬物を創造し給へり、而してこれらの被造物の間には極めて美妙なる秩序あるがゆゑにこれを觀これを思ふ者必ず神の大能を窺ひ知るにいたる
【第一の力】父なる神
【愛】聖靈。父と子とより出づ
神學上の一論爭點なり、ダンテはトマスその他所謂正統派オルソドックスの人々の説に從へり
【うちまもり】父なる神が子を通じて宇宙を造り給へるをいふ
【心または處】心に現はるゝものは靈に屬する物、空間に存在するものは物質に屬する物
【これを】この秩序を
七―九
【ところ】晝夜平分點。即ち黄道(太陽の年毎の運行)と赤道(太陽の日毎の運行)との截點(一三――五行註參照)
一〇―一二
【師】神
【目を】神はその創造の御業みわざよしとし給ふのみならず、常に萬物の安寧秩序を顧み給ふ
一三―一五
【圈】獸帶。即ち冬至線を南に、夏至線を北にし、黄道に沿ひて西より東に進み、春分秋分に至りて斜に赤道を截斷する想像の大圈
【呼求むる】せは獸帶の諸星のさま/″\なる影響を要するを指す
【かしこ】かの赤道の一點
一六―一八
もし獸帶かく傾斜せずして赤道と平行せば、星の影響に變化なく同一の影響同一の場所にのみ及び、他に及ばざるが故に(多くは空し)、さま/″\の影響によりて活動する下界はその活力の大部分を失ふにいたらむ
一九―二一
獸帶の南北に傾斜する度今より多きか少き時は、温度、季節、晝夜の長短、風雨霜雪の分布等悉く今と異なるにいたり、地上の秩序爲に亂れむ、地上の秩序の亂るゝは天の秩序の亂るゝなり
【上にも下にも】天にも地にも
或は二一行の mondano を地球上の意とし「上下」を南北兩半球と解する人あり、されど一七―八行に nelciel と qua gi※(グレーブアクセント付きU小文字) とを對此せるより見れば前説まさると思はる
二二――二四
【疲れざる】求むるのみにて得ざれば疲る
【椅子に殘り】研究の爲に殘りて
【少しく味はしめしこと】「師の技」につきてわがこゝに少しくいへること
二五―二七
【食む】思ひめぐらしてさとること
【わが筆の】我わが長き詩題に驅られこれに心專なる爲、今茲に詳かにこの一の事を述べがたし
二八―三〇
【僕】太陽
【天の力を】その上なる諸天よりうけし力を世界に與へ
【己が光をもて】即ちその※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)轉によりて人、時を量り知るをいふ
三一――三三
【處】前記の截點にあたる處にて、この處と合すといふはなほ白羊宮の星と列るといふ如し、太陽はこの時既に截點を過ぎて北に進みゐたればなり
太陽春分にいたりて白羊宮に入り、秋分にいたりて天秤宮に入る、神曲示現の時は春なれば、こゝにては前者を指せり
【螺旋】東より西に※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)ると共に赤道を中心として或ひは南或ひは北に傾くが故にその道螺旋状を成す(『コンヴィヴィオ』三・五・一四二以下參照)、こゝにては北に向ひて登る螺旋
【早く】春分以降夏至にいたるまで太陽北に進むに從つて日は次第に夜よりも長し
三四―三六
【我この物と】我は太陽天に入りたり、されどあまりに早くして、登り行けることを知らず
【思ひ始むるまでは】思ひはからずも心に生じて、思ひのあることを知れどもその生じゝ次第を知らざる
三七―三九
【善よりこれにまさる】一天より、さらに高き一天に導き
四〇―四二
【色によらで】太陽と色の異なるによりてその天の中に明かに見ゆるにあらで、光のこれにまさるによりてしか見ゆるとは
【そのもの】太陽天にてダンテに現はるゝ賢哲の諸靈
四三―四五
【信じ】人たゞかく強き光あることを信じ、いつか天堂にて自らこれを成るを願ふべし
三七行より四五行に亘る三聯ムーア本にては「あゝ己が爲す事の、時を占むるにいたらざるほどいと早く、一の善より、まされる善に移りゆく(愈※(二の字点、1-2-22)美しくなる)ベアトリーチェはその自ら輝くこといかばかりなりけむ、わが入りし日の中にさへ色によらで光によりて現はるゝ者にありては、たとひわれ、才と技巧と練達を呼び求むとも」云々とあり
四六―四八
人は未だ太陽よりも強き光を見しことなければ、かゝる光を想像し能はざるも宜なり
四九―五一
【尊き父の】神の第四の族、即ち第四天(太陽天)の諸靈
【氣息を嘘く】氣息いきは聖靈なり、父と子より出づ(一―三行參照)。神は三一の眞理をかれらに示し給ふ、賢哲といへども地上においてはこの至奧至妙の理を極むるあたはず、今天上にて親しく神の啓示をうけ、これに達するを喜ぶなり
五二――五四
【天使の日】見えざる靈の日即ち神
六一――六三
ベアトリーチェは己が忘られしことを怒らずかへつて滿足の微笑を見せたれば、その目の輝は、專ら神に向ひゐたるダンテの心を呼戻し、彼をしてその身邊の事物を見るにいたらしむ
六四―六六
【勝るゝ】太陽の光よりも
【われらを】ダンテとベアトリーチェとを取卷き、かれらを中心として一圓形を畫けるなり
六七――六九
月のまはりにかさの現はるゝさままたかくの如し
【暈り】水蒸氣を多く含み
【暈となるべき糸】暈となるべき光の糸
【ラートナの女】月。ゼウスとラートナの間の女ヂアーナを月と見なせるなり(淨、二〇・一三〇――三二並びに註參照)
七〇―七二
【王土の外に】王土内ならでは知るに由なき。言葉にては傳へ難き
註釋者曰く。繪畫彫刻等極めて貴重なる美術品類の國外輸出を禁ずることあるより、この此喩出づと
七三―七五
【光】諸靈
【かしこに】自ら天堂に到るべき準備をせずして天上の美を知らんとするも何ぞよくその望を達せむ
七六―七八
【日輪】靈
【極に近き星の如く】極に近き星が極を中心とし常に同一の距離を保ちてめぐる如く、諸の靈はベアトリーチェとダンテとを中心としてめぐれり
七九―八一
註釋者曰く。こは譬へを舞の歌(ballata)にとれるなり、號頭おんどとり一つ處にとゞまりつゝまづ最初の一節を歌ひその歌終れば圓形を造りて立てる一群の舞姫皆舞ひめぐりつゝこれを繰返し歌終りて止まる、次に號頭なほも一つ處にありて次の一節をうたひその歌終れば全群また新に舞ひめぐり、かくして次第に舞ひ終るにいたる、この舞方ダンテ時代において特にトスカーナに行はると(カーシーニ註參照)
八二―八四
【その一】「燃ゆる日輪」の一
【恩惠の光】神恩の光。まことの愛これより出づ
八五―八七
【また昇らざる】一たび天上の幸福を味へる者はたとひ地上に歸るとも僞りの快樂に迷はず道心堅固なるがゆゑに死後必ずまた天に登る(淨、二・九一――三並びに註參照)
【階】天より天と昇る階
八八―九〇
教へをもて汝の求知の念を滿足せしめざる者は、その自然の性を枉ぐる(自由ならざる)こと海に注がざる水の如し
水は皆低きにつきて海に流れ入らんとする自然の性を有する如く、我等は皆汝の願ひを滿さんとする性向を有す
九一―九三
【花圈】ベアトリーチェとダンテとをまろく圍める一群の靈。ダンテはこれらの靈の誰なるやを知らんと願へるなり
九四―九六
我は聖ドミニクス派の僧なりき
【迷はずばよく肥ゆ】世の誘惑に從はずは高徳に達す(天、一一・二二以下參照)
九七―九九
【兄弟】宗教上の
【アルベルト】アルベルトゥス・マグヌス。中古最も卓越せる哲學者兼神學者の一、一二〇六年シェヴァーベン(天、三・一一八―二〇註參照)のラウインゲンに生れ、一二八〇年ケルン(レーノ即ちライン河畔の町)に死す、彼がドメニコ派の人となれるは一二二二年の頃にてそれより二十幾年の後ケルンにて教へを授く、著作多し、その學識のいかに博かりしやは百學の師(Doctor universalis)の名あるによりて知りぬべし
【トマス】トマス・アクイナス。アクイーノ(ローマとナポリの中間モンテ・カシノの附近にある町)の伯爵家の出、一二二五年の頃父の領地ロッカセッカに生る、初めナポリの大學に學び、一二四三年ドメニコ派の僧となり、後ケルンに赴きてアルベルトゥスに師事しまた彼と共にパリに到る、一二四八年以降ケルン、パリ、及びナポリの各地にてその業を授け、一二七四年リオンの宗教會議に連らんためナポリを出で途にて病をえて死す(淨、二〇・六七――九並びに註參照)
トマスは中古の大知識にて著作多し、就中その『神學大全』(Summa theologiae)は今猶ローマ寺院の寶典たり、ダンテの神學説に甚だ顯著なる影響を與へしもこの書なり
一〇三―一〇五
【グラツィアーン】グラティアヌス。有名なるイタリアの寺院法學者、十二世紀の人、その編纂せる(一一四〇年頃)寺院法即ち所謂「グラツィアーノの寺院法」として世に知らるゝものは、聖書の本文、使徒の信條、宗教會議の法規、法王の令旨並びに諸聖父の拔萃文より成り、僧俗二法の調和をはかれる(二の法廷を助けし)ものなりといふ
一〇六―一〇八
【ピエートロ】ペトルス・ロムバルドゥス。(ロムバルディアなるノヴァーラ地方の生れなればこの名ありといふ)。十二世紀の始めに生れ、一一六〇年に死す、その編成せる教法集四卷(Sententiarum Iibri IV)はアウグスティヌス及びその他の諸聖父のキリスト教理に關する論説を集めしものにて實に寺院のと稱すべく、爾後この書の研究者註釋者甚だ多く、ペトルスは爲に教法先生(Magister sententiarum)の名にて廣く世に知らるゝにいたれりといふ
【貧しき女】二個の小錢を神に獻げし寡婦(ルカ、二一・一以下)
こは教法集の序詞に「かの貧しき女の如く、我等の貧窮の中より若干そこばくの財を主に獻げんと」云々とあるに因みてなりといふ
一〇九―一一一
【第五の光】ソロモン。ソロモンはダヴィデ王の子にてイスラエルの王なり
【その消息】ソロモンの魂の救はれしや否や(列王上、一一・一以下參照)は神學者間にとかくの議論ありし點なりければ(ヴァーノン『天堂篇解説』第一卷三五四―五頁參照)その眞の消息を聞かんと切に願ふなり
【戀より】特に「雅歌」の作者として
一一二―一一四
【眞もし眞ならば】眞その物なる聖書にして誤りなくば
【これと並ぶべき者】「我汝に賢き聽き心を與へたり、されば汝の先に汝の如き者なかりき、また汝の後に汝の如き者興らぎるべし」(列王上、三・一二)
一一五―一一七
【光】ディオニュシオス(デオヌシオ)。使徒パウロの教へを聽きてキリスト教徒となりしアレオパーゴの法官(使徒、一七・三四)。かの有名なる諸天使階級論(De caelesti Hierarchia)はディオニュシオスの作(實は後代の作)と見なされたれば天使の性云々といへるなり
一一八―一二〇
【小さき光】オロシウス(但し異説あり委しくはムーアの『批判』四五七頁以下を見よ)。イスパニアの高僧なり(四―五世紀)、聖アウグスティヌス(天、三二・三四――六註參照)の勸めに從ひキリスト教に對する異教徒の非難を論駁せんとて排異教徒史七卷を著はす。小さしといへるはその著作第一位にあらざればなるべし
【用ゐに供へし】アウグスティヌスの勸め及び助言に從つてかの書を著はし、アウグスティヌスをして自ら筆を執るに及ばざらしめし意
【信仰の】原文、「キリスト教時代の」
一二四―一二六
【聖なる魂】アニキウス・マンリウス・セヴェリヌス・ポエティウス、イタリアの政治家兼哲學者、紀元四八〇年頃ローマに生れ、五一〇年ローマのコンスルとなる、ゴート人の王テオドリクス、ボエティウスがゴート人の手よりローマを救ひ出さんと謀れるを疑ひこれをパヴィアに幽閉し後死刑に處す(五二五年)、その獄中に著はせる『哲學の慰め』(De consolatione philosophiae)はダンテの愛讀書の一なり(『コンヴィヴィオ』二、一三・一四――六參照)
【一切の善】神
一二七―一二九
【チェルダウロ】パヴィアなる聖ピエートロの寺院にてボエティウスの墓所
【殉教】異教徒の苛責の下に死せるがゆゑに寺院は彼を殉教者となせり
一三〇―一三二
【イシドロ】イシドールス。シヴィリア(イスパニアの)の僧正、六三六年に死す、博學にして著作多し
【ベーダ】イギリスの高僧兼史家(七三五年死)、著作多し、就中『英國寺院史』最もあらはる
【リッカルド】リシャールス。コットランド人にてパリ附近なる『聖ヴィクトル』僧院の院主なり(一一七三年頃死)、ダンテはカン・グランデに與ふる書の中(五五三――四行)にてその著『瞑想論』を擧げたり。人なる者云々とは彼の所論の神秘的超人的なるをいふ
一三三―一三八
【死の來るを】瞑想によりて世の無常を觀じ、解脱の道を死に求むるなり
【藁の街】(Fr. rue du Fouarre)パリの街の名、哲學の諸學校この街にありきといふ。藁の街にて教ふといふはなほパリ大擧の教授となれりといふ如し(カーシーニ)
【嫉まるゝべき】己が説の爲に敵をつくるの謂ならむ、但しその如何なる説なりしやは明ならず、註釋者曰く。
シジエーリ、パリの宗教裁判所にて異端の罪を受け、抗辯の爲イタリアのオルヴィエート(その頃ローマの法廷ありし處)にいたり、かしこにて一僧侶の手に斃ると(スカルタッツィニ註參照)
【シジエーリ】シジエーリ・ド・ブラバンテ。ベルギーの人にてアヴェルロイス系の哲學者なりといふ、傳不詳(十三世紀)
一三九―一四四
【神の新婦】寺院。新郎はキリスト
【朝の歌を】mattinar なる語は元來戀人等(男)がわが戀ふる女の家の前にてあさまだき歌をうたふ意なりといふ、かれらがかゝる歌をうたひて戀人の愛を得んとするを、寺院の會集が禮拜し祈祷して神の恩寵を受けんとするに譬へしなり
【時】早朝
【時辰儀】めざまし時計の一種なるべし、曳きかつ押すとは齒車の一が小槌を曳きかつ押してりんを鳴らす意か、この時代に用ゐし自鳴鐘の構造明らかならざるがゆゑに定かにいひがたし。その秩序正しき運動と美妙の音とを諸靈の舞と歌とに此せり
【神に心】敬虔なる信徒の心を、神を愛するの愛にて
一四五―一四八
【輪】十二聖徒の輪


    第十一曲

トマス・アクイナス、聖フランチェスコの物語をなす
一―三
【推理】天上の福は人間至上の欲望なるべきに、人の理性完からねば推理を誤り、地上の物をもて人間至上の欲望となす
四―六
【醫】aforismi(箴言)名醫ヒッポクラテス(地、四・一四三)の著書『箴言』に因みて醫學の意に用ゐたり
【僧官】神に事へん爲ならで富に事へんため。
【詭辯】他を欺きて
一三―一五
【いづれの】前曲に出づる十二の靈のいづれも。トマスの語れる間舞をやめし十二の靈、再び舞ひつゝベアトリーチェとダンテのまはりを一周し、後又再び止まれるなり
一六―一八
【光】トマスの
【いよ/\あざやかに】天、五・一〇三以下參照
一九―二一
わが輝は神より出づ、かくの如く我は神を視て(即ち神の鏡にうつして)汝の疑ひの本を知る
二二―二七
【さきに】天、一〇・九六
【また】天、一〇・一一四。但し surse(興る)と nacque の(生る)との差あり(オックスフォード版)
學會本、前後同じ(ムーア『用語批判』四六〇頁以下參照)
三一―三三
【新婦】寺院。新郎はキリストなり
【大聲によばはり】十字架上に(マタイ、二七・四六及び五〇等)
【血をもて】「主の寺院、即ち主が己の血をもて買給ひし寺院を」云々(使徒、二〇・二八)
【愛む者】新郎キリスト
三四―三六
「左右の」一は智をもて導き、一は愛をもて導く、次聯註參照
三七―三九
【熱情】フランチェスコの愛の強きをいへり、セラフィーノは愛に然ゆる天使なり
【知慧】ドミニクスの智の深きをいへり、ケルビーノは智に富む天使なり
愛は新婦をしていよ/\夫に忠實ならしめ、智はこれをして安んじて(異端邪説等の恐れなく)夫の許に往かしむ
四〇―四二
【一人】フランチェスコ
【目的は一】寺院の保護指導
四三―四五
まづフランチェスコの生地アッシージの地勢を陳ぶ
【トゥピーノ】アペンニノより出で、アッシージの南を流れ、キアーシオと合してテーヴェルに注ぐ小川の名
【ウバルド尊者】ウバルド・バルダッシーニ。一一二九年より一一六〇年までグッビオの僧正たり、その以前グッビオ諸山の一なるアンシアーノ山に卜居しゐたりといふ
【選ばれし】ウバルドは後再びかの地に隱遁してその一生を送る意圖ありしも果さゞりきといふ
【水】キアーシオ河。アンシアーノ山より出でアッシージの西を流れてトゥピーノと合する小川
【高山】スパーシオ山(アペンニノの分脈)。アッシージはこの山の西の腰にあり
【肥沃の】葡萄、橄欖の産地なれば
四六―四八
【ペルージア】アッシージの西の方約十五マイルにある町
【ポルタ・ソレ】アッシージに面するペルージアの門をかく呼べることありといふ。スバーシオの山々は夏期日光を反射し冬期雪に蔽はるゝが故に寒暑の影響をペルージアに及ぼすといへり
【ノチェーラとグアルド】スバーシオ山の後方即ち東(アッシージの東北)にある二邑
【重き軛】grave giogo ペルージアに從屬してその壓制に苦しめるをいふ
或曰く。こは「不毛の山地」の義にて、東方の地の急坂多く耕作の利なきをいひ、四五行の fertile costa と對照せしめしものなりと
四九―五一
【嶮しさの】山坂の急ならざる處より
【日輪】イタリアの高僧聖フランチェスコ(一一八二―一二二六年)
【これ】我等の居る處なるこの太陽
【をりふし】常に同じ地點より出づるにあらねばかくいへり。この太陽が夏期最強の光を放ちて東の方インドのガンジス河口より現はれ出づる如く
五二―五四
【アーシェージ】Ascesi アッシージ(Assisi)の古名
五五―五七
【地に】彼の例に傚ひて徳に進むの念を世人に起さしめしなり
五八―六〇
【女】貧(七三――五行)
【父と爭ひ】貧を選べる爲父の不興を蒙れること
この頃フランチェスコ衣類と馬とを賣りて得たる價を一寺院に喜捨し、爲に父の譴責を受けしことありといふ
六一―六三
【己が靈の法廷】アッシージの僧正の法廷。フランチェスコはこの僧正と父との前にて父の財産を繼がじと誓ひたり
六四―六六
【最初の夫】キリスト(七〇――七二行註參照)
六七―六九
【アミクラーテ】アミュクラス、ダルマーチアの貧しき漁夫、一茅屋と一艘の舟とはその全財産たり、カエサル對ポムペイウス戰亂の餘波を受けて略奪盛に行はれ人心恟々たりし時アミュクラス獨り赤貧と親しみ臥するに戸を閉づることなし、一日カエサル、アドリアティコ海を渡りてイタリアに赴かんためその茅屋に至れるに彼さらに驚かず、客のカエサルなるを知りて猶容易に船を出すを肯はざりき(『コンヴィヴィオ』四、一三・九七以下參照)
【益なく】かの女の益とならざること。世人はかゝる物語を聞くとも貧を愛するにいたらざれはなり
七〇―七二
【マリアを】ヨハネ傳一九・二五參照
【クリストとともに】キリストは貧に生れて貧に死し給へり、「狐に穴あり、そらの鳥に巣あり、されど人の子には枕する所なし」(マタイ傳八・二〇)
七三―七五
【長き言】五八―七二行にいへること
七六―七八
フランチェスコが清貧と親しみ深くこれを愛せることは世の教訓となり、人多くその例に傚ふにいたれり
【愛、驚、及び敬ひ】世人は愛と驚嘆と畏敬とをもてかれらの和合喜悦を見、遂に自ら聖なる思ひを懷くにいたれり
七九―八一
【ベルナルド】ベルナルド・ダ・クワンタヴァルレ。アッシージの富豪、フランチェスコの最初の弟子となりてその産を貧者に分與す
【沓をぬぎ】師の例に傚ひ素足にて歩むこと
【大いなる平安】清貧の生活
八二―八四
【未知の】清貧は世人未知の富、裕に果を結ぶ(眞の福の果を)寶なり
【エジディオ】アッシージの人(一二七二年死)、その著 Verba aurea(金言)今に傳はる
【シルヴェストロ】アッシージの僧
【新郎】フランチェスコ。新婦は貧
八五―八七
フランチェスコがその派の規定に對して法王インノケンティウス三世(一一九八年より一二一六年まで法王たり)の准許をえん爲、貧(戀人)と弟子達(家族)とを伴ひローマに赴けること
【卑しき紐】フランチェスコ派の僧侶が帶となせる節多き細紐(地、二七・九一―三註參照)
八八―九〇
【ピエートロ・ベルナルドネ】フランチェスコの父にてアッシージの富める商人。フランチェスコはその生れの貴からざるをも、その姿のみすぼらしきをも恥とせず
九一―九三
【嚴しき】フランチェスコ派の規定の峻嚴にして容易に守り難き意を含む
【最初の印】フランチェスコがインノケンティウス三世より假准許を受けしは一二一〇年頃の事なりといふ
九四―九六
【天の榮光の中に】地上の僧達に歌はれん(フランチェスコ派の人々その師の生涯を合唱にて歌ふ習ひありたれば)よりは天にて諸天使諸聖徒にうたはれんかた
但しトマス自ら天にてかの聖者の一生を歌へるものなるがゆゑに異説多し
九七―九九
【永遠の靈】聖靈。神の恩寵ホノリウスを通じて准許をフランチェスコに與へ、その聖なる志を遂げしむ
【オノリオ】法王ホノリウス三世(一二一六年より一二二七年まで法王たり)。フランチェスコが彼より正式の准許を受けしは一二二三年の事なり
【法主】archimandrita 群羊のかしらの義より轉じて僧官の意に用ゐらる、こゝにてはミノリ派(地、二三・一――三)の首僧即ちフランチェスコ
一〇〇―一〇二
年代順よりすれば九三行に續く。一二一九年フランチェスコは十二の高僧と共に十字軍に從つてエジプトに赴き、この地のサルタンを改宗せしめんためその目前にてキリストの教へを宣べたりといふ
【從者等】使徒及びその他の聖者達
一〇三―一〇五
【草の實】宣教の收穫
一〇六―一〇八
【粗き巖】テーヴェルの上流とアルノの上流との間即ちカセンティーノにあるアヴェルノ山。傳へ曰ふ、フランチェスコこゝにて四十日の斷食をなせりと
【最後の印】聖傷みきずあと(Stimmate)なり、法王インノケンティウス及びホノリウスよりうけし准許の印に對して最後といふ、傳に曰く、一二二四年フランチェスコ、アヴェルノの岩山にてキリストに祈願をさゝげその受難の苦しみをわが身に知らせ給へと念ず、キリスト、セラフィーノの姿にてこれに現はれ、聖者の手足及びあばらに己が傷痕を印し給ふと
一〇九―一一一
【かゝる幸に】聖傷の痕を身に受くるほどの恩惠を下し給ひし神
一一二―一一四
【女】貧
一一五―一一七
【他の】貧の懷以外の。傳に曰く、死の近づくを知るやフランチェスコはその愛する寺院なるサンタ・マリア・デーリ・アンジェリに移るを願ひ、かしこにて貧に對する最後の愛を表はさんため衣を脱し地上に臥してその生を終ふと
一一八―一二〇
聖フランチェスコの人となりより推して、これとともに寺院指導の任に當れる聖ドメニコの人となりを知るをえむ
【ピエートロの船】寺院。異端邪説迫害殉教等の浪荒き大海を渡りてまことの信仰の湊にむかふ
一二一―一二三
【教祖】ドミニクス派の基を起せる聖ドミニクス
【良貨を】ピエートロの船といへるに因みて。高徳の人となりて寶を天上に貯ふること
一二四―一二六
【群】ドミニクス派の僧侶等
【新しき食物】名譽地位ある僧職
【山路】salti 山や林の間の牧地
一二七―一二九
【乳】教への糧
一三〇―一三二
【牧者に近く】教祖の教へに從つてその派の戒律を守るをいふ
一三三―一三五
【微】朧にて解し難きこと
一三六―一三九
【願ひの一部は】疑ひの一は解くべし
【削られし木】わが削り取れる木片(迷はずは云々といへる言葉)の元木(出處即ちドミニクス派の僧の墮落)。但し異説多し
【革紐を纏ふ者】ドミニクス派の僧(この派の僧は革紐を帶とす)即ちわれトマス
異本、「非難」。これに從へば「迷はずばよく肥ゆるところといへる言葉の中の非難をさとるべければなり」


    第十二曲

トマス語り終れる時、ダンテとその導者とを圍み繞れる他の一群の靈あり、其一ボナヴェントゥラ・ダ・バーニオレジオ聖ドミニクスの物語をなす
一―三
【焔】トマス・アクイナス
【碾石】ベアトリーチェとダンテとを圍める十二の靈。天、一〇・九二にこれを花圈はなわといへる如く圓く圍み、かつは水平に※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)轉するがゆゑに碾石ひきうすといへり
七―九
【笛】靈の樂器即ち諸聖徒の聲
【元の輝が】直接に照らす光線が反射する光線よりもつよく輝く如く
【われらのムーゼ】世の詩人。
【われらのシレーネ】世の謳歌者うたひて(淨、一九・一九―二一註參照)
一〇――一二
【侍女】イリス。タウマスの女(淨、二一・五〇)、虹の女神にて神話の神々特にヘラの使者たり
【二の弓】二重の虹
一三―一五
【外の弓】二重の虹の中、外の大なる虹は内の小さき虹の反映なりと信ぜられたればかく
【流離の女】ニンファ・エーコ(反響)。空氣と地の間の女、の嫉みによりて言語の自由を失ひ、たゞ人の物言ふを聞きてその最後の言葉を繰返すに過ぎず、このニンファ、ナルキッソス(地、三〇・一二八)を見これを戀ふれども及ばず、形體全く憔悴してたゞ骨と聲のみ殘り、後骨は岩に變じ、聲のみ今に生くといふ(オウィディウスの『メタモルフォセス』三・三三九以下參照)。流離はニンフェの常なり、(淨、二九・四―六參照)
外部の虹の、内部の虹より生るゝを、反響の、聲より生るゝにたとへしなり
一六―一八
【契約】ノア(ノエ)の洪水の後、神がノアとその全家及びこれと共にありし鳥獸と契約を立て、世に再びかくの如き洪水あらしめじと言ひ給ひしこと(創世、九・八以下)、虹はその契約のしるしなり(同九・一三―七)
一九―二一
【薔薇】二重の圓を作れる諸聖徒
【相適ひ】歌をも舞をも合せしをいふ
二二―二四
【祝】諸靈が倶に歌ひ互ひに照らしてその福を表はすこと
二八―三〇
【星を指す針】北極星を指す磁針 磁針は一二一八年既にイタリアの航海者に知られたり、一三〇二年に至りフラーヴィオ・ジョイアこれを完成す(パッセリーニ)
三一―三三
【我】ボナヴェントゥラ(一二七――九行註參照)
【彼の爲に】聖ドミニクスの偉大なるをあらはさんため(天、一一・四〇―四二、一一八―二〇參照)
三四―三六
【一のをる處には】ひとりの事のいはるゝ時には他のひとりの事もいはれ
三七―三九
【軍隊】信徒等。これをアダムの罪より救ひ、これが陣立を新ならしめんとて救世主血を流し給へり
【旗】十字架
【遲く、怖ぢつゝ、疎に】遲きは熱心の足らざるなり、怖るは異端の爲に信仰の動搖するなり、疎なるは數少きなり
四〇―四二
神はかく覺束なき信徒の名をはかり給ひ
四三―四五
【さきに】天、一一・二八以下
【己が新婦】寺院。「神の新婦」(天、一〇・一四〇)
四六―四八【西風】即ち春風
【ところ】イスパニア
四九―五一
【浪打際より】グァスコーニア灣(ビスケー灣)より
【時として】夏至の頃。太陽は南に向ふに從つてかの灣に遠ざかるが故にかくいへり、長くは日の長きをいふ
【萬人の】南半球には住む人なければ
五二―五四
【カラロガ】カスティールの町(今のカラホルラ)。聖ドミニクス(ドメニコ)の生地なれば幸多きといへり
【從ひ從ふる獅子】城に從ひ城を從ふる獅子。カスティール王家の紋所は二頭の獅子と二個の城より成る、即ちその半には獅子城の下にあり(從ふ)、半には獅子城の上にあり(從ふる)
五五―五七
【クリストの】キリスト教の熱愛者
【敵につれなき】一〇〇―一〇二行參照
【剛者】イスパニアの高僧聖ドミニクス(一一七〇―一二二一年)
五八―六〇
【豫言者】夢によりてわが兒の常人ならざるべきを判ぜるなり。傳へ曰ふ、ドミニクス未だ胎内にありし時、その母夢に一匹の小犬を生む、これに黒白の斑あり、口には燃ゆる炬火たいまつをくはへゐたりと(黒白の斑はドミニクス派の僧服を表はし、炬火は聖者の熱情をあらはす)
六一―六三
【聖盤】洗禮の水を容るゝうつは。洗禮によりて信仰と縁を結べるなり
【相互の救ひ】ドミニクスは信仰の有力なる保護者となり、信仰はドミニクスを永遠の福祉に導く
六四―六六